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2023年5月 No.339

 

朝のスタッフ勉強会12
アレルギーと花粉症のお話12
~医学コミック8巻「愛しのダニ・ボーイ」より~

コミック⑧ 表紙【構成用】

引き続き
 当院では朝礼時にさまざまな資料を用いて、接遇や医学・医療についての勉強会を行なっています。ここでは、いま使用している院長監修のアレルギーに関する医学コミック『愛しのダニ・ボーイ』、その解説についてご紹介致します。
 なお、解説含めたマンガも当院ホームページで無料閲覧できるよう準備中です。

34 疑惑への確信
 ここまで、スギ花粉症などアレルギー性鼻炎の大気汚染による増加説について、話をして来ました。そして、小泉氏らによって提唱された、通行車両増加によるスギ花粉症激増は、ディーゼル排出物によるアレルギー増強作用ではなく、落下花粉の再飛散が原因と考えられることをご説明しました。

 さらに動物実験ではディーゼル排出物質(DEP)により、アレルギー反応が亢進するとの仮説は、実はDEPに花粉が付着し長時間影響を残すせいである可能性について触れました。
 大気汚染によるスギ花粉症増加説を唱えるもう一つのグループである、慈恵医科大学耳鼻咽喉科の論文については、どうも怪しいとの指摘も行ないました。

 実は、慈恵医科大学耳鼻咽喉科に対して、日本耳鼻咽喉科学会総会の場で大気汚染の根拠となるデータについて、問いただしたことがあります。調査でスギ花粉についての検査を、実際に行なっていたかどうかの確認です。
 なんと、学会発表のあった会場の外で私は、慈恵医科大学耳鼻咽喉科が発表した79年・80年論文の筆頭著者である兼子順男氏本人(図)に呼び止められ、こう告げられました。

「良く気が付いたな。つい、(スギ花粉と)書き加えたんだよ。当時は、そういう時代だったんだ」

 私は、開いた口がふさがりませんでした。
 大気汚染によるスギ花粉症増加説って、何だったのでしょうか。

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 図1


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 その後の世界の花粉症調査3(3443通信 No.339)

35 日本人の中国産スギ花粉症
 さてここまで書いて来た時点で、実は大変な発見をしました。
 日本特有と誤認されて来たスギ花粉症は実は中国にも存在すること。それはスギが地上に出現した二百万年前から氷河期終了の一万年前まで日本とアジア大陸とは地続きで、スギは陸続きに両国に跨って生育していたことが原因であること。これは両国の樹齢千年以上のスギのDNA解析を行うことによって証明できることについては先に述べました(図2)。

図02
 図2 各地に植生するスギのDNA分析の結果


 そして私たちは1998年に南京医科大学において、日本以外の国における世界で初めてのスギ花粉症症例(32歳女性)を発見したのです。
 この症例は日本杉(Cj)の花粉エキスに対して花粉症症状を示していましたが、それは中国産スギ(柳杉、Cf)にアレルギー反応を示す症例は、Cjに対しても発作を生じることを意味しています。

 それでは逆に、Cjに対してアレルギー反応陽性である日本人スギ花粉症症例は、柳杉の花粉飛散に反応して花粉症症状を引き起こすでしょうか。

 この柳杉はごく少数ではありますが、関西の植物園などに植生しています。奈良医科大学の井手武氏は関西に植生しているCfを使用して、日本人スギ花粉症症例が発作を起こすことを観察しています。
 日本の土壌に生育しているCfは、その有する性質が中国本土のそれとはやや異なる可能性だってありますから、井出氏の報告は必ずしもCf花粉の日本人スギ花粉症患者に対する活性を示しているわけではありません。
 中国本土に飛散しているCf花粉に反応を起こす日本人が実在するのかどうか、それが最大の焦点です。

36 ドクター・ヘリ登場!
 そんな興味を抱きつつ、インターネットで「杉」をキーワードに検索していましたところ、突然「中国杉のおかげで、久々の鼻炎の発作と耳管の閉塞が起こり」というホームページタイトルが画面上に表われました。それがドクター・ヘリのアドレスを持つ、西本方宜先生(苫小牧市)のHPでした。

 それによると西本先生は1999年4月、ヘリコプターの訓練のため、中国四川省成都市の中華民航航空学院にてフライトする機会があったそうです。成都市は中国の中でも比較的Cf花粉飛散の多い地域であり、同年春は温暖でしたから花粉飛散量も豊富だったものと想像されます。
 西本先生は、前述のような花粉症発作に悩まされたあげく、気圧変動に対応できずに航空性中耳炎をも合併してしまいます。幸い、スギ花粉飛散の少ない苫小牧市へ帰宅したところ、まもなく症状は楽になったようでした。

 私たちはさっそく西本先生にご連絡し、私たちのこれまでの研究の経緯と意味をご説明し、調査への協力をお願いしました。ご本人の快諾のもと私たちは、1998年に昆明で採取し冷凍保存してあったCf花粉を使用しての鼻粘膜誘発検査(花粉を直接鼻内に挿入し発作の有無を観察する検査)を計画しました。

 その準備として私たちは冷凍花粉(図3)を解凍し、三好耳鼻咽喉科クリニック職員のうちスギ花粉症に罹患している数名の有志の同意を得て、その鼻内に塗布しました。
 数分以内に被験者(被害者?)は全員、鼻内の掻痒感と鼻閉を訴え、水っぱながたくさん出て来ましたが、この結果から解凍花粉の抗原性(活性)は保たれていることが分かりました。

図03
 図3 冷凍保存した花粉


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「アレルギー性鼻炎と大気汚染」(宮城耳鼻会報 82号|3443通信 No.312) 

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