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2023年10月 No.344

 

英国紅茶シリーズ⑲
ラジオ3443通信「世界を制覇した!? タルタル料理」


 ラジオ3443通信は、2010年から毎週火曜10:20~fmいずみ797「be A-live」内で放送されたラジオ番組です。
 ここでは2013年11月12日OAされた、英国紅茶にまつわる話題をご紹介いたします。

133 世界を制覇した!? タルタル料理
An.
 三好先生、前回は英国の庶民の国民食であるフィッシュ・エンド・チップスの話題から、ポテト・フライが「ポム・フリ(ット)」と呼ばれる、フレンチ・フライド・ポテトだったこと。そしてフレンチ・フライド・ポテトと言う呼び方が、実はアメリカ的な表現法であって、決しておフランスの高級料理を意味しているわけじゃないってこと、について教えて頂きました。
 加えて、ハンバーガーに使われるハンバーグ・ステーキだって、ハンブルグ港からアメリカへの移住者の好物を『ハンブルグ風ステーキ』とアメリカで呼び始めたのが、そもそもの由来である、とも伺いました。
 ハンバーグ・ステーキは、もともと生の挽肉のお料理だって聞きましたけど、そうだったんですか?
 江澤には初耳です。
Dr.
 ハンバーグ・ステーキはもともと、タルタル・ステーキと呼ばれた生肉のみじん切りを、加熱したもので……。
 ああ、そうだ、江澤さん。ハンバーグを美味しく食べるなら、お肉をひらべったく焼いてしまっては、旨味が逃げてしまうんですよ(笑)。
An.
 ええっと先生。江澤はハンバーグを焼くときには、お肉に火が良く通るようにフライパンでしっかりと、じっくりと焼いていますけど。それじゃ、本格的ではないわけですね?
Dr.
 ハンバーグ・ステーキは、揚げるように加熱すると、肉の旨味が内部に閉じこめられて、とても美味しく焼けるんです。
An.
 揚げるように焼く……。具体的には、先生、どんな風に?
Dr.
 フライパンを傾けて、その片隅に油を溜まるような角度にします。香りの高いオリーブ・オイルが手に入れば、なおさらうれしいんですけど。
An.
 オリーブ・オイルをフライパンで十分に熱して、そのオイルがパンの片隅に溜まるような角度にキープするんですね?
Dr.
 その、溜まったあっついオリーブ・オイルの中に、良くこねたハンバーグの固まりを入れてですね。ジューッと言う音と共に、表面が軽く焦げるまで加熱します。江澤さん、ジューッと言う音がするように、ですよ!
An.
 セ、センセ。それって、美味しそう!
 江澤は、よだれが止まりません(笑)。
Dr.
 そうして、表面が軽く焦げてサクサクになった、しかも中はあくまでジューシーな状態で、揚げるように焼いたハンバーグは……。江澤さん、お話ししている私まで、よだれが止まらなくなりそうです(笑)。
An.
 ドイツ・ビールに良く合いそうですねぇ(笑)。
 先生のお話では、そのハンバーグ・ステーキはもともと、生肉のみじん切りを加熱したもの、だったとか?
Dr.
 それを、タルタル・ステーキって言うんですけど。私もドイツでそれを、オーダーしたことがあります。
An.
 それはいったい、どんなお料理なんでしょうね?
Dr.
 本来は馬の生肉を使用するんですけど、もちろん牛肉でも美味しく調理できます。
 それらの生肉をみじん切りにして、塩胡椒やオリーブ・オイルで味付けするんです。そして、タマネギ・生にんにく・ケイパー・ピクルスを、やっぱりみじん切りにして生卵の黄身をのっけるんです。
An.
 エネルギーがありそうですね(笑)。
Dr.
 このステーキの名前のタルタルとは、世界最大の帝国・元を作った、モンゴルの遊牧民のことなんです。
 ですから、きっと世界最大の国を作るエネルギーが、そのタルタル・ステーキを食べると、身に付くんじゃあないかと(笑)。
An.
 先生、きっとそうですよ(笑)。
Dr.
 モンゴル帝国の遊牧民は、世界制覇の遠征に出るとき、1人で何頭もの馬を引き連れて行きました。
 この何頭もの馬は、移動用だけでなく、行軍中の食料でもあったんです。
An.
 きっと、すごい大草原を悠然と行軍したんでしょうね?
Dr.
 私たちもウルムチを起点として、天山山脈の大草原を旅行したとき、はるかな大平原の所々にモンゴルの人々の移動用テント、これをゲルと呼ぶんですけれど。
 そのゲルが、あちこちに建てられているのを、目撃しています。
An.
 その周りには、きっとたくさんの放牧の馬がいたんでしょうね、先生。
Dr.
 私たちの場合には馬ではなくって、大きなピックアップ・トラックがゲルの前にありましたけど(笑)。
 もちろん、昔は数えきれないくらい多くの馬が、放牧されていたんです。
An.
 食料にするくらいですもの、ね(笑)。それはそれは、ものすごい数の馬がいたんでしょうね!
Dr.
 で、その馬の肉を生で食べるのが、タルタル・ステーキだったんです。
An.
 世界制覇の、行軍のための馬ですものね。
Dr.
 もともと食用に育成された馬じゃあないので、食べるときには筋(すじ)が多くって硬くって、食べにくかったんだそうです。
 そこでモンゴルの遊牧民は、細かく切った馬の肉を袋に入れて、自分の跨がる鞍の下に置いたそうです。
An.
 ははあ、それで硬かったお肉は……。
Dr.
 人間の体重と馬の動きで潰されて、こなれますから。
 それに味付けをして、ステーキとして食べたのが、オリジナルだったと聞きます。
An.
 江澤が焼き肉屋さんで見かけるユッケと言うお料理も、それに似てますね。
Dr.
 元は巨大な帝国だったので、この調理法が西ではドイツに伝わりタルタル・ステーキに、東では朝鮮半島に伝わってユッケになったと、言われています。
An.
 さすがは、世界を制覇した大きな国のお料理ですね!
 日本では、モンゴルの人々による元の国は、鎌倉時代に日本を襲った元寇のイメージが強く、文化的にはどうもと思ってましたが。
Dr.
 東西の文化の融合をもたらした、大国でもあったんです。お話は続く、です。

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