3443通信3443 News

2022年9月(No.331)

 

難聴児・者が困っています‼
医療従事者向けのマスクアンケートを実施しました5


 以前、3443通信321号(2021年11月)では、長引くコロナ渦の対策としてマスク装用が日常化したいま、相手の表情や口元の動きが見えないために困惑している難聴児・者の実態を調査した『難聴児・者に対するコロナ対策マスクアンケート』をご紹介しました。

 今回は、その第二弾『医療従事者向けのアンケート』を実施した結果を、3443通信No.327からの連載でご紹介しています。
 これは難聴児・者へのアンケート結果を分析した際、医療機関などにおける難聴者対策が浸透していないとの回答が寄せられ、もしかして医療従事者にも難聴者の困惑する実態があまり知られていないのではないかと思った事がきっかけです。
 ここでは、当院に通う難聴患者さまと当院スタッフの『難聴児・者に対するコロナ対策マスクアンケート』読後の感想をご報告していきます。

1.補聴器外来の難聴患者様9より(60代 男性)
 いつも誰かと話をする時に、自分から「聞こえないので筆談でお願いします」と言っている。
 小さい頃からの難聴ではないので、手話が分からないため書いて伝えるしかない。聞き漏らさないように確実な方法は書いて貰うこと。
 新型コロナの流行前のマスク装用者との付き合いに大きな差があると感じている。特に症状がない健康な人までもマスクという『全員マスク社会』という状況に戸惑いがある。いまだ慣れない。

 感染拡大の恐れがあるので難しいと思うが、口元が見えるマスクは使ってみたい。ただし常に使うのではなく会話専用として。消毒して繰り返し使えるならなお良い。普段は今までの使い捨てマスクで良いと思う。口元が見えないと言葉のニュアンスが掴みにくくなるので、話をする時は口元が見えた方が良い。
 また、一見して耳が聞こえないということが分かるように『マーク』を付ける制度が出来ると良い。それを広く知らせることが大事。マークを付けるかどうかはその人の自由で良い。分かって貰いたい人たちに優しい社会になって欲しい。

「メモでお願いします」。

 畏まらない気楽な物言い。その言動を蔑まず、遠慮せず、疎ましくせず、お互いに気さくに受け入れられる、そんな社会になれば良い。

2.補聴器外来の難聴患者様10より(30代 女性)
 日常で家族以外と話すことはあまりないが、マスクをするようになり聞き取りにくい場面は増えたように思う。特にスーパーのレジなどにある透明シート越しの会話は、マスクだけよりも聞き取れなくなる。相手に不快な思いをさせてしまうのが嫌で、つい聞こえるふりをしてしまう。聞こえないとは言いたくない。ましてや全く知らない人となると、なかなか言いにくい。

 あるお店でのこと。レジと客を仕切る透明シートに、小さいマイクとスピーカーが付いている場所があり、とても聞きやすいので大変便利だと思った。『ここに向かって話して下さい』と表示もあったので親切。もっと普及すると良い。
 口元が見えるマスクは、学校で使っている例を見たことがある。聞き取りには良いと思うが、いざ自分で使うとなると抵抗がある。恥ずかしいと思ってしまう。

 私は聞こえが変動するので、外食や買い物などガヤガヤする場面では聞き返すことがある。逆に、とても静かな場所でもマスク越しに小声で言われると分からないこともある。周りが静かな方が、話す人も小さい声になりがちなので、家族に通訳をお願いしてしまうこともあり、その度に心苦しい。いつも聞こえない訳ではないので、周りに上手く伝えることは難しい。

 みんなに、聞こえない人も普通にいるということを、もっと気にして貰えるようになると良い。そのためにはバッチやマークなど、一目で分かるようにするとお互いに分かりやすいと思う。そうすれば、良く知らない人にでも気兼ねせずに、聞こえにくいことが分かって貰えるのでは。

 そのアイテムを付けることで、差別や嫌悪などの後ろ向きな動きではなく、お互いに思いやる前向きな動きが起こればいい。目的は相手との円滑なコミュニケーションだから。
 近日、仕事復帰する予定だが、訪問介護施設のため高齢者との会話が殆どとなる。職場には話しているが、マスク越しの会話がどの程度影響するのか不安である。

3.医事課スタッフ11より
 他の障害と異なり、難聴者は一見して判断してもらいにくいところがあり、一般の人に気付いてもらえず、配慮されにくく、また、耳が聞こえないなら補聴器を使えばいいのではないかと、勘違いしている人も多くいると思います。人との会話についていけないということはこのコロナ禍になり、みんながマスクをするようになってからは、より不便に感じていることなんだろうと思っていました。

マスクをしたことで声がくぐもって聞こえが悪くなる上、複数人で話している時等は、誰が喋っているか分からないというのは、難聴者ではなくても日常のコミュニケーションに影響しています。難聴者は口の動きで言葉を理解している部分がありますので、その不便はなおさらのことであると感じます。

 逆にコロナ禍になったことで、難聴者にはこんな不便なことがあると、浮き彫りになってきつつあると思うのは、テレビで大事な会見が行われる時等に、必ず手話通訳の人がついたり、マスクを外して発言していることや、透明マスクの開発等を目にする機会が増えたことだと思います。マスクのマークをつけることは、見えない障害の難聴者にとっては有効な手段ではあるけれど、常にそのマークが表示されていると、それを悪用する人が出てきてもおかしくないと感じる部分もあります。どんなマスクにも装着できるクリップ型のマークであれば、必要ないときは外し、必要な時に相手に個別に提示したりすることも出来るので、そのようなものがあったら便利なのかもしれません。

 東日本大震災の時の障害者の死亡率は、住民全体の死亡率の2倍と言われています。最も死亡率が高かったのは視覚障害者、2番目が難聴者だったそうです。伝わるべき情報が届かないというのは、大変恐ろしいことです。

 先日の河北新報には片耳難聴者は障害者として認められていない、何らかの支援が必要ではないかという投稿が掲載されていました。

 東京オリンピックが開催されたことで、今の学校では子供たちがパラリンピック競技を実際に体験し、楽しさを通じて障害の不自由さを体験するということが行われているのをテレビでよく目にします。このように若い世代が障害を身近に考える機会が、学校や家庭で多くなることは大変素晴らしいことだと思います。そして、障害を理解することでSNSやメディア等に発信していく人たちが増えて、人と人の壁が取り払われて思いやりのある、優しい社会になっていく様に、私自身も努めていきます。

4.阿部隆 先生(秋田県)より
コロナ感染予防のためのマスク着用が、特に乳幼児・学童期の子供たちの言語発達に大きな影響を及ぼすことを、真っ先に指摘し警鐘を鳴らしていただいたこと、他科の医師でなく耳鼻科医である先生が行なってくれたことを大変嬉しく思います。

 私も、当院で20年前から行ってきた「聞こえとことばの教室」をもっと充実させるために、私の生家に、医療法人・阿部耳鼻科の付帯事業として、児童発達支援と放課後等デイサービスの両方を行う多機能型事業所を今計画しています。

 70歳を超えてなお、耳鼻科医ならではの視点で社会の課題に向き合っている姿勢に共感を覚えます。
 70代は人生最後の活動期と心得て私も頑張りたいと思います。

図01
 阿部先生は、医学コミック7巻にご出演頂いています。


5.白幡雄一 先生(東京都)
 この度は貴殿が投稿した宮城耳鼻会報をお送り下さりありがとうございました。
 マスク装用が聴力障害者に及ぼす影響についての研究、大変参考になりました。相変わらず、タフに頑張っておられますね。
 酷暑のみぎり、どうぞお体お大切にとお祈りしています。

図02
 白幡先生著の「臨床耳鼻咽喉科学」


関連記事
【耳マーク】
 読者の皆さんは「耳マーク」をご存じでしょうか。
 これは聞こえが不自由であることを表したマークで、公共施設などで難聴者への配慮を示すシンボルでもあります。
 もともとあった国際シンボルマークを、全日本難聴者・中途失聴者団体連合会が独自にリメイクして作成されたのが、日本でお馴染みの白地に緑色のこのマークです(図3)。
 仙台市では地下鉄の泉中央駅(図4)や、医療・公共機関(図5)などで表示されていますが、その認知は限られているのが実情です。こうした耳マークを周知して貰うためにどんな広報をしていけばいいのか、日々、頭を悩ませています。

図03
 図3 耳マーク

図04
 図2 仙台市地下鉄 泉中央駅

図05
 図3 当院の受付

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