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3443通信 No.359

 

三好耳鼻咽喉科クリニック ラジオレポート
ラジオ3443通信「ヘレン・ケラーのベルへの感謝」

図01


 耳・鼻・喉に関する病気を扱う「三好耳鼻咽喉科クリニック」の三好彰院長は、耳鼻咽喉の診療に携わって45年。今回は2014年12月にfmいずみで放送された内容を紹介します。
[An.…江澤アナウンサー、Dr.…三好院長]

ヘレン・ケラーのベルへの感謝
An.
 前回は「盲聾唖(もうろうあ)」であったヘレン・ケラーが他の五感を活用し、世界を広げていったお話でした。五感の中でも聴覚や視覚は「思考」に関わっていることも、教えていただきました。
Dr.
 まず、ものには全て名前がついていることを、理解せねばなりません。
An.
 ヘレンの場合、それが難しかったわけですね?
Dr.
 江澤さんはヘレンが言葉に目覚めた有名なエピソードをご存じ?
An.
 確か、サリバン先生が井戸水をヘレンの手に注ぎ、ヘレンがその水の冷たさや触覚を感じた瞬間に、サリバン先生がヘレンの手のひらに指文字を書いたんでしたよね…思い出しました! 確かサリバン先生は“w-a-t-e-r”、「水」と書きました。
Dr.
 ヘレンは自伝にこう書いています。“私はじっと立ちつくし、その指の動きに全神経を傾けていた。すると突然、まるで忘れていたことをぼんやりと思い出したかのような感覚に襲われた-感激に打ち震えながら、頭の中が徐々にはっきりしていく。ことばの神秘の扉が開かれたのである。この時初めて、 “w-a-t-e-r”が私の手の上に流れ落ちる、このすてきな冷たいもののことだとわかったのだ。この「生きていることば」のおかげで、私の魂は目覚め、光と希望と喜びを手にし、とうとう牢獄から解放されたのだ!”(図1)

図02
 図1


An.
 全てのものには名前があるという事実にヘレンは目覚めたんですね?
Dr.
 ヘレンはその直前、自分の意志が相手に通じないことにいらだち、大切にしていた人形を壊してしまったんですけれど。ヘレンは、こう書きます。“家の中へはいるとすぐに思い出したのは、壊した人形のことだった。手探りで暖炉のところまでたどり着き、破片を拾い上げる。もとに戻そうとしたが、もうもとには戻らない。目は涙でいっぱいになった。何とひどいことをしたのかがわかったのだ。この時、私は生まれてはじめて後悔と悲しみを覚えたのだった。”ものには名前があり、名前によって思考の対象になる。それがヘレンも実感として分かったんですね。
An.
 ヘレンは三重苦を、どうやって克服したんでしょうか?
Dr.
 人間のコミュニケーションは、耳から言語を入力し、頭脳に伝えて考えます。それが「インプット」。頭脳で考えた内容を「アウトプット」、すなわち出力するのは発声です。
An.
 人間のコミュニケーションは「耳からの入力」と「のどからの発声」で構成されているわけですね!
Dr.
 ヘレンも発声の訓練を受けることになります。入力と出力、出力と入力、その繰り返しが人間同士のコミュニケーションですから。
An.
 どこかで聞いたことがあるような。
Dr.
 実は目の前ではなく遠距離での人間同士のコミュニケーションを可能にしたのが、ベルの発明した電話回線だったんですよ!
An.
 そうでした! ベルの、最大の業績は電話でしたよね! ヘレンの自伝の冒頭に、こう書いてあります。“本書をベル博士に捧げる。博士は聴覚障害者の教育に尽くされ、電話の発明により、大西洋からロッキー山脈まで声が届くことを可能になされた方である”。
Dr.
 ベルの偉大さと、ヘレンの心からの感謝の念がにじみ出た謝辞ですね。


出典:ヘレン・ケラー(小倉慶郎・訳)/奇跡の人ヘレン・ケラー自伝/新潮文庫

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