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2022年6月(No.328)

難聴児・者が困っています‼
医療従事者向けのマスクアンケートを実施しました2


はじめに
 以前、3443通信321号(2021年11月)では、長引くコロナ渦の対策としてマスク装用が日常化したいま、相手の表情や口元の動きが見えないために困惑している難聴児・者の実態を調査した「難聴児・者に対するコロナ対策マスクアンケート」をご紹介しました。

今回は、その第二弾として医療従事者向けのアンケートを実施しました。
 これは難聴児・者へのアンケート結果を分析した際、医療機関などにおける難聴者対策が浸透していないとの回答が寄せられ、もしかして医療従事者にも難聴者の困惑する実態があまり知られていないのではないかと思った事がきっかけです。
 ここでは、当院に通う難聴患者さまと当院スタッフから寄せられたアンケート結果を、ご報告していきます。

1.補聴器外来の難聴患者様3より(70代 男性)
 とても頷ける内容です。マスクをするようになってから、補聴器をしているので全く聞こえないのではないが、表情が見えないことに不便さを感じています。また、圧迫感があり顔にピッタリつけると息苦しく感じることもあります。車の運転などに集中できないと感じて、外してしまうこともあります。マスクをすることで集中力が保てなくなっているので、言葉の聞き取りにも影響がでて疲れる場面が増えるのが危惧されます。
 1日も早く、マスク生活から解放されたいです。

2.補聴器外来の難聴患者様4より(30代 女性)
 今まで別段支障なく聞こえていた人の声が聞き取りにくくなり、何度も聞き返すことが増えた。耳で聞いているようで、実際は顔を見て口元をたよりに話を聞いていたのだと実感している。
 介護の仕事中に感じる事としては、コロナ下でマスクをするようになり、介護施設の利用者の不安が日に日に強くなっているように感じる。言葉が離せない方、強度の自閉症がある方などさまざまな障害を抱えている方がいるが、中でも難聴があり補聴器を装用している方は、気さくだった性格が臆病になり、恐る恐る話し掛けてくるようになった例もある。本人に尋ねると「こわい」と話していた。

マスクで隠れた表情が読み取れないため、コミュニケーションに恐ろしさを感じていると言う。目だけが見えるというこれまでにない環境に曝され、コミュニケーションに困難を感じている人たちの恐怖心や不安感をこれでもかと煽ってしまっているようだ。
 また、マスク常用の重要性を理解して貰うことが難しく「なぜ?」と聞かれ、「コロナだから」と言っても通じない。冬場であれば寒くて風邪も流行るのでマスクをしましょう、と話のイメージが湧くが、通年となると納得して貰えない苦労が出てくる。

そんなある時、実験的にフェイスシールドのみで利用者に接してみたところ、その効果は絶大だった。暗く曇りがちな表情はみるみると晴れ渡り、瞳は輝き、どんどん近くに寄って来てくれるようになった。
 その反面、利用者の家族からは「感染が怖いのでマスクをして欲しい」との要望もあり、その対応に苦慮している。
 また、利用者の中には相手の顔をまるでパズルのように記憶している方もおり、マスクによって肝心のパーツが足りない(見えない)状況が飲み込めず、日常生活が困難となり、心身不安定となってしまうケースも少なくない。

 そうした足りない要素を補うべく「あいうえお表」や絵や文字の指差しといった工夫をすることで、不安解消に努めている。
 加えて、いままで週末に帰宅していた利用者がコロナ対策(接触制限)のために帰宅できず、ストレスが増加している中でのマスクストレスもあり、どのように対応して良いのか、また現状を理解してもらえるのか困惑しているので、ぜひ多くの方にこうした実態をお伝え頂きたい。

3.総務課スタッフ2より
 難聴者と健聴者の相互理解には、双方の歩み寄りや理解が必要不可欠です。
 ですが、本来病気や障害とはコンプレックスを感じやすく、その事実を隠す傾向が強いと思います。その上で情報発信をしていくと言うのは、そうした精神的障壁をまず下げることが、発信力の向上に繋がるのではないかと感じます。

一つには、多くの方に好感を持たれている人(芸能人や、今ならユーチューバーなど)が、耳マークを活用したコンテンツを発信し、認知への起爆剤になって貰うのが一番早いのではないかと思われます。困難な場合にこそ急がば回れ。自助努力をするだけの理由作りや、コンプレックスを表に出しても良いのだと思える社会環境の醸成こそが、自発的な解決に繋がっていくと思っています。

4.看護課スタッフ2より
 コロナ渦で、マスク着用が常となっているこの頃。難聴者でなくとも、聞き取りにくい状況は日常場面で多々あります。私も、スーパーやコンビニなどのレジで、マスク+ボード越しに金額を言われたり、質問されても聞き取れずに聞き返すことがあります。
 それ自体は些細なことで、セルフレジの普及でだいぶ解消されて来てはいるものの、難聴の方はなおさら不便を感じている事でしょう。
 コロナはまだ終息しないでしょうし、“Noマスク”に戻ることがあるのかも不明です。

病院では事前に患者さんの情報があるため、コロナ前でも大きく口を動かしたり、目の前や聞こえる方の耳元で話したり、コロナ渦でも筆談、ジェスチャーなどで難聴の方に対応しています。
 それは特別なことでもなく当然の対応なのですが、日常生活の中では情報がなければ判断しにくい、という現状もあります。

難聴であることを知られたくない、という心理は周囲の意識も影響しているのかも知れません。難聴=マイナスと思う、思われている、との意識から特別視されたくない。隠したい。そういう心理に至るのかも知れません。病院内と同じくらい、聞こえないという事を言える社会が理想的です。
 〇〇してあげる、という無意識の善意が、重荷と感じる方もいるかもしれません。して当然という事が伝わるような接し方を心掛けたいと思いました。

耳マークは、確かにあまり病院以外で目にする事がありません。妊婦さんバッジのように自分の事を周囲が理解出来るような便利な物であることを周知し活用されることを期待します。
 また、透明マスクはそれが主流になれば、コロナ前の対応が可能になるので、ぜひ安価で高品質な物が供給されることを願います。

コロナ渦、マスク着用に関わらず、補聴器などの聴力を補う機器類も、メガネやコンタクトレンズと同じくらいに安価に利用できる社会になれば良いな……と思いました。

5.医事課スタッフ1より
 新型コロナウイルス対策としてコロナ渦以前では考えられないほど、当たり前の風景となってしまったマスクの常時装用。耳鼻科に勤務する身としては、患者様のやりとりにとても心苦しく感じてしまうことが多々あります。
 特に難聴者の方は、マスク着用により口元が見えず、相手の表情が読めない、言葉が不明瞭になると言ったことが起こります。

相手の表情が読めないのは難聴者に限らずですが、マスク着用での対応による齟齬が生じることは気遣い・思いやりによってだいぶ改善されるのではないかと考えております。

例えば、話す相手に顔・体を向ける。「あなたの話を聞いていますよ」と感じてもらえるように頷く、聞こえない相手に対してイライラした態度を取らないなど。目の前の相手に理解を示し、安心感を持ってもらうことが人として会話する上で、とても大事なことではないかと思います。

それでも何か対策を、というのであれば冊子にもあるように耳マークがもっと普及されるよう定期的に新聞に掲載・視聴の多い時間帯にテレビで取り上げる。若い方に向けてSNSを利用するなどして世間にアピールすれば良いのではないでしょうか。
 ただ、そもそもの相手に対する態度を改めない限り、耳マークも無意味なものだとは思います。

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ノーサイドクリニック研修レポ」(3443通信 No.159 再掲載)
 本号にも引用したこの記事は、当院の工藤技師が、共同研究者として本マスクアンケートにご協力いただきました田中美郷先生の療養施設に、研修へ赴いたときのレポートです。

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