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2023年7月 No.341

 

英国紅茶シリーズ⑯
ラジオ3443通信「産業革命の象徴とナポレオン」


 ラジオ3443通信は、2010年から毎週火曜10:20~fmいずみ797「be A-live」内で放送されたラジオ番組です。
 ここでは2013年10月15日OAされた、英国紅茶にまつわる話題をご紹介いたします。

130 産業革命の象徴とナポレオン
An.
 三好先生。これまでの先生のお話では、昔の英国では温かいお食事はめったにお目にかかれなかった。それは産業革命以後の一般家庭では、そもそも台所がなかったせいだ。そう、伺いました。
 そしてそれにも増して、料理を冷たくすることはもっと難しいので、英国ではビールは真夏でも冷えていないことが多かった。そんな興味深い話題も聞かせて頂きました。
 当然ですけど電気冷蔵庫のなかった当時、ビールを冷やすなんてことは、物凄く贅沢だったんですね。
Dr.
 前回江澤さんにお話ししましたが、そんな英国では氷を輸入していまして。
An.
 ノルウェイのフィヨルドから、なんと氷山を崩して氷を英国に運んだと、聞いた覚えがあります(図1)。
 でも先生、そんなお話、江澤にはとうてい信じられません(笑)。

図
 図1


Dr.
 江澤さん、英国の産業革命のシンボルは何でしょう?
An.
 三好先生から伺ったお話では、確か優秀な綿製品でした。だってそのために、あのナポレオンが英国を経済封鎖しようとして、失敗しています。
Dr.
 さすがは1を聞いて10を知る江澤さん。リスナーの皆さんのために、そのあたりを少し復習しておきましょう。
An.
 ラジオ3443通信のバック・ナンバーから、リスナーの皆さんには江澤と三好先生のお話の再現を、聞いて頂きましょう。
 先生、今一度、お話をどうぞ(笑)!
Dr.
 1804年にナポレオンは皇帝になったわけですが、陸路では全戦全勝だったナポレオンが唯一負けたのは、英国のネルソン提督率いる英国艦隊だけでした。とくに、1805年に英国本土との間で行なわれたトラファルガーの海戦は、ナポレオンの快進撃そのものに、決定的なダメージを与えました。
An.
 陸伝いにすべてヨーロッパを征服したナポレオンだって、7つの海を制覇しなきゃ、世界征服は難しいでしょうね。
Dr.
 英国に敗戦を喫したナポレオンは、英国に対する経済制裁を行なうことにしました。支配下に置いた国々に命じて、英国との貿易を禁止させます。1806年のことでした。
An.
 それは有効だったんでしょうか?
Dr.
 ところがこうした貿易面でも、実は当時の英国は他のヨーロッパの諸国の遥か上を、行なっていたんです。
An.
 と、言いますと?
Dr.
 あの有名な産業革命が、1760年頃から英国では盛んになっていまして、ヨーロッパ諸国では入手できなかった優秀な綿製品が、生産されていました。その結果、経済制裁をした他のヨーロッパ諸国の方が、現実には困ってしまう事態が次々と明らかになったんです。
An.
 それじゃ、みんな困っちゃう。
Dr.
 ですから、まだナポレオンの影響の少なかったロシアなどは、ナポレオンに黙って英国と貿易を継続するんです。
An.
 ナポレオンは、怒ったのかしら?
Dr.
 制海権はともかく陸では無敵だったナポレオンですから、次はロシアに攻め入るわけです。1812年のことです。
An.
 でも、それはやり過ぎだった?
Dr.
 モスクワまでは無敵で、まっしぐらロシアに攻め込んだナポレオンですが、ロシア政府はナポレオンの進軍する全ての町並みを悉く焼き払ってナポレオンに対抗するんです。
An.
 それじゃ、ナポレオンも困っちゃう。
Dr.
 ロシア各地で消耗戦を強いられたナポレオンは、ロシアに冬の来るはるか以前に総崩れとなり、フランスに逃げ帰ります。
 ナポレオンがロシアに攻め込み、惨めに逃げ帰る有様を描いたのが、ピョートル・チャイコフスキーの『序曲1812年』で、この曲は聴いていて楽しいですよ。
An.
 そうでした、三好先生。そんなナポレオンにまつわる逸話が、英国の産業革命にはあったんですよね。
Dr.
 江澤さん、もう1つの産業革命の象徴は、いったい何でしょう?
 江澤さんの大好きな、トーマス・クックのタイムテーブルは、何の時刻表でしょうね?
An.
 先生、それは蒸気機関車です!
Dr.
 さすがは1を聞いて10を知る江澤さん。産業革命のもう1つの代表は、蒸気機関を動力としたスティーブンソンの蒸気機関車なんです。
 それでは江澤さん。船はどうなったでしょう。
An.
 やはり蒸気機関を使用した船が、その時代には出現するはずです。
Dr.
 以前にもお話ししましたが、トラファルガーの海戦は、風力に頼った帆船の軍艦による最後の戦いでした。
An.
 先生、産業革命後の海の戦いはコークスを燃料とした蒸気船の軍艦が、主力となるんでしたね。
Dr.
 アメリカのペリー率いる海軍が同時期、幕末の浦賀へ来航します。黒船と呼ばれたこの船は「泰平の眠りを覚ます上喜撰(蒸気船)、たった4杯で夜も眠れず」との狂歌で有名ですが。この船は江澤さん……。
An.
 そうか! 蒸気機関による動力を持った船だったんですね。
Dr.
 ただ、当時はまだスクリューが開発されていなかったものですから。外輪船と称して、船の両側に大きな水車が付いていて、それを回して前進するタイプの船でした。
An.
 風まかせのそれ以前の船を較べて、自分の力で進路を決定することができるんですからね。運搬能力は、ケタ違いに大きくなったんでしょうね。
Dr.
 で、このタイプの高速船が運航するようになって、フィヨルドの氷河を溶けないうちに英国まで、無事に運べるようになった。そんな経緯があります。
An.
 英国で冷たいビールを飲むことができたのは、なんと産業革命のせいだったんですね。
Dr.
 英国のお食事の話題は、続きます。次回をぜひ、お楽しみに(笑)!

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