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2023年8月 No.342

 

英国紅茶シリーズ⑱
ラジオ3443通信「氷輸入の歴史とフィッシュ&チップス」


 ラジオ3443通信は、2010年から毎週火曜10:20~fmいずみ797「be A-live」内で放送されたラジオ番組です。
 ここでは2013年10月22日OAされた、英国紅茶にまつわる話題をご紹介いたします。

131 氷輸入の歴史とフィッシュ&チップス
An.
 三好先生前回は、英国で冷たいビールを飲むことができるようになったのは、産業革命のために蒸気船による物資の運搬が容易となった。その結果、ノルウェイのフィヨルドの氷山を切り出して、それを溶けないうちに英国に運んで使用した。そのせいである、と伺いました。
 三好先生のお好きなビールは当然でしょうけど、それ以外の食品もこの氷山由来の氷の恩恵を、十分に受けたんでしょうね?
Dr.
 蒸気船の活躍によってロンドンの港に持ち込まれた氷は、運河を経由して地下10メートル以上の深さの井戸に保存されました。
 こうして保存された氷は、レストランや市場だけでなく医療施設や一般家庭にも販売されたそうです。
An.
 それじゃあ、熱の高い病人を氷で冷やすことができるようになったのも、産業革命以来のことなんですね!
Dr.
 19世紀末になって、氷が大量に輸入されて値段が下がると、町中(まちなか)でのアイス・クリームの販売量も増加したと言います(笑)。
An.
 英国の町中のアイスは、フィヨルドの氷山によって製造されていたんですね? 知りませんでした(笑)。
Dr.
 以前お話しましたように、この英国のノルウェイからの氷輸入の歴史は、1857年にカルロ・ガレッティが350トンを、蒸気船で運搬してから始まりました。
An.
 350トンの氷ですか。江澤には、信じられません(笑)。
Dr.
 このノルウェイからの氷の輸入は、19世紀末には実に35万トンになるんですけれど。(笑)すごいですよね!
 さすがにそれ以降は、製氷された人造の氷がフィヨルドからの氷の採取に、取って代るようになります。
An.
 英国の人たちにとって、毎日の食卓に直結する産業革命の成果は、冷たいビールとアイスが一番だったんでしょうか(笑)?
Dr.
 ところがですね、江澤さん。英国庶民の『国民食』とでも言うべき料理が、やはり産業革命のせいでこの時期、ポピュラーになっているんですね。
An.
 先生、それは何でしょう?
Dr.
『フィッシュ・エンド・チップス』(図1)って言いまして。ヒラメやカレイ、タラや小エビなどお魚のフライと、ポテトのフライを組合せたものです。

フィッシュ&チップスを見てヨダレをたらす英国人
 図1


An.
 先生、それは美味しそうですね!
Dr.
 このポテト・フライは、いわゆる『フレンチ・フライド・ポテト』でして。じゃがいもの角切りを揚げたものです。
An.
 日本でも、ファースト・フード店で良く見かけます。
Dr.
 英国でも『フィッシュ・エンド・チップス』のお店は、立ち食いのそれが多いんです。そのポテトの上に、揚げたての魚のフライを乗っけて、新聞紙で包みます。
An.
 なんだか、江澤はよだれがこぼれそうになります(笑)。
Dr.
 アツアツのそれを片手に乗せて、そこに店頭に置いてある独特の酢をたっぷりと……、いいえむしろドボドボと言えるくらい、思いっきりかけてやります。
 あったかいフライにかかった酢は、ツーンといういかにも食欲をそそる匂いがして、ますますお腹が空きます。
An.
 先生、それを聞いただけで江澤は我慢ができません(笑)!
Dr.
 道端のベンチか、近くの公園に陣取り、酢のしっかり染みた魚のフライをかじります。その瞬間、口の中から鼻に抜ける酢の香りが、まるで体中に行き渡るような感覚を覚えます。
An.
 (ため息と共に)オイシソー、ですねぇ。
Dr.
 魚の匂いの染みたポテトのフライにも、一部酢の味がしますので、油っこさが和らぎます。食べていると、却って食欲が増して来るような気さえして。
An.
 それが、先生、英国の庶民の『国民食』なんですね。
 江澤は英国の人たちが、すっごく羨ましくなりました。
Dr.
 このフィッシュだって、漁船で捕れたそれがロンドンの庶民のもとに届くためには、氷による冷蔵技術の発展が不可欠です。
An.
 鮮魚ですもの、ね。
Dr.
 その通りです、江澤さん。加えて、フィッシュ・フライのお魚が新鮮なまま庶民に提供されるには、冷蔵技術だけじゃなくって、輸送手段にもスピードが必要です。
An.
 それには蒸気船が、当然必要ですよね?
Dr.
 フィッシュ・エンド・チップスのお魚も、英仏海峡や北海つまり英国東海岸の北部の海で捕れたそれが、蒸気船によってロンドンなどに運ばれるんです。
An.
 それじゃあ、ロンドンではフィッシュ・エンド・チップスが豊富に味わえるんですね!
Dr.
 20世紀の始めには、ロンドンには1200軒もの専門店があったと、記録に残っています。
An.
 もしかすると、蒸気船と並んで蒸気機関車も、お魚の運搬には役立ったんじゃありませんか?
Dr.
 さすがは1を聞いて10を知る江澤さん。英国の東海岸で捕れたお魚のロンドンへの供給には、1850年代の鉄道網の整備が一役買っていました。
An.
 そしたら、船と機関車の競争が始まりそうですね。
Dr.
 英国南部の漁港からは、テムズ川をさかのぼる蒸気船が速いか、蒸気機関車による鉄道運搬が速いか、猛烈な競争になったと言われます。
An.
 どちらが、勝ったんでしょう? 江澤まで、なんだかドキドキして来ました(笑)。
Dr.
 最終的には、産業革命の結果整備された鉄道網を走る機関車の、圧勝だったそうです。
An.
 先生、そのフィッシュ・エンド・チップスについて、もう少しお話を聞かせてください。楽しみにしていますので!!

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