3443通信 No.360
ラジオ3443通信「クリミア戦争の外科手術」
ラジオ3443通信は、2010年から毎週火曜10:20~fmいずみ797「be A-live」内で放送されたラジオ番組です。
ここでは2012年9月18日OAされた、学校健診にまつわる話題をご紹介いたします。
86 クリミア戦争時の外科手術
An.
三好先生、前回は先生のご先祖が行なっておられた北海道白老町で、先生が学校健診を開始されたこと、そしてご先祖のおられた幕末はクリミア戦争と同じ時期であったこと、についてお話を伺いました。
お話が日本だけじゃなくって、ロシアや地中海まで遠征してしまって。江澤の頭は混乱しそうです(笑)。
Dr.
優秀な江澤さんが、その程度で音をあげるとは、私には信じられません(笑)。
お話を続けます。
An.
江澤も気を取り直して、しっかり勉強します(笑)。
Dr.
お話はその時代、ロシアが南下して来ていて、クリミア半島のある黒海を制覇しようとしました。
An.
先生、それはなぜでしょうか?
Dr.
ご存じのようにロシアは、ヨーロッパからアジアにかけて、広い面積を占めています。ただそのほとんどは陸地であって、当時の重要な交通機関である船の出入りする港を持ちませんでした。
An.
北極海では、船の活動には向いてしませんし、ね。
Dr.
その通りです。北極海は冬には凍結してしまったりするので、年間を通じての使用にはムリがあります。
かと言って、当時ロシアの首都だったサンクト・ペテルブルグの目の前のバルト海は、北欧3国に挟まれています。ロシアの艦隊が通過するには、かなりの危険があります。
やはり、ロシアか国際的な活動を行なうには、地中海に繋がる港が、ぜひ必要だったんです。
An.
あぁ、それで黒海そしてクリミア半島のお話になるんですね!
Dr.
ロシアは大国だったトルコの領地の黒海に進出しようとして、クリミア戦争に突入します。トルコは当時、ウクライナやエルサレムまで領地として所有する、歴史上の大国家だったんです。
An.
どうしてその戦争に、ナイチンゲールが出てくるんでしょうか?
Dr.
トルコに味方して、英国やフランスが参戦したために、ナイチンゲールの出番がやってくるんです。
An.
でもなぜ英国が参戦するんでしょうね?
Dr.
シャーロック・ホームズを読むと、あのワトソン医師がインドで英国軍に加わっていたことになってます。
つまりその時期、英国はインドを植民地にしていて、黒海周辺はインドへの交通路になっていたんです。その交通路をロシアが占領したものですから・・・・・・。
An.
なるほど、シャーロック・ホームズを読めば、すべてのナゾが解けるんですね(笑)。
Dr.
そこでクリミア戦争が起こり、前回ちょっと触れたナイチンゲールの活躍が、有名になるんです。
An.
医療関係の話題でしたら、先生ご専門なんじゃないですか?
Dr.
ナイチンゲールその人については、ここで私が述べるまでもありませんが、クリミア戦争当時行なわれていた外科手術について、少しご説明しておきます。
An.
三好先生の耳鼻科も、医学の領域の中では外科系に入るんですもの、ね。
Dr.
さすが、1を聞いて10を知る江澤さん。それではご説明いたします。
An.
待ってました!!
Dr.
クリミア戦争当時の外科手術と言いましても、まともな手術が開発されていたわけじゃありません。
戦闘でケガをした兵士が出血死しないように、傷口を切断して包帯を巻く程度のものでした。
手術のための痛み止めの麻酔だって、当時のヨーロッパには無かったんです。
An.
それじゃ手術は、すっごく痛かったんじゃないですか?
Dr.
冗談半分に今でも僕らは「ゲンコツ麻酔」って言っているんですけど、ね。当時は冗談抜きに、強いお酒を患者の口に含ませ、銃の台座で後頭部を殴り付け(笑)、患者が気を失っているスキに、傷ついた手足を一気に切断するなんてことがあったみたいです。
An.
江澤は想像しただけで、イヤです(笑)。麻酔って、当時のヨーロッパには無かったんですか?
Dr.
麻酔を使用して手術をしたとの伝説は、あの三国志で関羽が腕の手術を受けた、想像上の名医である華佗(かだ)が麻酔術を心得ていた、とされます。
An.
先生、お話は三国志に飛ぶんですね!
Dr.
医学の歴史の上では、華岡青洲(はなおかせいしゅう)という、江戸時代の日本の外科医が、1804年に全身麻酔で乳がんの手術を行なったのが最初です。その技術は当然、鎖国中の日本からヨーロッパに伝わることは、ありませんでした。
ですから、クリミア戦争では傷ついた兵士たちは、無残にも「ゲンコツ麻酔」で手足を切断され、放置されていたに等しかったんです。そこに現われたのが、「白衣の天使」ナイチンゲールだったんです。
ついでにお話ししますと、当時のヨーロッパでは外科医というジャンルが確立していなくって。


An.
それじゃ、ブラック・ジャックはヨーロッパにはいなかった(笑)んですね!
Dr.
ヨーロッパの医学では、古くから内科医であるドクトルはいたんですけど、ね。
ぶ厚い書物の知識を脳味噌に詰め込んで、ふんぞり返って診断し、厳かに(おごそかに)お薬を調合して処方する。それがドクトルでした。
An.
それじゃドクトルは、外科手術はしなかったんですね?
Dr.
当時はなんと床屋さんが外科医をかねていて、床屋さんたちが戦場で負傷した兵士たちの、手足を切断していたんです。
An.
エーッ、先生それはホントの本当ですか?
Dr.
次回は、そのお話です。どうぞ、お楽しみに!