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2023年1月 No.335

耳のお話シリーズ⑮
ラジオ3443通信「難聴児の言語教育と発声法2」


 ラジオ3443通信は、2010年から毎週火曜10:20~fmいずみ797「be A-live」内で放送されたラジオ番組です。
 ここでは2014年8月26日OAされた、耳にまつわる話題をご紹介いたします。

155 難聴児の言語教育と発声法2
An.
 三好先生、お話はグラハム・ベルが難聴児教育で活躍し、あのヘレン・ケラーを育てたエピソードについて、さしかかろうとしています。
 とっても重要な、意義深い話題に突入しようとしているのは、良くわかるんですけれど、先生。
 せっかくのこの機会に、もう少しその周辺のエピソードの数々について、先生の話術の冴えをお聞きしたいような気もするものですから……。
 先生から頂いた貴重な英国の紅茶の味が引き立つような、小話などはいかがでしょうか(笑)?
Dr.
 英国の、サンドイッチやスコーンそしてケーキの味覚がよみがえるような、そんな気の効いたお話をご希望ですね?
 私は、江澤さんのおねだりにすごく弱いものですから……。でも、弱ったなぁ(笑)。あぁ、そうそう。こんな話題はどうでしょうか?
An.
 待ってました、大統領(笑)!
Dr.
 その「大統領」という用語についても、いつか江澤さんにご説明したいんです(笑)けれど。
An.
 それも先生。もちろん、今からとても楽しみにしています。
Dr.
 周辺の話題として、バーナード・ショーの『ピグマリオン』からいくつか。
 江澤さん。江澤さんは『マイ・フェア・レディ』については、良くご存じですよね?
An.
 江澤はけっこう、こういったシンデレラ・ストーリーが嫌いじゃなくって。
 ロンドンの街角で、生活のために花売り娘をやっていた、オードリー・ヘップバーンが血のにじむような努力……。
Dr.
 血というよりは冷汗のにじむ努力でしたけれども、ね(笑)。
 なにしろ、その努力たるや。
An.
 繰り返しになりますが、こうでした。

”ヒギンズ;
 じゃあ言ってみろ、「ア・カップ・オブ・ティー」。   
イライザ;
 ヤァ・カッパラッテー。
ヒギンズ;
 舌を前に突き出すんだ、下の歯に押しつけるように。ほら、カップ。
イライザ;
 クゥ、クゥ、クゥ、——できねぇ。クゥ、クゥアップ。
ヒギンズ;
 よくできました。”

Dr.
 まぁそうした努力(笑)の結果、見事貴婦人に変貌を遂げるんでしたからね。
 でもね、江澤さん。ヘップバーンの演じるイライザは、映画の中では厳しい語学教育を施したヒギンズ教授に、感謝の念を抱くようになるんです。
An.
 なんだかウソみたい。あんなに厳しく、しごかれたのに……。
Dr.
 映画のストーリーにも実は2種類あって。一つは、ヒギンズに感謝したイライザが、感謝の念からやがて深い愛情を持つようになり、ヒギンズと結ばれるというハッピー・エンド。ヘップバーンですよね。
An.
 ステキ! 江澤はヘップバーンに憧れちゃいます。
Dr.
 もうひとつは。こちらが原作通りなんですけれども。
 イライザはただの下町の花売り娘から、語学教育の結果、人間的にも成長を遂げるに至るんです。
 その結末として、堅苦しい言い方をすれば「自我に目覚め、自立して行く一人前の女性」として、自分なりの選択をする。
 そうした成り行きの当然の終末として、イライザはヒギンズを捨て去り、自分に求愛した若者に嫁ぐんです。
An.
 先生、それもステキなエンディングですねぇ(笑)。
Dr.
 バーナード・ショーは、1856年にアイルランドに生まれ、産業革命直後の英国で若き日々を過ごします。
 この時代の英国は、最終的に社会全体が経済的に豊かになる途中経過の真っ最中で。
An.
 先生、確か126回目のOAで伺った記憶があります。
 英国の社会は貧富の差が拡大して、労働者階級の生活は経済的にとっても大変だったんですよね!
Dr.
 マルクスとエンゲルスがその実態を報告した論文を、バーナード・ショーの生まれる10年前に発表しています。
An.
 時代は、そんな不穏な雰囲気に覆われていたんですね?
Dr.
 バーナード・ショーの原作の『ピグマリオン』も、そんな時代の雰囲気を背景にしていましたし、ショーご本人もすごい皮肉屋だったものですから。
 そのショーの書いた戯曲が、スムースなハッピー・エンドになる訳が……(笑)。
An.
 あるわけはありませんよねぇ、先生。
 それで、本来のストーリーでは自立したイライザと権威主義的なヒギンズ教授は。
Dr.
 幸せに結ばれることはありませんでした。
An.
 そこがバーナード・ショーの、原作の味わいなんでしょうけれど。
Dr.
 ても、戯曲や映画のファンは、バーナード・ショーほど、社会的な問題意識を抱いている人間ばかりではありません(笑)。
An.
 むしろ、社会全体から見たら少数派だったかも(笑)。
Dr.
 戯曲や映画は、ファンの希望を反映せざるを得ませんので……。
An.
 それで実際の上演や、ヘップバーンの出演する映画では。
Dr.
 戯曲や映画を見終えた観客が、「見て、良かった!!」という満足感に浸れるように。
An.
 ハッピー・エンドで終了する、それが上演時のパターンになってしまったわけですね(笑)。
Dr.
 「めでたし、めでたし」で終わるのが、なんとなく安らかですから、ね(笑)。
An.
 でも先生。そのお話をお聞きすると、バーナード・ショーって、相当な皮肉屋さんだったみたいですね。その辺りについても、三好先生、ぜひ教えて頂きたいと思います。

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