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2022年7月(No.329)

 

英国紅茶シリーズ⑤
ラジオ3443通信「銀の価値と英国の水質事情」

ラジオ3443通信は、2010年から毎週火曜10:20~fmいずみ797「be A-live」内で放送されたラジオ番組です。
 ここでは2013年6月11日OAされた、英国紅茶にまつわる話題をご紹介いたします。

118 銀の価値と英国の水質事情
An.
 三好先生、前回は紅茶の話題から、銀のスプーンのお話を聞かせて頂きました。
 あっつい紅茶にミルクや砂糖を入れて、銀色のスプーンで掻き混ぜて頂く……なんて、想像しただけでもワクワクします。
 でもその紅茶を冷ますために英国では、紅茶の茶碗つまりティー・カップから受皿に注いで、それから飲む習慣があったんですね。
Dr.
 ですから1杯の紅茶のことを、“a cup of tea”ではなく、“a dish of tea” と呼ぶんだそうです。
An.
 へぇ、1皿の紅茶ですか?
Dr.
 それと、紅茶を掻き混ぜるスプーンですが、「銀の匙をくわえて生まれる」という言葉が、裕福な家庭に生まれたことを意味する。前回そう、お話ししました。
An.
 それって、ステキですね!
Dr.
 でも実はこれには、実用的な意味合いもあって……。
 古代からその当時の英国まで、家督争いなどを巡る暗殺には、砒素という毒が良く使用されたんです。
An.
 えっ! 毒物ですか。
Dr.
 ところが銀の食器は、砒素に反応して変色する特徴がありまして……。
An.
 銀のスプーンで、毒物が鑑定できるんですね!
Dr.
 裕福な家庭では毒殺予防のために、銀の食器が多用された。そんな現実的な背景もあったんです。
An.
 豊かな英国の家庭にも、そんな隠された秘話があるんですね。
Dr.
 もちろん銀という貴金属には、財産としての価値もあったんです。
 ところで江澤さん。金と銀ではどちらが、価値が高いでしょうか?
An.
 金1Kgと銀1Kgですか、三好先生?
Dr.
 いえいえ、金1万円分と銀1万円分……(笑)。そういう冗談ではありませんので、どうぞ勘違いしないでください(笑)。
An.
 江澤はてっきり、アルキメデスの原理のお話かと(笑)。
Dr.
 アルキメデスについては、いつか、また。
 ところで、例え話をしましょう。
 江澤さん、日本の諺に「沈黙は金、雄辯は銀」という言葉があります。
An.
 あぁそれ、知ってます。
 たしか、『男は黙って……』シリーズのコマーシャルの一部で、おしゃべり男は安っぽく見える。そんな意味だったんでしょうか?
Dr.
 実はこの言葉は、現代日本のコマーシャルじゃなくって、ですね。
 紀元前384年生まれの、アテネの雄辯家(ゆうべんか)・デモステネスという人の言葉でして、ですね。
An.
 えっ、先生。紀元前のギリシャですか?
Dr.
 江澤さん。その頃のギリシャ、いえいえ全世界では、金と銀のどちらが高価だったでしょうね?
An.
 先生、もちろん金の方が銀より価値があったんですよね! キラキラしてますし。
Dr.
 ところがどっこい、江澤さん。金の値段が銀より高くなるのは、1533年にインカ帝国がスペインによって滅ぼされ、インカの銀が大量に採掘されたためなんです。
An.
 それじゃあ、それ以前は金よりも銀の値段が高かった!?
Dr.
 そうです。まして、インカ帝国滅亡の2000年前のギリシャでは、当然銀の価値は金よりはるかに上でした。
An.
 せ、先生。「沈黙は金、雄辯は銀」という言葉の真の意味は?
Dr.
 そうです。さすがは1を聞いて10を知る江澤さん。
 雄辯こそは、民主主義の本道であり、議論を通じてこそ国民の意志が確認できる。黙っていては、議論にならない。そんな意味だったんです。
An.
 先生! 江澤のジョーシキがすべて引っ繰り返ってしまいました。この言葉は、そういう深い真意を込めた内容なんですね。
 いやー、世界は深いですね。
Dr.
 江澤さん。江澤さんとの午後のお茶会に、実にふさわしいお話ですね(笑)。
An.
 先生から頂いた紅茶の味わいが、一段と染み渡ります。
Dr.
 ところでその茶のお話なんですけど、ね。英国では、以前お話ししましたように、水は不潔で飲めなかったんです。
An.
 英国ではそれまで、何を飲んでいたんでしたっけ?
Dr.
 エールという、英国ビールが主だったようです。このエールには、ホップが入っていないので、本物のビールのような苦みが乏しいんです。
An.
 本物のビールじゃなくっとも、それなりのお値段だったんじゃないんですか?
Dr.
 汚染されていない水も、ビールと同じくらい高価だったんです。
『英国生活物語』(図1)という本には、こう書いてあります。江澤さん、出番です(笑)。

図01
 図1

An.
 「水道の本管は大きな町にしか通っていなかった。たとえば1840年頃のバースのある住民はさほど良質でもない水のために、4分の1マイル以上も足を運んだ。〝これは上等のビールと同じで貴重品でした。ですから、料理などに使うわけにはいきません。料理や洗濯の水を汲んで来るのは、川からです。もっとも濁っていて変な臭いがしますが。いろいろ汚いものが流れて来ますから。〟」
 これは、当時の住民の証言なんですね。
 先生、先生。江澤には信じられません。
Dr.
 当時の英国の衛生状態が、江澤さんにも良く理解して頂けるでしょう。
 ですから飲み物として、ビールは決して高価ではなかったんです。
An.
 先生、お話も盛り上がっていますが、今回はお時間です。
Dr.・An.
 本日は、ありがとうございました。

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