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2024年3月 No.349

 

三好耳鼻咽喉科クリニック ラジオレポート
ラジオ3443通信「発音・発声障害の矯正法」

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2022年11・12月号掲載


 耳・鼻・喉に関する病気を扱う「三好耳鼻咽喉科クリニック」の三好彰院長は、耳鼻咽喉の診療に携わって45年。今回は2014年7月にfmいずみで放送された内容を紹介します。
[An.…江澤アナウンサー、Dr.…三好院長]

発音・発声障害の矯正法
An.
 電話を発明したアレクサンダー・グラハム・ベルのお母さんの名前が「イライザ」で、バーナード・ショーがこの名前の主人公の活躍する下町英語矯正物語をミュージカル「マイ・フェア・レディ」の脚本にした。そんなエピソードを、伺いました。
Dr.
 江澤さん。その「マイ・フェア・レディ」のエピソードが重要なのは、現実のベルのお母さんも英語が不自由だったという、真実があるからなんです。これは私の“副業”の(笑)、耳鼻咽喉科に関するお話なんですけれども。ベルのお母さんのイライザは、耳が不自由だった。つまり難聴者だったんです。
An.
 ベルの身の周りには、難聴者のことを親身に考える環境が整っていた?
Dr.
 実はベルの奥さんも難聴。耳の不自由な人も、ロンドンの下町娘じゃありませんが、話し言葉が正確ではなくなります。
An.
 えっ、どうしてですか、先生。
Dr.
 赤ん坊が、言葉を覚えてしゃべるようになるためには、他の人がしゃべっているのを耳で聞き、コミュニケーションの手段として使い始める。そんな手順が必要なんです。言葉の正確な発音法だって、耳から入った会話を習得するところから、スタートするんです。
An.
「マイ・フェア・レディ」のイライザが、下町言葉でしゃべるのも父親の影響でしょうから…。
Dr.
 そう!「運が良けりゃ、運が良けりゃ」って歌で有名なイライザの父親アルフレッドのせいですよ(笑)!
An.
 イライザは、寝物語に下町言葉を聞かされて育ったんでしょうね?
Dr.
 前にお話ししましたように、耳が不自由な場合、言葉が均等に聞き取れないのではなく、難聴の耳の周波数特性に応じてひずんで聞こえます。生れつき聞こえに難点がある子どもの場合、発音も耳の周波数特性を反映、ひずんでくることがあるんです。
An.
 五感の聴覚を担当する耳に、入ってくる音、つまり情報が片寄っていると、インプットに異常があることになりますから、アウトプットに相当する発声もしくは発音も、不正確な片寄ったものになるのは当然ですよね。
Dr.
 子どもの頃から地域特有のなまり言葉を聞いて育つと、発音にもなまりが感じられるようになり、もしも耳が不自由だったならば発音も耳に入ったひずんだ音そのままの発音を、そのまま口に出すことになります。
An.
 発音もしくは発声というのは、耳に入った情報の反映なんですねぇ! 矯正は、不可能なんでしょうか?
Dr.
 実はこうした片寄った発音や発声は、耳に入ってきた情報がどうであれ、アウトプット器官である口や喉の訓練で、矯正してやることができるんです。江澤さん。「マイ・フェア・レディ」の中で、ヒギンズ教授がイライザの下町英語を、懸命に修正していたシーンを思い出してください。
An.
 江澤の発声訓練も大変でしたけれども。ベルのおじいさんの朗読と弁論のクラスも大変だったみたいですねぇ!
Dr.
 こうした経験からベルのお父さんは、発音や発声を口の形や喉の使い方で分類し、その使い分けで正確な発音と発声を再現する手法を編み出します。
An.
 
たしかに口や喉の形を一定の形態に整えて、息を大きく吐いてやると全く同じ音声を再現できます。
Dr.
 その手法を、グラハム・ベルは耳の不自由な子どもたち、難聴児に応用するんです。それがろう学校などでの教育法に取り入れられ、ベルはろう教育、つまり難聴児教育に熱中するようになります。お話は続く、です。

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