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2022年11月(No.333)

 

朝のスタッフ勉強会⑥
アレルギーと花粉症のお話6
~医学コミック8巻「愛しのダニ・ボーイ」~

図00


引き続き
 当院では朝礼時にさまざまな資料を用いて、接遇や医学・医療についての勉強会を行なっています。ここでは、いま使用している院長監修のアレルギーに関する医学コミック「愛しのダニ・ボーイ」、その解説についてご紹介致します。
 なお、解説含めたマンガも当院ホームページで無料閲覧できるよう準備中です。

16.衛生状況の改善で過剰防衛
 くしゃみ・鼻みず・鼻づまりの花粉症症状は、本来ならば人体への異物の侵入を防御する、本来ならば正当な防衛反応である、と書きました。しかし現代人ではこの機能が過剰となっているために、いわば過剰防衛の状況にあります。
 人間でもなんらかの危害を加えられそうになったとき、相手を押し戻すのは正当防衛です。しかしその人間が自分の知らない内に、旺盛な体力を持つようになってしまっていたとしたら、相手を押し戻すつもりで無意識のまま危害を与えてしまうことだって、考えられます。つまり正当な人間の防衛行動も、やりすぎると過剰防衛と認定され逮捕されたり、自身に不利な結末を迎えることとなります。

 鼻粘膜もそうです。
 本来ならば病原菌やウィルスなど、人体に害を及ぼす異物の鼻から体内への侵入を阻止するべき防衛反応は、さほど人体の防御力が強くない間は正当防衛行動に終始します。しかし人体が、食生活の改善などにより旺盛な体力を有するようになっていたとしたら、鼻粘膜は過剰防衛に走るかも知れません。

 皮肉なことに衛生状況の改善に伴い、有史以来人類の宿敵であった病原菌やウィルスはその数を減じ、人体の免疫能力は敵を見失い力を持て余しています。
 そんな状態の鼻粘膜に花粉など無害な物質が接触したとしたら、それを阻止すべく力をふるう過剰防衛反応によって、人間は自身にまで損傷を与えるに違いありません。

図01


17.2種類の免疫細胞
 アレルギー反応はこうやって考えて見ると、少なくとも花粉症など典型的な抗原抗体反応については、人体の過剰防衛反応であり、本来は自分を守るべき機構が暴走して自身に危害を加えている状態であると、比喩的に理解できます。
 この比喩はしかし、なんらかの裏付けのある理解なのでしょうか。

 特定の感染症の減少傾向とアレルギー疾患増加との間には、一定の関連があるとされます。
 具体的にはわが国の結核感染などは、スギ花粉症出現前には「国民病」と言われ兼ねない頻度で蔓延していたわけですが、スギ花粉症の激増に逆比例するように減少しています。

 そして実は人間の免疫細胞には2種類あり、細菌感染に関与するTh1と呼ばれるタイプと、アレルギー反応を起こし易くなるTh2と呼ばれるタイプのものに分類できることが、最近分かりました。
 この2つのタイプの免疫細胞は、互いにバランスをとって存在しているものと考えられ、Th1が優勢なときにはTh2は抑制され、逆にTh2が優勢のときにはTh1が抑制されます。と言うことは、感染症の多い時期には人体内でTh1が優勢となりTh2を抑制しているのですが、感染症の減少した時期にはTh1が抑制されTh2が優勢となり、つまりアレルギー疾患が多くなると理解することができます。

 現在日本における、結核など感染症の減少とアレルギー増加には、しっかりした理論的背景がありそうです。

図02


18.アレルギーと感染症の逆相関
 現在日本における、結核など感染症の減少とアレルギーの増加には、人体の免疫細胞の内Th1と呼ばれる感染症関係の細胞と、Th2と称するアレルギー関連のそれとのバランスが存在している。と前回書きました。
 そして感染症の多い時期には、Th1がTh2の活動を押さえているためにアレルギー疾患は少なくて、現在日本のように感染症の少ない時代にはTh2が活発になるために、アレルギーが目立つようになるのだ、とも記しました。

 こうしたTh1/Th2バランス論は1986年モスマンという学者によって、動物実験をもとに提唱されたものです。しかしそれが実際に人間の体の中でも起こっている現象なのかどうか、本当は人間に対する調査で明らかにせねばなりません。

 この調査を、実行に移したのは私の共同研究者である白川太郎京都大学大学院教授らでした。白川教授たちは、被験者となった和歌山県の中学生では、結核の指標であるツベルクリン反応とアレルギー反応の結果とは、ちょうど背中合わせみたいな逆の相関関係が見られることを、証明しました。つまり結核の勢いの強い被験者ではアレルギーが生じにくく、結核感染と縁の薄い被験者では、アレルギーになり易いことが分かったのです。

 私の述べて来た、結核など感染症の減少とそれにより力を持て余した過剰な免疫能力により、アレルギーが増加したとの仮説は、少なくとも結核については的外れでもなさそうです。

図03


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