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2022年12月 No.334

 

朝のスタッフ勉強会⑦
アレルギーと花粉症のお話7
~医学コミック8巻「愛しのダニ・ボーイ」~

図00


引き続き
 当院では朝礼時にさまざまな資料を用いて、接遇や医学・医療についての勉強会を行なっています。ここでは、いま使用している院長監修のアレルギーに関する医学コミック「愛しのダニ・ボーイ」、その解説についてご紹介致します。
 なお、解説含めたマンガも当院ホームページで無料閲覧できるよう準備中です。

19.寄生虫がアレルギー予防?
 現代に生きる日本人は栄養状態が良くなり免疫能力が高まっている、それに対して社会的には衛生が改善し細菌やウィルスが減少して、人体の免疫機構は力を持て余している。だから、スギ花粉やダニなどの無害な異物に対しても過剰なまでの防御反応を示してしまい、挙げ句は自身に害を与えている。そんな過剰防衛反応がアレルギーだとの私の説明にはてなと思った方もおられたかも知れません。

 なぜならつい最近まで、日本人は清潔好きになり過ぎた、それが日本人のスギ花粉症を増やした、つまり「清潔はビョーキだ」というお話が、罷り通っていましたから。
 このお話は藤田紘一郎・東京医科歯科大学教授が、『笑うカイチュウ』という本に書いたことなのですが、それによると人間にはある程度の不潔さが必要だとのことです。そして、本来なら寄生虫と人間とは「共生」すべき生きもの同士であって、一方の論理で相手をばっさり退治することの反作用が、いかに大きいかと議論を進めています。さらには、人体内に寄生虫を飼っているとアレルギーになりにくいと、自分自身の腸にサナダムシを飼育しているとのことでした(図1)。

 私は清潔好きが病気かどうかはともかく、実際に寄生虫感染とアレルギー疾患の頻度について調査を施行しました。その結果からここでは、寄生虫がアレルギーを予防するのか、お話しします。

図01
 図1


20.「清潔」な日本でスギ花粉症の増加
 回虫など寄生虫が人体に住んでいると、スギ花粉症などのアレルギー疾患になりにくい。近年の日本人にスギ花粉症が蔓延したのは、人間がその勝手な理屈で寄生虫を駆除してしまったためだ。本来なら、人間と寄生虫とは「共生」し合うべき存在だった。
 そのように主張する「共生の妙」を唱える教授がいて、その仮説をみんなが信じ込んでしまいそうになったことがありました。

 その藤田教授の仮説ですが、回虫が人体内に住むと異物である回虫に対してのアレルギー反応があまりに強く、その後からスギ花粉など微弱な異物が侵入しても、今さらアレルギーを起こしている余裕は無い、というものでした。
 その傍証として藤田氏は、日本人の寄生虫感染率を挙げました。つまり1949年には63%の高値だった日本人のそれが1990年代には0.02%に下がり、それに逆比例するようにスギ花粉症は激増しているのです。
 また、寄生虫感染のまだ多いアジアの各地域では花粉症は見られないのに、日本でのみ花粉症が国民病である事実も、確かです。

 私は藤田氏と電話で議論し、私の実際の調査で日本に比べ中国では少ないことに触れました。彼はこの事実は、中国に寄生虫感染がまだ多いためだと主張し、私にその確認をしてくれるよう依頼して来ました。
 私はそれに応じ、黎里鎮(リリチェン)という上海の隣村で、アレルギー疫学調査と検便を実施しました(図2)。

図02
 図2


21.日本より少ない中国の子どものアレルギー
 私たち疫学調査に携わる人間は、病気の頻度について検討する場合、医療機関を受診した患者さんたちだけを相手に、分析を行うわけではありません。
 それは例えばある地域の食事内容の調査をする場合に、町中の食堂で来客のメニュー選択をチェックするだけでは、地域住民の食生活を把握できないのに、良く似ています。食堂の来客がカレーを良く注文するからと言って、その地域全体の住民がカレー好きかどうか判定することは困難です。厳密には各家庭までお邪魔して家族全員に朝食は何を摂ったか、お昼はどんな内容だったのか、夕食の予定はどうなっているのか、確認しなければその地域の食事内容調査は性格とは言えません。
 病気についても、事情は同様です。医療機関を訪れる患者さんの病気の傾向が分かったとしても、それでその地域全体の病気の傾向を知ることは、とても難しいのです。

 その意味から私たちは少なくとも、その地域の住民の健康状態を把握するためには、小学生や中学生などある特定の年齢の構成人員全員の調査を行ないます。
 寄生虫がアレルギー疾患の発病を予防していたとの仮説の検討でも、理屈は同じです。私たちは日本の特定の地域のある年齢層全員のデータと、黎里鎮という上海の隣村の同じ年齢層の子どもたちを比較しました。
 すると日本と比べ黎里鎮の子どもたちのアレルギーの頻度は、3分の2でしかありませんでした(図3)。

図03
 図3


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