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2023年10月 No.344

 

水彩画と随筆47
絵・文 渡邉 建介
院長 三好 彰

P.00


はじめに
 私の従弟である渡邉建介先生より、著書「水彩画と随筆」を拝受しました。渡邉先生は2011年に大学を退職後、その記念として描きためた水彩画をまとめた1冊目の画集を出版されました。
 渡邉先生は、生涯を通じて水彩画を描き続けると決心し、2冊、3冊と版を重ねられて2019年に4冊目の発行と相成りました。
 ご自身が訪れた世界各地の風景を、彩り豊かな水彩を用いて情感あふれる作品に仕上げられています。
 本誌では、渡邉先生の珠玉の作品の数々をシリーズでご紹介いたします。

随筆名「性の決定」
 生物の中には、有性生殖をするグループと無性生殖で子孫を残すグループがある。生命が地球上に誕生した40億年前はすべての生物に性別はなく、細胞を分裂させて増殖を繰り返していた。この方法だと比較的簡単にしかも短時間で子孫を多数増やすことができる。

 しかし15億年前に雄と雌の有性生殖で子孫を残すグループが誕生した。その子孫が我々人類である。

 自分の体を複製して増殖する方法は便利ではあるがまったく同じDNAをコピーするので稀に起きる突然変異ででしか多様性が生じない。したがって環境が変化してその環境に適応できないと種全体がたちまち絶滅してしまう事になる。
 進化の速度も遅々としたものである。有性生殖をすることにより次世代を担う子孫は雄と雌のDNAがモザイク状に入り込み、種の多様性が急速に進んだ。結果として進化速度が速まり地球上に多様な生物群が形成されるようになった。

 我々哺乳類の性の決定は性染色体の組み合わせで決定されることは誰でも知っている。すなわちXX染色体の組み合わせで雌、XY染色体の組み合わせで雄になる。性染色体異常の人が稀に生まれるが、X染色体が1つしかないターナー症候群は女性で、XXY(クラインフェルター症候群)、XXXY、XXXXYなどX染色体がいくつあってもY染色体が1つあれば男性なることから性の決定にはY染色体が決定権を握っている事も分かっていた。

 しかしY染色体上のどの遺伝子が性決定遺伝子なのかという事が明らかになったのは1990年の事である。Y染色体に性決定遺伝子が存在することが分かってから30年もかかってやっと英国人によって性決定遺伝子SRYが同定されたのである。
 遺伝的にXX遺伝子を持った受精卵にSRY遺伝子を導入して育てるとXXでも雄になり、精巣を持つ事が証明された。どうやらヒトは本来女性になるようにプログラムされていてそのプラグラムを切り替えるスイッチがSRYという事になるらしい。

 哺乳類で同定された性決定遺伝子SRYは他の脊髄動物では見つからずいったいどの遺伝子が性決定するかは長い間不明であった。

 やっと最近になって日本人によってメダカの性決定遺伝子が同定された。メダカの性決定遺伝子はY染色体上のSRY遺伝子とは全く違うDMY遺伝子であることがわかった。すなわち性決定は生物種により多様であり、普遍的なものではないという事が解ったのである。
 XXのメダカにDMYを導入すると雄になり作られた精子に妊娠能力が認められるがXXの哺乳類にSRYを導入すると精巣が形成され雄にはなるが妊娠能力のある精子は作られない。理由は哺乳類のY染色体上には精子形成の上で重要な働きをする複数の遺伝子が乗っているのでSRY遺伝子だけ導入しても精巣はできるが妊娠可能な精子は作られないという事になる。
 メダカの場合はX染色体とY染色体ではDMY以外はほぼ同じ遺伝子が乗っているのでDMY遺伝子の導入だけで妊娠可能な精子が作られるという事のようだ。すなわち性決定した後生殖腺の成熟には哺乳類のほうが機序が複雑という事になる。魚の中にはある時は雄で、ある時は雌に性転換するものも多々見られる。

 しかし哺乳類では雄になったり雌になったりするものは見当たらない。自分は男なのに女性になりたいと思っても体の構造を転換するのは大変難しいという事である。無性生殖から有性生殖の生物が分岐した当初はもっと頻繁に性転換があったかもしれない。進化の過程で男と女は役割の分業化が進んだという事なのだろう。同性愛というのはより原始的なものの名残なのかもしれない。

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