3443通信3443 News

2022年8月(No.330)

 

難聴児・者が困っています‼
医療従事者向けのマスクアンケートを実施しました4


 以前、3443通信321号(2021年11月)では、長引くコロナ渦の対策としてマスク装用が日常化したいま、相手の表情や口元の動きが見えないために困惑している難聴児・者の実態を調査した『難聴児・者に対するコロナ対策マスクアンケート』をご紹介しました。

 今回は、その第二弾『医療従事者向けのアンケート』を実施した結果を、3443通信No.327からの連載でご紹介しています。
 これは難聴児・者へのアンケート結果を分析した際、医療機関などにおける難聴者対策が浸透していないとの回答が寄せられ、もしかして医療従事者にも難聴者の困惑する実態があまり知られていないのではないかと思った事がきっかけです。
 ここでは、当院に通う難聴患者さまと当院スタッフの『難聴児・者に対するコロナ対策マスクアンケート』読後の感想をご報告していきます。

1.補聴器外来の難聴患者様7より(70代 女性)
 両中等度難聴(HA装用・耳穴型)、視覚障害あり。
 私は耳が聞こえないのに加え、目も見えにくい。
 表情の変化が分からないマスク姿は、これまでより生活の場をもっと狭く、もっと遠くにした。
 視覚障害があるので、手元はほとんど見えない。料理や掃除などの家事はある程度できるが、洗濯用洗剤の表示や食品の成分表示、レシピなど説明書の類は、ある程度の明るさと大きさがないと全く読めない。
 買い物に行っても、果物か野菜かは判断できるが値段が見えない。誰かと一緒でないと外出することが出来ない。

 最近、しばらくぶりにバスに乗ったのだが、行き先表示も見えない上に、アナウンスに耳を澄ませてもはっきり分からないことがあり不安だった。
 自分に話しかけてくれる人がいたとして、相手は知り合いなのかそうでないのか、何を言わんとしているのか判断できず戸惑うことが多い。
 ある時、見えるだろう、聞こえるだろうと思われて冷たい対応をされた。とても悲しくなった。きっとその相手は「なんだろうあの人は……」と、思ったに違いないし、そう自分も感じた。

 自分から不自由さを伝え、助けを求めようと働きかけようとしても、我慢してしまうことが多い。迷惑そうにされたり無下に扱われたりする過去がよぎっていますので。声をかけたい場面で、嘘をつきたくないと自分を護ろうとする。これは決して不自然なことではない。そうして、気付かれず誤解されたままに埋もれてしまう困りごとは多い。
 マスクアンケートの結果は頷ける部分が多い。色々な人に読んでもらいたい。

2.補聴器外来の難聴患者様8より(70代 女性)
 マスク生活になってから、よく聞こえないために相手に近づいたり、補聴器をしている方の耳を近づけたりする動作を多くするようになったと自覚している。
 補聴器なしでは会話が難しいので、補聴器が使えないときは筆談をしている。補聴器をするようになって5年ほど経ち、補聴器が生活の一部になっている。

 最近、補聴器の調子が悪く相手の話が聞き取れず、身振り手振りでなんとか伝えようとしたことがあったがとても不自由な思いをした。
 自分のことは話せても相手に伝わらないことが不安。相手も面倒がるだろうと感じると余計につらい。迷惑に思っているのではと気にしてしまう。
 今後は、そのような事態に備え単語カードを持ち歩き、簡単な会話ができるようにしようと思っている。高価な物だが、補聴器も呼びがあると良いのかもと思っている。

 特に不安になるのは、病院でのやりとりである。
 マスク越しの医師の話が聞き取れずに、検査や診察に支障が出ることがいま一番の困りごとである。
 テレビの会見で知ったが、口元が見えるマスクをしてみたい。
 できれば鼻をしっかる覆えるマスクで、感染予防効果の高いものであれば使ってみたい。お互いに口元を見ながら話すことが安心感に繋がると思う。

3.医事課スタッフ9より
 コロナ禍になり、私たちの働き方も変化がありました。院長が行った難聴者に対するアンケート結果の回答を見て、難聴者も耳鼻科に勤める私たちもマスク生活で困っている事は大体同じで、取り組んでいる工夫も似たようなものだと思いました。

 マスクを着用するようになり個人的に一番苦労をしているのは患者様の訴えを伺う問診の時です。例えば耳が聞こえないと記入してある方は問診を見るだけではどの程度聞こえないのか判断つきません。
 マスクを着用する以前より耳が聞こえない・聞こえにくい方の問診は聞き返される事が多かったのですが、マスク着用になってからは更に聞き返される事が多く時間がかかるようになりました。同様に患者様もこちらに症状を伝えたり、診察内容を聞くのに苦労していると思います。受付時に申し出があればすぐに対応できるかもしれませんが申し出がない方がほとんどで、待合室でお呼びしても無反応で結果、受付に入ったスタッフに患者様の特徴を思い出してもらうなど間違えば人違いと医療ミスに繋がりかねないことも想定されます。

 そこで院長が提唱している耳マークの普及は難聴者と私たち双方にとって有益なものだと思いました。当院のカルテにも何名か耳マークを貼っている方がいらっしゃいますが、強く認識ができ、安心感が生まれます。更に耳マークがあらかじめ患者様のマスクや衣服などについていると受付時から把握ができ、タブレットや筆談など切り換えがスムーズにできると思います。耳マークがあることはこの職場で初めて知りましたが、院長の資料を読み、私が生まれるより前にはすでに作られていて歴史が長いということが分かりました。

 あくまで私の考えですが、SNSやネット広告等を活用すれば人々の目に入る事が増え、理解度を高める事が可能になるかと思います。耳マークが身の回りに多くなれば、比例するように耳マークをつけた方が暮らしやすくなる提案や取り組みが増えると思います。透明マスクなど新たな商品も取り入れつつ、難聴者も私たちも快適にこのコロナ禍を乗り切っていければいいなと思います。

5.医事課スタッフ10より
 コロナ禍において、わたしたちの生活は一変し、日常的にマスクの着用が求められています。生活を送る上で何かしらの不便さを感じている人が殆どだと思います。当院に来られる患者様からも、元々耳が聞こえづらかったが最近はマスク着用の為、前よりも会話に苦労しているというお話を伺うことがあり、相手との会話は聴力だけでなく、相手の表情や口元の動きを見ることで成り立つものであることを実感することが多くなりました。

 院長先生が行われた難聴者の方のアンケート結果からも、ふいに声をかけられたときや、病院やスーパー・コンビニ等に行った時などの場面において、後ろからの声掛けに対して振り向いてもマスク着用の為相手が判明しづらい、お互いの口元が見えない為上手く会話が成立しづらいなど、マスク着用における会話にはお困りの方が多いことが分かりました。

 対応策として難聴であることを示す耳マークの活用や、透明マスクの使用、会話の不明瞭さを助けるための様々な機器の開発などの策はあげられていますが、難聴者ご自身の抵抗感、健聴者の認識の甘さ、コストの問題などがあることも分かりました。

 今回この『マスクアンケート』を読んで特に共感したことは、現在の社会で難聴者がいかに困っているかの現状を多くの人に知ってもらう必要があるということです。メディアなどを通して広く周知してもらうことで、難聴者の方が抵抗なく耳マークを活用できるようになり、健聴者の透明マスク使用の普及にも繋がるようになればいいと思います。

 また、私自身耳鼻科に勤務する中で、難聴の症状や度合いは様々であり、どのようなコミュニケーション方法が必要なのかも年齢や環境に応じて人それぞれ異なるものであると感じています。
 筆談や手話、あるいはスマートフォンでの入力やアプリの活用など、その人それぞれに合ったコミュニケーションツールを使うことで安心感も生まれ、マスク着用であっても正確な意思疎通に繋がるのではないかと思います。

 コロナ禍で、自分と自分の大切な人を守るためにマスク着用が当たり前になったのと同じように、難聴者に対しても何ができるかを皆が当たり前に考え行動していくことが必要だと感じました。

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耳マーク
 読者の皆さんは「耳マーク」をご存じでしょうか。
 これは聞こえが不自由であることを表したマークで、公共施設などで難聴者への配慮を示すシンボルでもあります。
 もともとあった国際シンボルマークを、全日本難聴者・中途失聴者団体連合会が独自にリメイクして作成されたのが、日本でお馴染みの白地に緑色のこのマークです(図1)。
 仙台市では地下鉄の泉中央駅(図2)や、医療・公共機関(図3)などで表示されていますが、その認知は限られているのが実情です。こうした耳マークを周知して貰うためにどんな広報をしていけばいいのか、日々、頭を悩ませています。 

図01
 図1 耳マーク

図02
 図2 仙台市地下鉄 泉中央駅

図03
 図3 当院の受付

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