3443通信3443 News

2023年10月 No.344

 

第34回ありのまま生活福祉講座聴講レポ

秘書課 菅野 瞳

図01


 去る2023年6月10日(土)、仙台市青葉区五橋にある仙台市福祉プラザにて、第34回『ありのまま生活福祉講座』が開かれました。昨年は、新型コロナウィルス感染拡大防止のためオンライン併用での開催でしたが、今年はコロナ前と同様に完全対面での開催となりました。
 例年この生活福祉講座では、2名の講師の方が壇上に上がられます。本年度の講師は、この講座の座長を務められる、彬子女王殿下の歌の先生でもある歌人・永田和宏氏と、昨年のありのまま舎自立大賞を受賞された長崎みなとメディカルセンターの耳鼻咽喉科医師である吉田翔氏が務められました。

 まず先に永田氏が登壇され「言葉の力」について講演されました。

 彬子女王殿下にとって永田氏は、お勤め先である京都産業大学の大先輩でもあるのだそうです。和歌や短歌と言うものを、どのように詠んだら良いものか右も左も分からずだった女王殿下に、三十一文字(みそひともじ)に思いを込める面白さを教えて下さったのは、永田氏なのだそうです。

 歌というのは、花鳥風月(自然の美しい景色)を詠むものだと思われがちですが、実は現代の社会を短い言葉で的確にえぐりだす力を持っている詩形なのだと仰っていました。
 宮中歌会始詠進(毎年1月に宮中で行われる一般公募の短歌を募る国民参加の文化行事)の選者も務める永田氏が、このコロナ禍の状況を見事に風刺していると目に留められた作品を幾つかご紹介します。


“テレワーク できない人が支えてる 文明社会の根っこの部分”


 緊急事態宣言下に家にこもって自粛することが出来たのは、それを支えてくれる方々がいるからこそです。職業に貴賎なしとはいいますが、社会インフラを支える人たちの仕事こそ尊いのだ、というメッセージが込められた歌になっています。


“無策とは 言わぬが足掛けこの二年 例のマスクにイソジンうちわ”


 なかなか新型コロウィルスの特効薬が開発されずやきもきとする中で、風邪の症状に効果を発揮する品を活用し、何とかコロナに抗おうとする現状を表現した歌になっています。なるほどなるほど! 歌を詠んでみようと思い立っても、そう簡単に詠めるものでないことは分かっています。ですが、永田氏がセレクトされた歌を聞いていると、歌が放つ独特な世界に惹き込まれている自分に気付きました。

 永田氏は、恩師と奥様、ご自身にとってとても大切な方々が病床にあった際「ありがとう」という感謝の気持ちを、言葉にして伝えることが出来なかった経験をお持ちなのだそうです。

 恩師との思い出では、亡くなられる前日に見舞った際、これが最期になるかもしれないと直感したが、ずっと伝えなければならないと思っていた「ありがとうございました」の一言がどうしても言えなかったのだそうです。言えばそれが別れの言葉になってしまいそうで、言えないまま病室を去ろうと廊下に出た時に、驚くほど大きな声で「永田君、ありがとう」。永田氏が言い出せなかった言葉を、思いがけず恩師から掛けられ、永田氏も「ありがとうございました」と廊下から返したものの、言葉で自分の想いを伝えることの難しさを、嫌というほど体験した瞬間だったと仰っていました。

 その想いが深ければ深いほど、言葉にしたときに薄っぺらく感じてしまうが故に、それを恐れて言葉にしない。そしてまた、恩師とのやりとりのように、その言葉が別れの言葉になってしまうという思いからどうしても口に出来ないなど、言葉の無力さをも痛感したのだそうです。
 永田氏は淡々と講演をされていましたが、永田氏から発せられる言葉の一つ一つが、ずしんずしんと私の心に響き、講演終了時には、この上ない充実感をおぼえました。

 永田氏からのバトンを引き継ぎ、第2幕の講師として登壇されたのは、障害を乗り越え目標に向かって努力する姿が評価され、昨年ありのまま自立大賞を受賞された、吉田翔氏です。講演タイトルは『聴覚障害をもっと知ってほしい』です。
 私は昨年、同会場にて執り行われた授賞式に参列し、レポートを認めていますので(3443通信 No.334『第22回ありのまま自立大賞 参列レポ』)ご参照下さい。

 さて本日は講師として、ご自身が3歳で先天性難聴という診断を受けてから現在に至るまでの、聴覚障害をもつが故の困りごとについてお話を頂きました。

 まず初めに挙げられたのは、聴覚障害者は“勘違いをされやすい”という点です。大人数での会話に溶け込むことが出来ないため、人の話を聞いていない、ノリが悪いなと思われてしまうのだそうです。自身に向かって話して頂ければ聞き取りやすいのですが、複数で会話をするグループディスカッションとなると、誰かが誰かに話していることを聞き取るのは、とても難しく疲労困憊なのだそうです。
 そして、受験時の英語のリスニング試験。これはマイクでの話は反響して聞こえにくく、電車に乗った際のアナウンスもまた、ほぼ分からないのだと仰っていました。
 特にお風呂場や海、プールへ行く際には、補聴器を外さざるをえなくなるため、会話が出来なくなってしまうとのことでした。

 このような経験から、聴覚に障害を持つ方に対して、経験からだけではなく医学的な知識を踏まえた上での支援を行うため、医師を志し、昨年には耳鼻咽喉科専門医になられました。医療の世界に入れられてからは、最近分かってきたヒアリングフレイル(聞き取る機能が低下している状態)と、認知症の関係に着眼し、認知症の予防に対する補聴器の有効性を訴えられていました。

 皆さんは、補聴器の一般的な価格をご存知でしょうか? 補聴器所有者の1台あたりの平均価格は、約15万円なのだそうです。自治体が支給する助成金制度がありますが、現行、助成金を支給する自治体は2021年2月の時点では、4%未満に留まっているのだそうです。今後は、様々な方々のお力添えで、助成金を支給する自治体が増えてくることを期待したい、と仰っていました。限られた時間ではありますが、講師の先生方からは、生活に密着したとても貴重なお話を拝聴することができました。

図02
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図03
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