3443通信3443 News

2022年11月(No.333)

 

耳のお話シリーズ⑬
ラジオ3443通信「発声・発音障害の矯正法」


 ラジオ3443通信は、2010年から毎週火曜10:20~fmいずみ797「be A-live」内で放送されたラジオ番組です。
 ここでは2014年7月29日OAされた、耳にまつわる話題をご紹介いたします。

153 発音・発声障害の矯正法
An.
 三好先生、耳の日の話題から、電話を発明したアレクサンダー・グラハム・ベルについてのお話が、進んでいます。
 お話でベルは、もともと英語の発声と発話を教える言語療法士だったこと、その発話法にはベルのおじいさんがもともと携わっており、ベルのお父さんも発音の矯正を仕事にしていたこと。などなど、教えて頂きました。加えて、ベルのお母さんの名前がイライザで、バーナード・ショーがこの名前の主人公の活躍する下町英語矯正物語を、有名なミュージカル『マイ・フェア・レディ』の脚本にした。そんなエピソードも、伺いました。
 バーナード・ショーは、ベル一家の知り合いだったんですってね?
Dr.
 江澤さん。その『マイ・フェア・レディ』のエピソードが重要なのは、現実のベルのお母さんも英語が不自由だったという、真実があるからなんです。
An.
 えっ、ベルのお母さんのイライザは、本当にロンドンの下町娘だったんでしょうか?
Dr.
 これは私の副業(笑)の、耳鼻咽喉科に関するお話なんですけれども。
 ベルのお母さんのイライザは、耳が不自由だった。つまり難聴者だったんです。
An.
 それじゃ、アレクサンダー・グラハム・ベルの身内には、耳の不自由な人がいつもいたんですね。難聴者のことを、親身に考えるような環境が、身の回りに整っていた?
Dr.
 実はベルの奥さんも、難聴だったんです。それについては、あとでまた触れますが。耳の不自由な人も、ロンドンの下町娘じゃありませんが、話し言葉が正確ではなくなります。
An.
 えっ、どうしてですか、先生。
Dr.
 赤ん坊だった人間が、言葉を覚えてしゃべるようになるためには、他の人がしゃべっているのを耳で聞き、コミュニケーションの手段として使い始める。そんな手順が必要なんです。
 言葉の正確な発音法だって、耳から入った会話を習得するところから、スタートするんですもの。
An.
 『マイ・フェア・レディ』のイライザが、下町言葉でしゃべるのも父親の影響でしょうから・・・・・・。
Dr.
 そう! ホラ、「運が良けりゃ、運が良けりゃ」って、歌で有名なイライザの父親・アルフレッドのせいですよ(笑)!
An.
 イライザは、寝物語に下町言葉を聞かされて育ったんでしょうよ、ね?
Dr.
 それと関連するんですけど、前にお話ししましたように、耳が不自由な場合、言葉が均等に聞き取れないのではなく、難聴の耳の周波数特性に応じて歪(ひず)んで聞こえます。
 ですから、生れ付き聞こえに難点がある子どもの場合、発音も耳の周波数特性を反映、歪んでくることがあるんです。
An.
 五感のうち聴覚を担当する耳に、入ってくる音つまり情報が偏(かたよ)っていると、インプットに異常があることになりますから、アウトプットに相当する発声もしくは発音も、不正確な偏ったものになるのは当然ですよね。
Dr.
 私たちが子どもの頃から、地域特有のなまり言葉を聞いて育つと、私たちの発音にもなまりが感じられるようになります。
 そして、私たちの耳がもしも不自由だったならば、私たちの発音も耳に入った歪んだ音そのままの発音を、そのまま口に出すことになります。
An.
 発音もしくは発声というのは、耳に入った情報の反映なんですねぇ!
Dr.
 その意味では、周辺環境のなまり言葉に染まった発音や発声と、不自由な耳から覚えた偏った発音もしくは発声。この2種の成り立ちには共通点があるんです。
An.
 それを矯正してやることは、不可能なんでしょうか?
Dr.
 実はこうした偏った発音や発声は、耳に入ってきた情報がどうであれ、アウトプット器官である口やのどの訓練で、矯正してやることができるんです。
An.
 そんなことができるんでしょうか? 江澤は考えたこともありませんでしたけれど。
Dr.
 江澤さん。『マイ・フェア・レディ』の中で、ヒギンズ教授が主役のイライザの下町英語を、懸命に修正していたシーンを思い出してください。
An.
 ああ、あの有名なシーンですね?
 三好先生ご推薦の、バーナード・ショーの原作『ピグマリオン』。これが『マイ・フェア・レディ』の原作なんですよね?
 そこにはこう、書いてあります。

”ヒギンズ:
 じゃあ言ってみろ、「ア・カップ・オブ・ティー」。
イライザ:
 ヤァ・カッパラッテー。
ヒギンズ:
 舌を前に突き出すんだ、下の歯に押しつけるように。ほら、カップ。
イライザ:
 クゥ、クゥ、クゥ、——できねぇ。クゥ、クゥアップ。
ヒギンズ:
 よくできました。”

 三好先生、これはつまり何をしようとしているんでしょうか?
Dr.
 これこそが、グラハム・ベルのおじいさんが売り物にしていてた、発音・発声障害の矯正法の現場だったんです。
 バーナード・ショーはそれを、おもしろ可笑しく戯曲に仕立てたんですよ(笑)。
An.
 江澤の発声訓練も大変でしたけれども。
 ベルのおじいさんの朗読と弁論のクラスも、かなり大変(笑)だったみたいですねぇ!

図01


Dr.
 戯曲に書き込まれたギャグっぽい部分は、たしかにそうなんですけれども。こうした経験からベルのお父さんは、発音や発声を口の形やのどの使い方で分類し、その使い分けで正確な発音と発声を再現する手法を編み出します。
An.
 たしかに・・・・・・。口やのどの形を一定の形態に整えて、息を大きく吐いてやるとまったく同じ音声を再現することは、できます。
Dr.
 その手法を、グラハム・ベルは耳の不自由な子どもたち、難聴児に応用するんです。
 それが聾学校などでの教育法に取り入れられ、ベルは聾教育つまり難聴児教育に熱中するようになります。
 お話は続く、です。

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