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2022年8月(No.330)

 

英国紅茶シリーズ⑥
ラジオ3443通信「エールに取って代わった紅茶」

ラジオ3443通信は、2010年から毎週火曜10:20~fmいずみ797「be A-live」内で放送されたラジオ番組です。
 ここでは2013年6月18日OAされた、英国紅茶にまつわる話題をご紹介いたします。

119 エールに取って代わった紅茶
An.
 三好先生、前回は英国で紅茶を飲む習慣が定着するまで、英国の人々は水ではなくエールと呼ばれる英国ビールを愛飲していた。それは英国の水は余り清潔ではなかったし、清潔な水はエールと同じくらい高価だったからだ、と教えて頂きました。
 でも三好先生、日本人より英国の人々はお酒が強いのかも知れませんけど……。毎日朝から晩までビールを飲み続けて、酔ってしまわないんでしょうか?
 ヘーキで、お仕事できたんでしょうか?
Dr.
 当時の英国の水は飲料として、不潔で役に立たなかったとご説明しました。
 牛乳も、冷蔵庫が無かったので、バイ菌の繁殖が起こり易く、感染の元でした。もっとも危険だったのは、牛乳が結核菌の感染源になっていた事実です。
An.
 健康にはとっても良いイメージのある牛乳ですが、それじゃ当時の英国の人たちは、困っちゃいますね!
Dr.
 それに対してビールは、穏やかな殺菌作用がありますし、カロリーがありますからエネルギー補充に役立ちます。
 当時の英国の一般的な食事が、栄養学的に不十分だったので、ビールで補っていた一面もあります。
An.
 ビールは栄養補強に、きっととっても役立ったんでしょうね(笑)!
Dr.
 私たちも、1日の仕事をすべて終えて、グッと飲み干すビールの1杯には、精神的な栄養補充の役割があるって、実感しますから(笑)。
An.
 リラックスしますし、ね。
Dr.
 ところが当時の英国では、エールのお陰で朝からそうしたリラックス状態が、1日中継続していたんです。
 資料を読みますと、英国宮廷のある年代記作者が、「紳士も淑女も朝、昼、夜と、頭がボーッとしていた」と書いていました。
An.
 まさか日常の大切なお仕事まで、そんな状態で勤務していたわけじゃあ、ないんですよね?
Dr.
 江澤さん。ここに「茶の世界史」という本があります。それを読むとですね。
 「舟造りも、法律の起草も、車を引くのも、服を縫うのも、契約に署名するのも、田野を走るのも、とにかく社会のどの水準における活動も酔った状態で行なわれた。エリザベス1世は朝食時に強いエールをしこたま飲み、御幸の際は、土地のエールが女王の御意に叶うかどうかを確かめるために、毒味役が先遣させられた。こうして見ると、当時のイギリス社会がそれでもうまく機能していたのにはまさに驚くほかない。また時としてそれが機能しなかったわけも、おそらくよく理解できることだろう。」
An.
 そんなことが、現実にあったんですね!
Dr.
 その状態に輪をかけたのが、オランダからのジンの輸入です。
An.
 ジンって、とても強いお酒ですよね。アルコール度40%くらいの。
Dr.
 やはり「茶の世界史」の本によりますと、当時英国のすべての男女および乳児や子どもたちは、毎日ジン・グラス1杯と缶ビール2.5本、飲んでいた計算になるそうです。
An.
 先生この本にはこう、書いてありますよ。「安価で即効性のあるジンがあれば、貧しい人々はつかのま、飢え、寒さ、そして彼らの生活のあらゆる面に染みとおっている絶望感を忘れることができた。ジンは成人男子と女子に飲まれただけでなく、子供にも与えられた。直接には赤ん坊を寝かしつけるために、間接にはジンを飲む乳母の乳から。」信じられません!
Dr.
 そんな社会環境では、いかに当時英国に産業革命が進行していても、機械化した業務はとても不可能です。
An.
 危険ですものね。
Dr.
 そこでお茶に注目が集まり、アルコールの入っていない飲料として、お茶の需要が急増したんです。
An.
 お茶のブームが起きたんですね?
Dr.
 ところがその頃、お茶は当時の中国つまり清の国では広東、すなわち今の広州市からしか輸出されませんでした。
 しかも、中国内は一種の鎖国状態でしたから自由な売買はできず、そのせいでお茶はとっても高価だったんです。
An.
 日本のお茶は英国では、売れなかったんでしょうか?
Dr.
 日本のお茶は緑茶で、当初英国でもニーズがあったみたいなんですけど。
 けれども英国では、お茶にミルクと砂糖を入れる習慣がその後流行となって……。
An.
 緑茶にミルクと砂糖を入れるのは、ちょっと考えものですからね。
Dr.
 高価だったお茶は、模造品も多く出回っていたらしいんですけど。紅茶よりも緑茶の方が、模造品を作り易かったらしいんです。
An.
 それじゃ、緑茶は信用をなくした?
Dr.
 それもあって、紅茶が英国では主流となったようです。
 でも江澤さん。紅茶だって、模造品や混ぜ物が皆無だったわけじゃありません。
An.
 完全に、というのは何でも難しいですから、ね。
Dr.
 紅茶は、先日江澤さんにおみやげにしたように、小分けにして手ごろな大きさの缶に詰められています。
An.
 あの缶もステキですものね。
Dr.
 あの缶には、実用的な意味がありまして。紅茶が量り売りをされていた状態では、中国から英国へ至るルートの、どこで混ぜ物が混入されるか、判りません。
 そこで最初から、原産地であの小さな缶に紅茶を詰め、そこで封印をしてしまえば・・・・・・。
An.
 まがいものの混入される可能性は、先生それこそゼロですね!
Dr.
 そうした工夫の結果、江澤さんのお手元には、しゃれた缶入りの本場の紅茶が届くことになったんです。
An.
 江澤の紅茶は、そうした歴史の積み重ねだったんですね(笑)。
Dr.
 お話は続く、です。次回もどうぞお楽しみに!

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