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2022年6月(No.328)

英国紅茶シリーズ④
ラジオ3443通信「仰天! 英国紅茶の歴史」

 

ラジオ3443通信は、2010年から毎週火曜10:20~fmいずみ797「be A-live」内で放送されたラジオ番組です。
 ここでは2013年6月4日OAされた、英国紅茶にまつわる話題をご紹介いたします。

117 仰天! 英国紅茶の歴史
An:

 三好先生、前回は英国の紅茶が19世紀の半ばに、それまでのぜいたく品から庶民の飲み物になったお話と、そのきっかけとなったのがロバート・フォーチュンという、プラント・ハンターだったとの話題を聞かせて頂きました。今回はそのフォーチュンについて、教えて頂けるんですね?
Dr:
 その前に江澤さん、紅茶にまつわるエピソードについて、2~3追加しておきます。
 江澤さん、この「紅茶を受皿で」という本の表紙(図1)を見てください。挿し絵のことですけれど。

表紙
 図1


An:
 あれっ、先生。ロンドンの街角で、男の人がお茶を飲んでます。本のタイトルから、きっとこれは紅茶なんでしょうけど。
 でも先生、どっかおかしいような……。先生、先生。この人は紅茶を、ティー・カップじゃあなくって、受皿で飲んでいますよ!
Dr:
 この絵を良く見てください。この人は把手の付いた茶碗、つまりティー・ボウルから受皿に紅茶を注いで、飲んでいるでしょう。
 江澤さん。日本では緑茶はどうやって、飲むでしょう?
An:
 少なくとも、受皿に移して飲むなんてことはしません。把手の付いた茶碗も使いませんね。
Dr:
 紅茶は、滅菌できるくらい煮沸したお湯で煎れます。それに対して緑茶は……。
An:
 少し冷ましたお湯でないと、緑茶は味が出ません。ああ、だから!?
Dr:
 この「紅茶を受皿で」という本には、著者が現在の英国で、実際に受皿で紅茶を飲む女性を目撃したエピソードが記されています。それはつまり、紅茶は熱湯に近い温度なので、冷ましながら飲む習慣があった。その裏付けとなるのが、表紙の挿し絵なんです。
An:
 先生! 先生のこれまでの歴史のお話と、ピッタリ符合しますよね。スゴイッ!
 ……ところで先生。先生の今のお話に、ティー・ボウルって言葉が出て来ました。似たような言葉で、「フィンガー・ボウル」って名前を、江澤は聞いたことがあるんですけど。どう違うんでしょう?
Dr:
 フィンガー・ボウルっていうのは、洋食のフル・コースを食べた後に、指を洗うための小さな金属性のお碗です。
 これも有名なエピソードですけれど、英国の女王が海軍の士官たちと会食したときに、礼儀知らずの下士官がフィンガー・ボウルの水を、飲み水と間違って飲んでしまったんだそうです。もちろんとんだ不作法ですから、会食の参加者は皆、一瞬固まってしまいました。
 ところが、そこはさすがに英国女王です。ご自分も、そのフィンガー・ボウルの水を手に取ると、「下士官に乾杯!」と音頭をとって飲み干してしまったんです。
An:
 それじゃその下士官は、恥をかかずに済んだんですね。さすが、英国女王です。
Dr:
 ところがこのエピソードから判ることは、当時の英国では食事の後に手を洗う必要があった、という事実です。
 江澤さん、これは何を意味しているでしょうか?
An:
 まさか、料理を手掴みで食べたなんてこと……、あり得ませんよね!
Dr:
 さすがは1を聞いて10を知る江澤さん。そのとおりです。
 現在、私たちがいわゆるフル・コースの西洋料理を頂くときには、スプーン・ナイフ・フォークが揃っています。
An:
 ナイフやフォークなんて、2~3本揃っていることもあります。
 江澤はあれには、ホントに困ってしまって、ですね。どれから使って良いやら……。お腹が空いているのに、目の前のおいしそうな食事に手が出せず、結構あせっちゃうんです。
Dr:
 江澤さんの怯える、スプーン・ナイフ・フォークのセットが普及したのは、実は18世紀頃のことなんです。
 江澤さん。江澤さんだって、ロビン・フッドがナイフとフォークを使いこなして、シャーウッドの森で宴会を開いたなんて、想像できませんよね(笑)?
An:
 たしか映画のロビン・フッドは、肉の固まりを手掴みで頬張っていました。
Dr:
 ですから江澤さん、そうした宴会セットが習慣となるまで、料理は現在のフル・コースのように、各自一人前ずつサービスされるのではなく、山盛りの肉を手でつかんで口に運んだんです。
An:
 それじゃ、手が汚れますね。
Dr:
 そのために提供されたのが、フィンガー・ボウルで、指を洗って食事を進めた習慣が、今でもサービスの中に取り入れられているんです。
An:
 なんだか江澤には、信じられないような気がします。
Dr:
 その証拠に、キリストの「最後の晩餐」。有名ですよね。
An:
 レオナルド・ダ・ヴィンチの名作ですもの、ね。
Dr:
 ダ・ヴィンチだけじゃあなくって、古くから多くの画家が題材にして名画を描いて来ました。
 それを見ると、古い時代の「最後の晩餐」(図2)ほど食器は少なく、1495年から1498年にかけて描かれたダ・ヴィンチのそれが、もっとも食器類は多いんです。

図02
 図2 レオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」1495年


An:
 ヘェー!?
Dr:
 いずれにしてもこれら「晩餐」の絵では、テーブル上に各自のお皿がおいてあり、絵の真ん中には大きな盛り皿があります。けれども、たまにナイフは見られますが、フォークもスプーンも見当らないんです。
An:
 じゃあキリストの時代の人々は、ナイフもフォークも無かったので、手で食事を鷲掴みにして食べたんでしょうね?
Dr:
 ですから、ロビン・フッドもその仲間たちと、手掴みで獲物を口に運んだんだと思いますよ。
 ところで英国には、ですね。洗礼式、つまりキリスト教の儀式のときに、スプーンをプレゼントされる習慣があって、身分によってその材質が異なったんです。このため、裕福な家に生まれたことを「銀の匙をくわえて生まれた」と言うんです。
An:
 銀の食器! ステキですね。
Dr:
 次回はそのお話です。お楽しみに。

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