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2023年2月 No.336

 

英国紅茶シリーズ⑪
ラジオ3443通信「トーマス・クックの時刻表」

 

ラジオ3443通信は、2010年から毎週火曜10:20~fmいずみ797「be A-live」内で放送されたラジオ番組です。
 ここでは2013年7月30日OAされた、英国紅茶にまつわる話題をご紹介いたします。


125 トーマス・クックの時刻表
An.
 三好先生、前回はベンジャミン・フランクリンのお話から、なぜか半ドンの話題になっちゃって。おもしろかったんですけど、江澤にはどうも話の進行状況が良く理解できないような……。
 なんとなく不思議な気分です。
Dr.
 実はお話は、なぜ英国の人たちは紅茶を好むのか、それ以前は国民的飲料と言っても不思議ではなかった、エールやビールを飲まなくなったのか、というストーリーに沿って進んでいるんです。
An.
 そう言えば……。先生、江澤にもお話の背後に潜む1本の糸が、くっきりと浮き上がって見えて来ました。
Dr.
 今日も、お話の続きです。
An.
 待ってました!
Dr.
 英国の職工たちは、そんな状況でビールを毎日呑んでいました。でも1番たくさんビールを呑む日は、決まっていました。
 江澤さん、それはいつのことでしょう?
An.
 先生、日本でしたら、それは給料日の夜じゃないかと。
 でも英国は日本と違って、月給制じゃないから……。
Dr.
 江澤さん。英国は週給制でしたから、給料が手渡されるのは土曜日です。
 しかもその当時、土曜日は半ドンではなかった。
An.
 先生、それは大変! 給料をもらったその晩に、英国の職工たちは、すべての給料をビールに注ぎ込んじゃいます。
Dr.
 当時の職工のセリフに「セント・マンディ」つまり「聖月曜日」という用語がありまして。
An.
 月曜日が、聖なる日になるということは。判っちゃいました先生!
 土曜日に給料を手にした職工たちは、その夜から日曜日にかけて職場の仲間と徹底的にビールやエールを、懐がすっからかんになるまで呑みまくります。
 そしたら月曜日は、自主的かつ自動的に、お休みになってしまいます。
 それがきっと、聖なる月曜日の実態じゃあなかったのかと(図1)。

図5
 図1


Dr.
 さすがは1を聞いて10を知る江澤さん。それに対して産業が機械化し、半ドンが英国の工場法改正により立法化された1850年以降、聖月曜日の風習は次第にすたれていきます。
An.
 産業が機械化すると、現在のタイム・レコーダーみたいな時間管理のシステムが、一般的になっちゃうかも。
Dr.
 労働は労働、余暇は余暇。そんな労働とレジャーの分離が進み、仕事と遊びをごっちゃにするような考え方が、社会的に非難されるようになります。
An.
 英国の人って、基本的にまじめな人間が多いような気がします。
Dr.
 その英国の半ドンを見習ったのが、1876年の日本の半ドン制度だったんです。
An.
 日本人も、生真面目な一面があって、やっぱり勤勉ですものね。
Dr.
 英国人の、そのまじめな性格が行き過ぎる一面も歴史的に見られまして。
 ビールやエールなどアルコールの過量摂取が、産業革命以後の機械化された効率的労働の妨げであることが判明すると、今度は過激な禁酒運動が広まります。
An.
 禁酒ですかぁ。でも頭ごなしに禁酒となると、厳しいかも・・・・・・。
 なにかその代わりになる楽しみが見つからなくっちゃあ。
Dr.
 江澤さん。そのアルコールの、代わりになる最大の楽しみが、1つにはお茶だったんです。
An.
 1つには、と言いますと。なにか他にも、楽しみがあったんですね?
Dr.
 江澤さん。私が今手元に持っている本は、いったい何でしょう?
An.
 えぇーっと。先生これは、横文字の本ですものね。
 トーマス・クックのぉ、タイム・テーブルって読むんでしょうか……。
 せ、先生。トーマス・クックの時刻表(図2)と言ったら、旅行マニアの憧れの的ですよね! これを片手に、ヨーロッパの列車を乗り継いで、のんびり旅を楽しむ、とか。
 ぜいたくですよねぇ(笑)。

図4右図4左
 図2


Dr.
 さすがは江澤さん。世界で一番有名な時刻表が、このトーマス・クックのものです。
 禁酒主義者トーマス・クックが、禁酒の助けになるレジャーの1つとして、汽車による旅行企画を当時作成したんです。
An.
 それじゃあ、日本人の大好きな団体旅行は、この時期の英国でトーマス・クックによって考えだされたんですね!
Dr.
 1841年、トーマス・クックが英国の全国禁酒大会に参加者を募って、570人の団体旅行列車を企画したんです。
An.
 それが、世界初の団体旅行だった!
Dr.
 クックは、1851年のロンドン万国博覧会でも、団体旅行を企画しましたが、この万国博会場では、まったくアルコールが飲めなかったんです。
 それくらい、社会的風潮が変化していたという、1つの証拠です。
An.
 つまりそれまでの英国では、ビールやエールを呑むくらいしか、職工たちの息抜きはなかった。それに対して、社会的な規模でレクリエーションが企画されるようになり、飲酒以外の楽しみが増加した。
 そのために、英国の社会全体の雰囲気が変わって来たんですね?
Dr.
 こうしたエピソードから、英国ではその当時すでに列車による旅行が、かなり一般的になっていたということも判ります。
 しかもこの英国内における鉄道網の整備は、劣悪だった英国庶民の住宅事情を劇的に改善することになります。
An.
 交通網の改善が住宅事情に影響することは、現代の日本に当てはめても良く理解できます。
Dr.
 それとともに英国庶民の経済状況も改善し、豊かになった英国で紅茶が大流行します。
An.
 次回はそのお話ですね。楽しみです。
 本日はありがとうございました。

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