3443通信3443 News

2022年7月(No.329)

 

難聴児・者が困っています‼
医療従事者向けのマスクアンケートを実施しました3


はじめに
 以前、3443通信321号(2021年11月)では、長引くコロナ渦の対策としてマスク装用が日常化したいま、相手の表情や口元の動きが見えないために困惑している難聴児・者の実態を調査した「難聴児・者に対するコロナ対策マスクアンケート」をご紹介しました。

 前々回・前回に引き続き、今回もその第二弾として医療従事者向けのアンケートを実施した、その結果です。
 これは難聴児・者へのアンケート結果を分析した際、医療機関などにおける難聴者対策が浸透していないとの回答が寄せられ、もしかして医療従事者にも難聴者の困惑する実態があまり知られていないのではないかと思った事がきっかけです。
 ここでは、当院に通う難聴患者さまと当院スタッフから寄せられたアンケート結果を、ご報告していきます。

1.補聴器外来の難聴患者様5より(70代 女性)
 年齢的に行動範囲、生活も限られたものになってきました。難聴のせいもあると思います。
 地域の集まり(高齢者)では難聴であることを知らせています。理解していただいていると思いますが、常時、皆さんの意識にあるとは思えません。難聴の程度までは分かってもらうのは難しいし、うまく伝える手段がないのです。

「目は口ほどにものを言う」

 そんな諺がありますが、それには同意できません。
 マスクによって隠されてしまった目以外の表情、その情報を頼りに難聴者は日々コミュニケーションを取っているのです。マスク生活は社会で捉えられている事柄、それ以上に難聴者の暮らしを大きく変えた。それを分かってもらいたいと切に思います。

2.補聴器外来の難聴患者様6より(80代 女性)
 マスク生活になってから色々な状況を、より目で読み取ることが多くなった。
 普段の生活では、バスや電車内での会話が聞き取れなかったり、病院や店頭で呼ばれてもすぐに気が付かなかったりすることがある。特に、仕事中に人の話を聞き取る際に、様々な困りごとに出合う。

 なんと言っても困るのは、表情が分かりにくくなったこと。目元を見ていま、何を考えているのか。どんな気持ちなのかと、以前よりも注意深く読み取るようになった。
 そして、これまでより時間と負担がかかるので不安になってしまう。
 マスクをすると人相が変わるので、例え知人であっても一目で誰か分からないことがある。

 この2年余りで、マスク顔が当たり前になってしまい、マスクを外した時の顔に違和感を覚えるになってしまった知人すらいる。また高齢者になると余計に判断がしにくくなり、言葉でのやりとりが上手くいかずにすれ違うことが多くなると感じる。なので、常に気を配ってはいるものの、意図とは違った伝わり方をしたり、言葉が足りなかったりすることが心配になる。

 マスク生活は、難聴者にとってマイナスが多いが、苦手な人との会話を切り上げることが出来たり、身嗜みに注ぐ労力を節約できるなど、プラスに働く場面も実際にはある。総じて人同士の交流がし辛いことに間違いはないでしょうね。
 自分は難聴であることを相手に伝えることは、お互いの為にも良いことだと思う。中には聞こえにくいことを隠したい人もいるが、恥ずかしがらずにどんどん訴えて言った方が良いと思う。それが当たり前に受け入れられる社会になれば良いと思う。

3.秘書課スタッフ6より
 難聴者の方が自分の障害を発信するには勇気が必要だと思います。
 ですが、その意思表示により健常者と難聴者の距離は間違いなく縮まるだろうと思っています。

4.看護課スタッフ7より
 コロナ禍において、マスクの装用が日常となる中、相手の口元や表情が見えず、難聴者が困っているであろうとは感じていたものの、アンケートの結果からは想像以上の方が実際に困っている実態が浮き彫りになっていました。
 耳鼻咽喉科に勤める者としては、普段接している患者さんの困惑した顔が脳裏に浮かび、少なからず心が痛みました。

 読話ができなかったり、マスクがフィルターとなって声が聞き取りにくいと言ったことは想像がつきましたが、声掛けに振り返っても相手が誰だかわからない、補聴器・メガネ・マスクの三重装用は耳が痛いといった困りごとには思い至らず、新たな気付きとなりました。

 難聴者に対して、筆談したり、マスクをずらす・外すといったことは、耳鼻咽喉科においては珍しいことではありませんが、難聴者が実際に困っている場所は、日常生活を営む場ですから、まずはマスク生活で困っている人々がいることを、世間一般の多くの人々に知ってもらう必要を強く感じます。

 相手の労を要する筆談や、感染リスクが懸念される中でマスクを外すよう頼むといったことは、難聴者にとって大きな心の負担と思われます。コストの面などから普及の進まない透明マスクですが、多くの人々が透明マスクを使用するような世の中になれば、難聴者にとって今よりも生き易い社会と言えるのではないでしょうか。
 口元や表情が見えないことは、幼児の言語能力やコミュニケーション能力の取得にも影響を与えていると言われています。透明マスクのニーズが高まれば、コストの問題も多少解決されると思います。

 また、気象庁の会見(図1)で、担当者が口元の見えるマスクで会見していた姿は記憶に新しいですが、このような形で、マスク生活で困っている人々がいることや透明マスクの存在を社会の人々の認識してもらうことも大切だと感じます。
 透明マスクが広く普及するようになるには、まだ時を要すると思いますが、まずはマスクで困っている人々がいるという認識が、多くの人々の共通認識となることを願い、私も家族に伝えることから始めようと思います。

図01 気象庁の会見
 図1 透明マスクをつけた気象庁の報道官


5.医事課スタッフ8より
 新型コロナウイルスが発端によるマスク着用での生活は、国民全員に浸透しており、もはや新型コロナウイルスが落ちついたとしても、マスク着用をやめる人は少ないのではないかとも思うようになりました。

 院長の寄稿を読んでまず感じたことは、口元を見て会話内容を把握する方が自分の想像より多かったことです。寺田家TVのユカコさんのチャンネルを見たことがありますが、彼女は読唇術を使い、スムーズに会話を楽しんでいます。読唇術には積み重ねの練習が必要だとは思いますが、口元を見て会話をするのは読唇術をされる方がほとんどだと思っていました。私たちが同音異義語を会話の流れで判別するように、難聴者の方とって口元や表情で(聴力だけはなく)会話の流れを読み取ろうとする機会が多いことを知りました。

 外観では難聴者と分かってもらえない事もマスク生活の上ではストレスになっているかと思います。身近にあるコンビニでの買い物も「箸は必要なのか」「レジ袋は必要なのか」等、聞かれる項目が多く、難聴者であると分かってもらえれば割り箸(レジ袋)を見せながら話しかけることが出来ます。
 その点を考えると耳マークの普及によって相手に分かってもらえる反面、「難聴者だと目立ちたくない・恥ずかしい」気持ちにも私たちは寄り添っていかなければなりません。耳マークが一般的に十分に普及し、マークの有無による負の感情が無くなって欲しいと願います。

 また、筆談等相手の協力が必要であることも難聴者の方にとって気に病んでしまう部分であると思います。アプリの開発も進んではいますが、社会で普及することによって相手の負担も少なくなり、難聴者にとってもお願いがしやすい、心苦しく感じなくなるといった効果が出てくると考えられます。

 私たちがまず出来ることはこういった難聴者の声を広めることであると考えます。私にはアプリの開発や透明マスクの開発は出来ませんが、声を広めることにより社会全体で意識してもらうよう、自分自身が意識して行動していきたいと思います。

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