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2023年5月 No.339

 

英国紅茶シリーズ⑭
ラジオ3443通信「英国のブレックファースト2」

 

ラジオ3443通信は、2010年から毎週火曜10:20~fmいずみ797「be A-live」内で放送されたラジオ番組です。
 ここでは2013年10月1日OAされた、英国紅茶にまつわる話題をご紹介いたします。

128 英国のブレックファースト
An.
 三好先生、前回はイングリッシュ・ブレックファーストの、豪華な中身についてのお話が途中で終わってしまって・・・・・・。
 江澤はあれから1週間、おあずけ命令を受けたワンちゃん状態でした。
 精神的飢餓と言いますか、何を食べても空腹のまま、みたいな(笑)。
Dr.
 お昼の12時前後に空腹状態で出前を注文したのに、肝心のデリバリーがなかなか到着しない。そんな心況でしょうか?
An.
 そんなときに限って、お店に催促の電話をしても「出前持ちはもう出ました」。
 そう言われると一層、お腹が空いちゃう・・・・・・(笑)。
Dr.
 お待たせしました。出前の到着です(笑)・・・・・・。というわけで、続きをお話ししましょう。
An.
 江澤はもう、お腹と背中がくっついちゃいました(笑)。
Dr.
 で、紅茶をたっぷりとカップに注ぐところまで、話題は進行しています。
 しばし紅茶の芳しさ(かぐわしさ)に浸っていると、そこにオーブンで焼いた熱々の、てんこ盛りのプレートがやって来ます。
An.
 そのプレートには、どんなごちそうが並んでいるんでしょうね?
Dr.
 もちろん各種の卵料理は当然ですが。目玉焼き・プレーンオムレツ・ポーチドエッグ・スクランブルドエッグなど、江澤さんのリクエストに応じてお好きなものをチョイスできます。
An.
 その光景が(笑)、目の前に浮かびます。
Dr.
 それに加えて、オーブンでグリルしたベーコンやハム、ポークソーセージにブラッドソーセージ。
An.
 それって、なんですか?
Dr.
 もともとソーセージは、いわゆる「腸詰め」ですから、ブタの腸管の中に血液を注入して固めたものです。
 その中でも、ことに血液成分の多いタイプみたいに、私には見えました。
An.
 朝から、とっても栄養がありそう・・・・・・。
Dr.
 英国庶民の、活力のもとですから、ね(笑)。
An.
 それ以外にも、おかずがあるんですね?
Dr.
 おかず、という言い方が適切かどうか(笑)迷いますが。
 それに加えて煮豆と焼いたトマトが添えられていて・・・・・・。
An.
 トマトを焼くんですね! どうやって?
Dr.
 オーブンでしっかりと焼くんですけどね(夢見るような目付きで)、これが美味しいんです。フゥーッ(とため息)。
 江澤さんにも、このトマトだけはごちそうして上げたいような気がします。
 差し出されたプレートを目の前にすると、焼いたトマトの鮮烈な赤い色が、まず目に染みます。そして少しだけ酸っぱいような、この果実特有の甘い香りが感じられます。
 ナイフで半分にカットしてそれを口に含むと、熱々のトマトから旨味の閉じこめられた果汁がこぼれ出ます。それをこぼさないようにすすり込みながら噛みつくと、歯茎にまで旨味がしみ込みます。その旨味を舌で存分に味わいつつゴクッと飲み込むと、トマトのあっつい固まりがノドを通り過ぎます。
 思わず「うまい」と思った次の瞬間、それが胃袋に納まるのを実感して、すっかり満足します(笑)。
An.
 三好先生、見せたいような気がするだけじゃあなくって、(よだれがこぼれそうな表情で)実物を一度、江澤に・・・・・・(笑)。
Dr.
 そして、トースターで焼き上がったばかりの熱いトーストに、バターとジャムをたっぷり塗りたくって、準備OKです。
An.
 準備完了までに、ますますお腹が空きそうですねぇ(笑)。
Dr.
 おもむろに、紅茶をすすることから、いよいよ朝の儀式が始まります。
An.
 先生、紅茶は受け皿でお飲みになるんですか(笑)?
Dr.
 ミルクがたっぷり注いでありますから、受皿なしでも、火傷(やけど)の心配はありません。
 こころゆくまで紅茶とミルクの風味を、楽しみます。
An.
 きっと、紅茶の馥郁(ふくいく)たる香りと、それを口に入れた瞬間のなんても言えない幸福観が、とってもたまらないんでしょうね。ステキ!
Dr.
 トーストをかじり、紅茶を口に含むと、まるで自分が小さな子ども頃に戻ったような、なんとも言えないなつかしさに浸れます。
An.
 なんだかその感じ、江澤にも判るような気がします。
Dr.
 そう言えば、江澤さんは文学少女だったんですよね? 江澤さんは、マルセル・プルーストって、ご存じですか?
An.
 あの有名な『失われし時を求めて』の作者ですね。
Dr.
 さすが元・文学少女の江澤さん。プルーストとも、気やすかったんですね(笑)。
 その『失われし時を求めて』の中に、紅茶を飲むシーンが出て来るんですけど。
An.
 思い出しました。主人公がマドレーヌを紅茶に浸して口に入れた瞬間、遠く消え去った子ども時代の住みかや町並みが、突然実際に体験したその時そのままに、感覚として突如よみがえる。そんなワンシーンが、ありましたよね、先生。
Dr.
 このエピソードは『プルースト現象』(図1)と呼ばれているんですけど。
 主人公は『失われし時を求めて』の中で「過去を思い出そうとつとめるのは無駄骨であり(中略)、過去は知性の領域外に潜んでいるのだ」と、つぶやきます。
 けれども、紅茶に浸したマドレーヌの味覚と嗅覚とが、突然主人公を幼い頃の体験の真っ只中へ、引き戻すんです。

プルースト効果のイラスト
 図1


An.
 先生! 紅茶の馥郁たる香りと、それを口に入れた瞬間のなんても言えない幸福観は、頭で考えたものじゃないですもの、ね。
Dr.
 幸せな英国の朝食のお話は、また次回。
An. Dr.
 ありがとうございました。

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