2023年9月 No.343
英国紅茶シリーズ⑲
ラジオ3443通信「フレンチフライドポテトの由来」
ラジオ3443通信は、2010年から毎週火曜10:20~fmいずみ797「be A-live」内で放送されたラジオ番組です。
ここでは2013年10月29日OAされた、英国紅茶にまつわる話題をご紹介いたします。
132 フレンチフライドポテトの由来
An.
三好先生、前回は英国の人たちの国民食であるフィッシュ・エンド・チップスについて、楽しいお話を伺いました。
お魚のフライを、ポテト・フライと一緒に新聞紙に包み、お酢をたっぷりと振り掛けて熱々のうちに頬張る。そんなよだれの溢れ(あふれ)そうな話題も聞かせて頂きました。このフライになるお魚は、英国の各漁港から氷で冷やされて、新鮮なうちに蒸気船や蒸気機関車による鉄道などで、ロンドンまで運搬されたと聞きました。
先生、ホントに産業革命の成果って、英国の庶民の食生活の隅々にまで波及したんですねぇ!
でね、先生。前回はフィッシュ・エンド・チップスのお魚について、教えて頂いたんですけど。今日はそれに添えられている、チップスつまりポテト・フライについても、楽しいお話をお願いします。
Dr.
江澤さん。江澤さんはいわゆる『フレンチ・フライド・ポテト』って、聞いたことがありますよね?
An.
ええ、もちろん知ってます。
人差し指くらいの、細長い、断面が四角の、柔らかい揚げポテトのことですよね。
すごーく香しく(かんばしく)って、空腹ときにはあの揚げたての匂いを嗅ぐだけで、とっても堪らないお料理です。
Dr.
そのフレンチ・フライド・ポテトですが、江澤さん。質問です。
これはフランス料理なんでしょうか?
An.
先生、江澤はフランス料理と言いますと、ナイフとフォークとスプーンの並べ立てられた、高級料理ってイメージがあって……。ポテト・フライとはまた違った感じも、ゼロじゃないんです(笑)。
Dr.
その高級なおフランス料理については、別の機会に触れたいと思うんですけど。
江澤さんにお話しした、私のドイツ・ビール修業時代には、ですね。
An.
思い出しました! 先生は40年前、ハイデルベルグ大学の、ドイツ語夏期講習会に参加しておられたんでしたよね。
ドイツ語の講座はともかく、ドイツ・ビールの自主体験会を毎日開催していらした、とか(笑)。
Dr.
思い出しますねぇ、あの頃!
ドイツ・ビールには、やっぱりドイツ料理が一番良く合いまして、ですね。 やや油っ濃い、ブタ肉の煮込み料理なんかを頬張りながら、ドイツ・ビールを頂くんですけど。煮込みの油身が、口の中でトロッと溶けるところへ、思いっきりビールを流し込むんです。
An.
おいしそうですねェ!
そんな肉料理の付け合わせに、やっぱりドイツではポテト料理が、たくさん付いて来るんでしょうね。
フレンチ・フライド・ポテトも、そんな肉料理のお皿にてんこ盛りで載って来るわけですね?
Dr.
お話はそこから、なんですけれどもね。
お肉に添えられているポテトは、茹でたり・炒めたり・バター炒めされたり、各種あるんですけれど。
少なくとも、私がハイデルベルグにいた1972年には、フレンチ・フライド・ポテトは添えられていませんでした。
An.
えっ、それじゃあ先生。その頃先生は、フレンチ・フライド・ポテトをどのようにして食べていたんでしょうね?
こっそり江澤にだけ、耳打ちしてくださいな。
大きな声では、言いませんから(笑)。
Dr.
このタイプのポテトは、当時ドイツではなじみが少なくって、レストランにはありませんでした。
An.
レストランでなければ、どこに売ってたんでしょうか?
Dr.
町中(まちなか)の立ち食いのお店で、白い紙包みに包んで(くるんで)売ってました。そして江澤さん。そのときの、フレンチ・フライド・ポテトの料理名が、なんと『ポム・フリ(ット)』って言うんです。
An.
それは、どういう意味でしょうねぇ。
Dr.
私は正直フランス語は苦手なので。聞きかじりなんですけど。
『ポム』と言う言葉は、『ポム・ド・テール』って、つまりポテトを意味するんですけど。これはもともと、『大地のりんご』という意味のフランス語だそうです。
そして、『フリ(ット)』というのがやはりフランス語で、フライの意味なんです。
An.
えーっ、そうだったんですか!
Dr.
今でもはっきりと覚えているんですけど、ハイデルベルグ市の旧家つまり古い家柄の女性が、こう言ったんです。
「この頃じゃ、古い伝統的な調理法のしっかりした料理がすたれて、こんな品のない食べ物が流行るようになっちゃって……」 そう嘆いていたんです。
もちろんこんな品のない料理って、『ポム・フリ(ット)』のことを指していたんですよ(笑)。
An.
そんなことが、現実にあったんですねえ(笑)。江澤には信じられません。
Dr.
ハンバーガーだって、アメリカ式になってそう呼ぶんですけど。もともとはドイツの都市である、ハンブルグ市の名前が付けられた挽肉ステーキのことで、ドイツじゃハンバーグなんて呼びません。
An.
それじゃ先生、なんて呼ぶんでしょうね?
Dr.
エヘン! ドイツではこの挽肉ステーキのことを厳か(おごそか)に、『ドイチェ・ステーキ』つまり『ドイツ人のステーキ』と称するんです(笑)。
An.
それじゃ、大根おろしをかけてお醤油味で頂くハンバーグは、きっと『日本人のステーキ』って言うんでしょうね(笑)。
Dr.
フレンチ・フライド・ポテトが、ポム・フリ(ット)の英語名、と言うよりアメリカ名であるのと同じなんですけど。ハンバーグ・ステーキだって、もともと生の挽肉を食べる習慣のあった、ハンブルグ港からの移住者の好物を、『ハンブルグ風ステーキ』とアメリカで呼び始めたのが、語源になっています。
An.
ハンバーグとか、それをサンドイッチにしたハンバーガーとかって、アメリカ式の名前なんですね!
Dr.
ですからハンバーグ・ステーキはもともと、生の挽肉を食べるタルタル・ステーキが、オリジナルだったそうなんです。
An.
お話は続く、ですね。次回が楽しみです!