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2022年6月(No.328)

小児の中耳炎シリーズ⑧
ラジオ3443通信「水泳時の中耳炎対策」

 

ラジオ3443通信は、2010年から毎週火曜10:20~fmいずみ797「be A-live」内で放送されたラジオ番組です。
 ここでは2012年8月21日OAされた、小児の中耳炎についてご紹介いたします。

82 水泳時の中耳炎対策
An:
 三好先生、前回は滲出性中耳炎で鼓膜に換気目的のチューブが入っていると、プールで中耳腔に水が入ってしまう、とのお話を伺いました。それって、スイミング・スクールならともかく、学校の授業で水泳のある子どもさんたちは、すごく困っちゃうんじゃないかって、心配になります。
 実際のところは、どうなんでしょうか。
Dr:
 その点について、全国の耳鼻科医がどう考えているのか、アンケートをとったことがあります。
 江澤さん、日本の耳鼻科医は、滲出性中耳炎の子どもさんのスイミングに、どう対応しているのか、その鋭い第六感で当ててみてください。
An:
 スイミングって、すごく子どもの心身の発達に役立ちそうな気がします。
 お医者さんたちが、その利点をまるっきり無視することは、なさそうな感じがするんですけど。
Dr:
 さすが江澤さん、今回もベスト・アンサーですね(笑)。
 300人くらいの耳鼻科医にアンケートを送ったんですけど、ね。
 回答のあった238人の耳鼻科医で、水泳を全面禁止としたのは、約3割の78回答だけだったんです。
An:
 へぇーっ。それじゃ中耳炎でも、水泳は問題ないと。それが耳鼻科医の、フツーの対応なんですね?
Dr:
 もちろんそれには、条件が付いていましてですね。
An:
 条件ですって? それは先生、何でしょう?
Dr:
 それは、水泳時の耳栓の使用と、スイミング・キャップの併用、なんですよ。
An:
 江澤は、水泳している子どもさんの、そんな姿を見かけたことがあります。
Dr:
 それがなぜ、滲出性中耳炎でチューブ挿入をしている子どもさんの、耳に良いのか。
 江澤さんなら、お分かりですよね?
An:
 ええっと、先生少し待ってくださいよ。
 水泳で耳に水が入るのはぁ……。口から息を吸って鼻から吐いてやる呼吸で、うっかりプールの水を大量に吸い込むと、ですね。耳管を通った水が、中耳腔に流れ込むためでしたよね?
Dr:
 それはストローで、グラスのジュースを吸い込むようなものですから(図1)。

図01
 図1


An:
 そうそう、普段は鼓膜が邪魔して水は中耳腔まで流れ込まないんでしたよね。
Dr:
 だけど、鼓膜にチューブが差し込まれていて、耳管がスースー通じていると……。
An:
 プールの水は簡単に、中耳腔まで無抵抗で流れ込んじゃう。
Dr:
 そこで出口に耳栓をして、耳管の通りを邪魔してやると?
An:
 先生! プールの水は、中耳腔まで流れ込まなくなっちゃいます!
Dr:
さすが、1を聞いて10を知る江澤さん! 耳栓が、きちんと耳穴を閉鎖してくれるなら、水泳中にも水は中耳腔に入り込まず、中耳炎が悪化することもありません。
An:
 それで分かりました。耳鼻科医の先生たちは、滲出性中耳炎で鼓膜にチューブ(図2)が入っていても、スイミングは差し支えないと、そう判断してるわけですよね?

図02
 図2


Dr:
 そのためには、耳栓が完全に耳穴を塞いでいなくっちゃあ、意味ありませんけどね。
An:
 それで、スイミング・キャップの併用が役立つんですね!
Dr:
 耳栓も完全な密閉型を使用して、その上にキャップでそれをかぶってしまうなら、鼓膜にチューブが入ってても耳管は蓋をされた状態になります(図3、4)。

図03
 図3

図04
 図4


An:
 それで子どもさんたちは、あんなスタイルでスイミングするんですね。
Dr:
 ただし、ここでお話しした完全密閉型の耳栓は、少し条件が難しいですよ。
An:
 先生、「完全」って言うのは、いつでもどこでも、やっぱり難しいような気がします。
Dr:
 理想を追求するなら、ね。江澤さん。
 一人ひとり耳型をとって、耳栓を特注するのが一番なんですけどね。
 それができなきゃ、イヤー・パティって呼ばれる、シリコーン製の耳栓を使って頂けると、結構役立ちます。
An:
 そしてその上から、キャップをしっかりかぶるんでしたよね。
Dr:
 そうです。滲出性中耳炎で鼓膜にチューブが入っている子どもさんたちも、それでスイミングに打ち込んでもらうことができます。
An:
 良いことをお聞きしました、三好先生。
 江澤も、中耳炎の子どもさんたちに、存分に水泳を楽しんでもらいたいですから、ね。
Dr:
 耳栓っていえばね、江澤さん。笑い話のような実話がありまして。
An:
 事実は小説よりも奇なり、でしたものね。
Dr:
 インターハイの水泳大会が仙台で開催されたときに、選手として出場する高校生がですね。耳栓が手元になかったらしくって、ですね。チューインガムを耳に入れて、水泳大会に出たんですよ!
An:
 チューインガム? それで?
Dr:
 自分で取れなくなっちゃって、ですね。耳の中にガムを入れたまま、急病人扱いで当院を受診しまして、ね(笑)。
An:
 ガムは普通、口でかむものですから、ね(笑)。耳でかむのは、さすがの江澤にも、不可能です。
Dr:
 江澤さんにできないことが、一般の高校生にできるわけは、ありません(笑)。
 まぁ、無事にガムを耳から摘出することができましたから、ね。笑い話で済むんですけどね。
An:
 リスナーの皆様には、そんなエピソードもお聞き頂いて、二度と三好先生を困らせたりしないようにしてくださいね(笑)。
 三好先生、今回も暑い夏にふさわしい、面白い話題をありがとうございました。
Dr:
 次回のお話も、楽しみにしていてくださいね。

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