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2024年2月 No.348

 

水彩画と随筆51

絵・文 渡邉 建介
院長 三好 彰

P.00


はじめに
 私の従弟である渡邉建介先生より、著書「水彩画と随筆」を拝受しました。渡邉先生は2011年に大学を退職後、その記念として描きためた水彩画をまとめた1冊目の画集を出版されました。
 渡邉先生は、生涯を通じて水彩画を描き続けると決心し、2冊、3冊と版を重ねられて2019年に4冊目の発行と相成りました。
 ご自身が訪れた世界各地の風景を、彩り豊かな水彩を用いて情感あふれる作品に仕上げられています。
 本誌では、渡邉先生の珠玉の作品の数々をシリーズでご紹介いたします。

随筆名「ツタ植物」
「ツタのからまーるチャペルに祈りを捧げーー」という歌がはやったことがある。青春時代を思い出すとてもロマンチックな響きがある。ツタは大きな木や建物の表面を覆って繁茂するのでとても目立ちやすい。しかしツタに絡まれた側にとってはこれほど迷惑なものはない。ツタに覆われた木は、自分の葉っぱが陽の光から遮られてしまい十分な光合成ができないのである。ツタに絡まれた建物はいつも表面がじめじめしていたみが早い。

 ツタは自分の力だけで生きていこうという思想はさらさらない。周りのものを犠牲にしても自分だけが良ければそれでいいと思って生きているたちの悪い輩である。しかし、利害関係のない者には、花の咲かない木に花を咲かせたり朽ち果てた廃屋をきれいな緑で覆ったりという事もあってその自己中心的なやり方に目くじらを立てる事は少ない。
 人間社会において、ツタ植物のような者にしばしば遭遇する。しかし、自分に関係のない人達がどんなに苦しめられていても自分に関係なければ特に関心を持つ事は少ない。場合によっては朝顔を栽培するように肥料をやってツタの繁茂に応援したるするのである。1度でもツタに絡まれて不利益を被った事がある人だけは苦い経験を思い出し、ツタの害を声高に主張する。ツタは実に巧妙な方法で繁茂を続ける。第一はその成長速度である。通常の植物の何倍もの速さで成長する。自分で立つ必要がないので細く長く伸びるのである。自ら自立して太い幹を作る植物が生長のの速度で勝つはずがない。絡まれた木はただなすがままに不利益をこうむり続けなければならず、全体がツタで覆われてツタを支えている木が見えなくなってしまう事もある。ツタに絡まれた木は自分ではどうする事も出来ないが、その害に気づいた人がツタを退治するのは比較的簡単である。幹が細くて脆弱だから根元を簡単に切断できる。根元を切断すればあっという間に繁茂していたツタは枯れてしまう。

 ツタが害のある植物だと認識するかどうかなのである。ツタに絡まれた経験のあるものは積極的にツタ退治を行うだろう。ツタに絡まれたことのないものも協力してツタ退治をすれば、社会からツタは短時間で一掃される。ツタの害を知った者がいかに世間に向かってツタの害をプロパガンダできるかが重要と考える。無関心が一番よくない。大方の人はよほどの事がない限り自分に関係のない事には目をつぶってしまう。

「朝顔につるべ取られてもらい水」

 ツタ植物は一見弱弱しく見える。同情を買いやすい。騙されてはいけない。朝顔のような1年草の場合はまだいい。ツタによる害は短期間で終わる。しかし大木に大蛇のごとく絡まるツタは寿命が長い。最初は細い幹も年ごとに太くなり、つるを伸ばして木全体を覆い尽くす場合もある。そして1本の木だけでは飽き足らず隣の木にも乗り移り周囲に被害を拡散させようとする。

 悪をばら撒くという点では癌に似ている。癌は宿主から栄養を奪いながら増大を続ける。しかし癌はずる賢さでいえばツタ植物には遠く及ばない。癌も自己中心的で相手の事を慮ることなどない。そして最後は大事な本体を殺してしまうのである。まったく浅はかな戦略である。本体が死んだとき癌も死滅してしまう。本体を食いつくして本体が死んでしまえば自分も死んでしまう事にそれまで気がつかないのだ。本体を殺した時初めて「しまった!」と思うのだろう。しかしその時は後の祭りだ。ツタ植物はどうだろう。ツタが大木の表面を覆い尽くしてとうとう大木が窒息死したとしよう。たとえ大木が死んでもツタは同時には死なない。枯れた大木にいつまでも絡みついてツタは益々繁茂する。まったく恐ろしい執念だ。癌よりたちが悪いのだ。こんなにたちの悪いのに自然界にあっては誰も手を加え退治に一役力を貸すことはない。唯一、人間だけがたちの悪いツタ植物を退治できるのだ。退治方法はその気になれば容易なのだ。

 立ち上がろう! 社会が壊される前にみんなで関心を持ってツタ退治をしよう。

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