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2022年9月(No.331)

 

英国紅茶シリーズ⑦
ラジオ3443通信「紅茶はヨーロッパでは流行らなかった?」


 ラジオ3443通信は、2010年から毎週火曜10:20~fmいずみ797「be A-live」内で放送されたラジオ番組です。
 ここでは2013年6月25日OAされた、英国紅茶にまつわる話題をご紹介いたします。

120 紅茶はヨーロッパでは流行らなかった?
An.
 三好先生、産業革命以前の英国では、一般的な飲み物として、英国ビールのエールやジンがメインだった。しかし産業革命の進行に伴って、アルコールの入らない飲み物のニーズが高まり、お茶を飲む習慣が広まった。中国や日本から輸入されたお茶はしかし高価で、ロバート・フォーチュンというプラント・ハンターが活躍するまで、庶民には高嶺の花だった。とはいえニーズが高まったせいで、徐々にお茶は英国民に浸透して行った。お茶として、当初は緑茶も人気があったけれど、ミルクと砂糖を入れてお茶を飲む習慣が流行り、緑茶は次第に紅茶にとって代わられるようになった。
 そんなお話でした。
 でも先生、どうしてドイツやフランスなどヨーロッパの他の国では、飲み物として紅茶が広まらなかったんでしょうか?
Dr.
 1つには英国側のビール供給体制が綻びていて、飲み物を含め食料の輸入が必要だったこと。それが原因の一端でした。
 すでに18世紀始めには、英国式小麦ビールつまりエールのことですけれど。それを醸造するために、英国で生産された小麦の半分近くが、消費されたと言われます。当時英国国内の農業生産だけで、急激に増加した人口を養い、エールまで生産し続けるのは不可能でした。言い方を変えれば、産業革命後の人口増加に農業生産力が追い付かなくなっていたわけです。
An.
 それじゃ食料は国外から?
Dr.
 英国の植民地から食料を調達したんですけれど、お茶や砂糖を植民地から入手できたので、ミルクと砂糖入りの紅茶は良い栄養源となったんです。
 他のヨーロッパの国々は、英国ほど適切な植民地を有していなかったため、そううまくは行かなかったんです。
An.
 砂糖の供給が影響していたんですね!
Dr.
 もう1つには、紅茶はドイツやフランスの水、つまりカルシウム含有量の多い硬水ではうまく味が出ないんです。
An.
 江澤も聞いたことがあります。
 ドイツやフランスの水って、マグネシウムやカルシウムが入っているんですね。
Dr.
 私は1972年に、ドイツのハイデルベルグ大学でドイツ語の夏期講習会を受けたことがありまして。
An.
 先生はドイツ語も喋れるんですか?
Dr.
 1ヶ月間の講習会だったんですけれど、最初の日に大学をのぞき見しに行っただけで、後は毎日ドイツ・ビールの体験会を自主開催していました。
 ですから、私の覚えたドイツ語はメニューの読み方だけで。でも食べ物には、詳しくなりました(笑)。
An.
 先生、先生の学んだドイツ語を聞かせてください(笑)。
Dr.
 えーっと。ビールのオーダーは、ですね。普通のビール、つまり黒ビールじゃないビールは、"ein helles Bier,bitte" でですね、黒ビールを頼むときには、"ein dunkles Bier,bitte"ですねぇ。
An.
 先生それは、いったいどういう意味なんでしょうか?
Dr.
 "ein helles Bier" というのは、「明るいビール」という意味で、逆に"ein dunkles Bier" というのは「暗いビール」という意味の言葉です。
An.
 ああ、暗いビールが黒ビールのことで、明るいビールが暗くない、すなわち普通のビールのことなんですね!?
Dr.
 でね、江澤さん。楽しくビールを飲んで、ハシゴすることを"Bierreise" つまりビール旅行と表現し、二日酔いのことを"Katzenーjammer" つまり「ネコの病気」って言うんですよ。
An.
 「ネコの病気」(笑)?
Dr.
 くたっとして、部屋のすみっこでネコみたいにうずくまっているから、「ネコの病気」(笑)。
An.
 話をもどしましょうよ、先生(笑)。
Dr.
 で、大学の傍の安宿で朝、歯磨きしようとすると、コップの中には白い石灰分が析出していて。つまりドイツの水道水は硬水なので、そんなことが起こるんですよ。
An.
 その硬水では、紅茶は美味しく作れないんですね?
Dr.
 そうした水の違いも、英国とは異なりドイツやフランスで紅茶が普及しなかった理由だと、私は体験的に思います。
An.
 先生の実体験なんですもの、ね(笑)。
 ところで先生、中国や日本じゃお茶にミルクも砂糖も入れませんよね。どうして英国じゃ、ミルクと砂糖が付き物なんでしょうか?
Dr.
 ミルクをお茶に入れる習慣は、チベットのバター茶にも見られますから、牧畜が主体の地域ではあり得ることだと思います。
An.
 バター茶! ありましたよねぇ。
Dr.
 モンゴルでも、お茶にミルクを入れる習慣があるそうですから、この推測は間違いないと思います。
An.
 それでは、砂糖は?
Dr.
 砂糖も昔は貴重品でして、その当時は甘味は蜂蜜で補っていたとされます。
 何分甘味はカロリーの元ですから、人間の体を維持するためには必要不可欠な要素の1つです。摂取し過ぎると、別の問題が発生しますけれども(笑)。
An.
 先生、砂糖は砂糖きびから採れるんですよね。砂糖きびというと江澤は、先生の行って来られたブラジルのことを思い出すんですけど。
Dr.
 ブラジルには砂糖きびが原料の、ピンガっていう焼酎がありますし。世界的なガソリン不足のときには、砂糖きびからエタノールを作って車の燃料にしました。ガソリン・スタンドならぬ砂糖きびスタンドがあったんです。ところがその燃料用エタノールはつまり、焼酎のピンガと同じ成分なので……。スタンドでエタノールを盗み呑みするブラジル人が、あとを断たなかった。
 政府は仕方なしに、スタンドのエタノールに少しガソリンを混ぜることにしたんです(笑)。盗み呑みはなくなったそうですけど。
An.
 先生、物凄い盛り上がりを見せていますが……。今回もお時間です。
Dr.・An.
 本日もありがとうございました。

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