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2024年3月 No.349

 

このたび仙台市医師会報(714号)に『三好 彰:めまい疾患とめまい専門家.仙台市医師会報714; 2024』が掲載されました。

エッセイ『めまい疾患とめまい専門家』
(仙台市医師会報 714号)
三好 彰(三好耳鼻咽喉科クリニック)

図01


 最近、仙台市内でもめまい患者の増加が判明してきており、例えば当院でも1日の来院者数60~70名に対し、30名は必ずめまい患者が含まれている。
 来院者に話を聞いてみると、めまい患者はどの診療科を受診して良いか分からない上、家庭医や内科医を受診しても投薬のみで経過観察となっている場合が多く、困り果ててインターネットで探し当てた当院を受診するようである。
 というのは、めまい患者は可能性として脳神経疾患、内科疾患、精神疾患などの広範な診療科にわたり原因が疑われるものの、その実に90%以上は内耳に起因しているとされる。ところが、患者側からすれば、めまい症状で最初から耳鼻科医を受診するということはなかなか思いつかないからであろう。

 さらにその問題は、めまいを扱わねばならない医師がそもそもめまい医学についての研究・専門学会での研修を受けていないことも多く、せっかく受診した患者のニーズに応じきれていないことが課題であるように思われる。
 なぜかというと、日本めまい平衡医学会(以下めまい学会)ではいわゆる専門家(正式名称:めまい学会専門会員)の資格を取得するためには厳重な審査を要求しており、豊かな経験と十分な研究歴がなければ取得を認めないからである。

 具体的にめまい専門会員になるためには、以下の条件が必須となる。

 めまい学会正会員歴が5年以上。
 めまい平衡医学に関する学会発表を起点として研究歴8年以上。
 めまい平衡医学に関する学会発表(筆頭演者)が10編以上。
 めまい平衡医学に関する論文(査読あり)が10編(うち欧文誌の論文が一編)以上。
 同学会の役員(理事・監事)、代議員、専門会員、参与のうち2名の推薦

 以上の条件を満たした上で学会での審査を受け、専門会員つまりより高度なめまいを扱う専門家になれる、という決まりである。

 また、めまい専門会員のほかにもめまい相談医という制度が設けられているが、これは文字通りめまいの相談と臨床を主とする会員の制度であって、めまい医学のスタートラインとして位置づけられている。つまり学会発表数・論文数とも十分とは言えないのがめまい相談医なのである。

 これらの相違を良く知らないために、せっかくめまい疾患で耳鼻科医を受診した患者も、かえって十分な学識に基づく診断・治療が受けられずに迷ってしまうのが現状と言わねばならない。
 専門家が扱うべきめまい疾患の一例として、良性発作性頭位めまい症(BPPV)がある。これは内耳の三半規管を機序とするめまいで、何らかの原因で耳石器から剥がれた耳石が半規管に侵入し、神経細胞を直接刺激することで激しいめまいが起きるのが特徴である。そしてこのBPPVは耳鼻咽喉科領域のめまい疾患の90%近くを占めるとされる。
 その診断と治療には、まず耳石が左右どちらの耳の半規管に存在するのかを頭位変化による眼振を観察することで判別し、次いで浮遊耳石を半規管内から移動させる浮遊耳石置換法(Epley法)を用いるのが有効である(当院HP| https://www.3443.or.jp/dizz/index.html)。

 適切な治療で改善したときの患者の喜びようはいかばかりか、これも当院HPで読み取ることができる(https://www.3443.or.jp/news/?c=18342|めまい関連記事)

 繰り返すが、残念ながらこれらのめまい疾患の診断・治療が十分に可能なのはめまい学会専門会員資格を有する医師であり、例えば東北地方では5名の医師が該当するのみである。

 青森県:一條 宏明医師(一條耳鼻咽喉科クリニック)
 秋田県:石川 和夫医師(秋田大学名誉教授)
 宮城県:三好 彰医師(三好耳鼻咽喉科クリニック)
 福島県:五十嵐 秀一医師(いがらし耳鼻咽喉科・めまいクリニック)、青柳 優医師(大町病院耳鼻咽喉科)
 ※日本めまい平衡医学会ホームページ専門会員リスト(https://www.memai.jp/examin/memberlist/)より抜粋。

 この資格取得者については、めまい学会の会報(https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jser/-char/ja)にその情報が明示されているだけであり、一般の内科、耳鼻科等の会報・広報誌・HPには掲載されていないために、耳鼻科医自身の間でさえ誰が専門家か分からないということも少なくない。同じ耳鼻科医としては歯がゆいとは思うが、耳鼻科医の自己研鑽の不足がこの事態を招いていると言われても仕方がないように思う。
 本文をきっかけに、耳鼻科医は元より家庭医を担当する内科医等の総合診療医に、この知識が伝わり、めまい患者を正しい道へと導いて頂けるよう願ってやまない。

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