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2022年12月(No.334)

 

学会発表「マスク装用難聴児・者の困惑に対する医療関係者の理解」

学会名:第67回 日本聴覚医学会
会 期:山形テルサ/やまぎん県民ホール

三好  彰 (三好耳鼻咽喉科クリニック)
田中 美郷 (田中美郷教育研究所)
三邉 武幸 (昭和大学スポーツ運動科学研究所)
中川 雅文 (国際医療福祉大学)
齋藤  修 (奈良県立医科大学附属病院 医療技術センター)
中山 明峰 (めいほう睡眠めまいクリニック)
稲川 俊太郎(稲川耳鼻咽喉科)
東川 俊彦 (東川耳鼻咽喉科医院)

【山形】山形テルサ


 今回は、2021年の本学会において発表した「コロナ対策マスク装用時の難聴児・者の困惑」の第二弾として、その発表内容を医療関係者に送付し、読後の意識についてアンケート調査した結果をまとめたものです。
(こちらは発表したスライド原稿です)

目的
 通常耳鼻科の医療関係者が難聴児・者に接するのは診察室内の事が多いです。このため当然ながら難聴児・者の行動についての医療関係者の理解は医療施設内の範囲内に留まる可能性が高くなります。しかし当然ながら、難聴児・者は医療施設外での生活時間も長いのでそれらも考慮する必要があります。
 演者らは昨年の当学会において「コロナ対策マスク装用時の難聴児・者の困惑」として受診者側としての難聴児・者の当惑を中心に報告しました。
 今回は逆に難聴児・者を担当する医療関係者が、彼らの困惑をどのように把握しているのかについてアンケート調査を行ないました。
 以下は、第1弾として実施した「難聴者向けマスクアンケート」の回答をまとめ、2021年に同学会で発表した内容です。

演題名:No.167「コロナ対策マスク装用時の難聴児・者の困惑」
掲載誌:Audiology Japan Vol.64, No.5 2021

結果
 難聴者135名から回答を得ましたが、その中の自由回答では以下のように口元が見えず表情が読み取れない、聴覚障害者には手話が通じる、背後から声掛けされても声の主が判別できない(図1)、コンビニ等の会計時にスタッフの言葉が分からない(図2)、等の意見が寄せられました。
 その他マスクによる困りごとは表(図3)に見るような結果が得られました。

図02
 図1

図03
 図2

図01
 図3


自由回答のまとめ
a. コロナ下でマスク取り外しは言い難い。相手も不服そうで理解が得られない。手話を使う聾者と違い、難聴者は理解に遠い。
b. コロナ渦で入院。看護師がマスク外してくれたが感染リスクを考えると申し訳ない。
c. マスク外すお願いが病院・店舗で出来なくなった。口元見えず読話出来ず表情も読み取れない。
d. 人工内耳、メガネ、マスクとの三重は耳が痛い。マスク着け難く外れ易い。
e. 国会中継に字幕がない。
f. 医療機関勤務のため外せない。透明マスクの有用性を健聴者に理解して貰うのが難しい。
g. 筆談も面倒がられる。聴覚障害者=手話ではない。公的機関等では文字情報を増やして欲しい。

自己対策として
 そうした状況下にあって、回答者は次のような対策を取っていました。

a. アプリ等利用25例
b. 耳マーク38例
c. 透明マスク83例
d. 筆談31例など


 但し、それに対する音が聞こえる健聴者側の無理解は、やはり付き物のように思われます。
 ですが、知事などが会見の際マスクを外す改善は見られた、病院で番号表示器を置くよう頼み設置して貰った等の、ある程度の改善策が施されていると報告する回答例も見られました。

結論
 多くの難聴児・者が生活の各場面で困惑している実情が判明しました。
 今後もマスク装用の習慣が長く続くようならば、難聴児・者に対する何らかの情報の保証と、何より難聴児・者が困っている実態を啓盲する必要性があります。
 以下、当院を受診した補聴器外来患者に前述の2021年学会発表の内容を読んで貰った感想です。

① 35歳 女性、重度知的障碍者施設勤務・介護士
 今まで別段支障なく聞こえていた人の声が聞き取りにくくなり、何度も聞き返すことが増えた。耳で聞いているようで、実際は顔を見て口元をたよりに話を聞いていたのだと実感している。
 仕事中に感じることは、コロナ下でマスクをするようになり利用者の不安が日に日に強くなっているように感じる。
 言葉が離せない方、強度の自閉症がある方など様々な障害を抱えている方がいるが、中でも難聴があり補聴器を装用している方は、気さくだった性格が臆病になり、おそるおそる話し掛けてくるようになった。そんな実例がある。

 本人にたずねると「こわい」と言う。
 マスクで隠れた表情が読み取れないため恐ろしさを感じているんだろうと言う。
 目だけが見えるというこれまでにない非日常。
 その条項は、コミュニケーションが苦手な人達の恐怖心や不安感をこれでもかと煽ってしまっているようだ、と。

 ある時、実験的にスタッフがフェイスシールドのみにして接してみたところ、効果絶大。暗く曇っていた彼らの顔はみるみる晴れ渡り、瞳は輝き、どんどん近くへと寄って来てくれるようになった。

② 83歳 女性、仙台市。右HA(耳掛け)、宗教施設の世話係
 マスク生活になってから色々な状況を、より目で読み取ることが多くなった。
 普段の生活では、バスや電車内での会話が聞き取れなかったり、病院や店頭で呼ばれてもすぐに気が付かなかったりすることがある。
 特に、仕事中に人の話を聞き取る際に、様々な困りごとに出合う。

 日々気を付けていることは、自分は難聴であることを相手に伝えること。特に大事な場面においては、お互いの為に良いことだと思う。聞こえにくいことを隠したい人もいるが、それをせずにどんどん訴えて言った方が良いと思う。恥ずかしがらずに。それして、それを当たり前に受け入れられる社会になると良いと思う。

③ 38歳 女性、看護師(休職中)。両耳HA、軽度難聴
 日常で家族以外と話すことはあまりないが、マスクをするようになり聞きにくい場面は増えたように思う。
 特にスーパーのレジなどにある透明シート越しの会話は、マスクだけよりもより聞き取れなくなる。相手に不快な思いをさせてしまうのが嫌で、つい聞こえるふりをしてしまう。聞こえないと言いたくない。ましてや、まったく知らない人となると、なかなか言いにくい。

 あるお店でのこと。レジと客を仕切る透明シートに、小さいマイクとスピーカーがついている場所があり、とても聞きやすいので大変便利だと思った。加えて「ここに向かって話して下さい」と表示もあったので親切。もっと普及すると良い。
 口元が見えるマスクは、学校で使っている例を見たことがある。聞き取りには良いと思うが、いざ自分で使うとなると抵抗がある。恥ずかしいと思ってしまう。

④ 73歳 女性、右高度難聴(HA装用)、左重度難聴。身障者6級
 特に不安になるのは、病院でのやりとりである。
 マスク越しの医師の話が聞き取れずに、検査や診察に支障がでることがいま一番の困りごとである。

⑤ 78歳 女性、両中等度難聴(両耳HA・耳穴)、視覚障害あり
 私は耳が聞こえないのに加え、目も見えにくい。
 表情の変化が分からないマスク姿は、これまでより生活の場をもっと狭く、もっと遠くにした。
 マスクアンケートの結果は頷ける部分が多い。色々な人に読んでもらいたい。


医療従事者向けのマスクアンケート
 今回はマスクアンケートの第2弾として、2022年に前述の難聴児・者向けのマスクアンケートの結果を医療関係者に送付して、難聴児・者のマスク問題の実情についてどのように理解しているかをアンケート調査しました。その結果96名の医師・看護師・医療事務などから回答が寄せられました。

アンケートの内容(図4)
(1)難聴者の外観上の判りづらさ
(2)マスクによる口元カバーの不利
(3)マスク装用時の難聴者の意思疎通手段
(4)難聴者のマスク装用の不利への理解
(5)改善点

 その回答結果は、表(図4)にまとめた通り、大体の医療関係者がおぼろげに難聴児・者の困惑について理解しているもののあくまで診察室内にとどまり、図4の項目4-④c・dのごとく医療機関外においてはその理解が遠いことが判明しました。

図04
 図4


自由回答より
 以下に、回答者が自由回答に書いた内容を一部抜粋して表記します。

・医師 30代
 難聴者への様々な取り組みが具体的に分かって勉強になりました。

・看護師 20代
 難聴者は一見分かりにくく、認識が遅れてしまう場合もあるので、こういった活動で少しでも多くの人に知ってもらうことが大切だと思いました。

・看護師 30代
 メディアを通じての耳マークの普及が必要。
 様々なツールが開発されているが、高齢者に扱いにくいと言ったデメリットもあるかなと思いました。個人の努力ではなく、社会全体での取り組み、協力して貰えるような働きかけが必要かと思います。

・看護師 30代
 コロナ時代に、マスクをするのは当然必要なことだと思っていたけれど、マスク生活によって、難聴者の方々はすごく不自由な生活を強いられていることを再認識しました。やむを得ずマスクを外さなければならないことを社会に批判されないよう、耳マークのマスク、透明マスクが広がると良いなと思いました。

・医師 40代
 耳マークの装着を積極的にしていただくと気付きやすい。もちろん、耳マークの普及が大前提ではありますが。
 難聴者に対する偏見が、いまだ存在することは否めない。
 難聴に関しての一般の方々の理解を高めるようなアナウンスをしていくことは大切かと思います。
 TVドラマで現在難聴者に関連したドラマが放送されていますが、非常に有用と思いました。
 コロナ禍にてマスク装用が義務化されたことで、難聴者の方々に多大なる困惑が発生していることが良く理解出来ました。こちらもマスクをずらしての会話に心掛けようと思いますが、ポケトークなどのデバイスが、より普及することを願います。

・看護師 40代
 難聴者であることが恥ずかしい、隠したいと思う方が見えるが、それではきちんとした対応が出来ない。意識が変わるように、日本の耳マークを使用し易くするために、ポスター・CM・学校の授業などで広めていくと良いと思う。
 また、授業やセミナーで難聴者にどのように接すれば良いのか、どのようなことで困るのかということも伝えられると良いと思う。
 難聴者について深く考える機会を得られたことが、一番良かったです。職場の仲間ともディスカッションが出来て、今後どのように接すれば良いのかを考えられました。

・医療事務 30代
 難聴者は外観から障害を持っているか分からないため、手助けを必要としている人かの判断が難しく、耳マークも普及が進んでいないので、世界的にも耳マークを認知して、耳マークを付けていても差別のない世の中にしていきたいと思いました。

・医師 30代
 マスクが難聴者にとって大きな妨げになっていたことを知らずに恥ずかしく思います。
 今後、医療面においても気を付けたいと思います。

・医師 60代
 マスクをしないことが差別になる社会の雰囲気から、難聴者のための声を発さないといけないと思います。先生の活動に敬服致します。何かの助力になれたらと思います。

医療機関内での啓蒙
 当院では、図5~8のような工夫を用いて難聴児・者の受診者に対応しています。

図05
 図5

図06
 図6

図07
 図7

図08
 図8


医療機関外での啓蒙
 医療機関内における工夫も大事ですが、重要なのは医療機関の外の日常生活の場において難聴児・者に対する心掛けが必要だと考えています。
 例えば、仙台市地下鉄の駅に耳マーク(図9)を掲示したり、福島市のとある店舗のカウンターに耳マークを設置(図10)するなどの努力が垣間見られました。
 ですが、今回の学会会場となった山形市内では、残念ながらそうした情報発信の様子は見受けられませんでした。

図09
 図9

図10
 図10


考察
① 診察室内での、難聴児・者のマスク装用時の不利益についての理解や問題点の把握は、大多数の回答者が意識しており、テクノロジーの進歩などその解決法について模索していた。しかし今回のアンケートの範囲をやや逸脱するが、医療施設外つまり社会生活面での不利益については必ずしも十分とは言えないように推測できた。

② ましてや医療施設外の一般人に対して、現実にマスクで困惑している難聴児・者の社会生活面での不利益とその改善点を、どのように啓蒙すべきなのだろうか。

③ それに関して、医療関係者はどのような役割を果たし得るのか。今度も引き続き検討を加えたい。

④「しかし、この実情は社会ではなかなか理解されないことが多いうえに、発信する状況にないのでぜひ伝えてください、とのこと」アンケート中にあったこのような回答に、どのように応えて行くべきか、演者自身が自問自答を繰り返している。

⑤ 解決策は a. 医療関係者(前掲)? b. マスコミ? c. 政治?

マスコミからの情報発信
 こうした問題の解決策のひとつとして、マスコミが難聴児・者の実態について積極的にPRすることがまず挙げられます(図11、12)。 
 それは先般の阿蘇山噴火の際に、気象庁の報道官による記者会見(図13)の場で用いた透明マスクが一時期話題となったように、こうして様々な人の目に付くような形を取れれば、より多くの方に理解が得られるのではと考えています。

図11
 図11

図12
 図12

図13
 図13


政治的アプローチ
 これはまだ“夢”に過ぎませんが、私は33年前から衆議院議員の秋葉賢也の後援会長を務めています(図14)。
 秋葉議員は2022年8月の岸田改造内閣において復興大臣に任命されましたが、彼は将来、厚生労働大臣になりたいという願望を持っています(図15)。
 もしそうなるのであれば私たち支援者は全力でバックアップをするつもりでいますし、秋葉議員がその任に就いた暁には、ここまで述べて来たような問題点について議論し、実現に向けて動いていきたいと思っています。

図15
 図14

図14
 図15


 また、今月号の別記事「第22回 あいのまま自立大賞 参列レポ」でご紹介させて頂いた吉田 翔先生と、学会場でご挨拶させて頂くことが出来ました。限られた時間ではありましたが貴重な出会いに心から感謝申し上げます。

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