3443通信 No.366
めまいには様々な病態があり、その多くは耳に原因があると言われています。ですが、なかには脳などの命の危険が伴う中枢性めまいも存在します。
ここでは、過去に学会で発表しためまいに関する症例についてご紹介します。
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学会発表『脳幹海綿状血管腫症例の長期観察』
期 日:2008年10月30日
学会名:第67回 日本めまい平衡医学会
三好 彰(三好耳鼻咽喉科クリニック)
石川 和夫(秋田大学)
藤原 悟(広南病院脳外科)
はじめに
症例:O.S、 1944.8.28生、男性(図1)
1978年8月7日、めまい感と左側の耳鳴を訴えて新潟市民病院脳外科と耳鼻科を受診。聴力検査においては、左側軽度感音難聴を呈し、自記オージオメトリでJERGERⅢ型を示した。インピーダンスはA型を示しており、アブミ骨筋反射、蝸電図およびABRは正常であった。前庭機能においては左に向かう自発眼振が見られたが、温度眼振、OKN、ETTは正常であった。

図1
東北大学長町分院耳鼻科と脳外科の外来を受診。左へ向かう自発眼振が見られたが、OKP、ETT、温度眼振検査正常であった。
翌1979年1月18日には複視が出現、1月26日には上向きの眼振(図2)、1月29日はややSaccadicなETTを示した。

図2
2月1日のCTでは第Ⅳ脳室の左側に腫瘍があり、圧迫されて第Ⅳ脳室が右側へ偏移していた(図3)。
2月13日には味覚障害、舌の痺れが出現した。
2月20日のCTでは第Ⅳ脳室は同じように右側偏移を示しているが腫瘍は確認できなくなっていた。
しかし、1979年12月18日のCTでは再び腫瘍が造影された。
12月25日のABRでは右側は正常であったが、左側はI波のみであった(図4-①②)。

図3

図4-①

図4-②
これらの所見から、第Ⅳ脳室底の動静脈奇形か血管腫が疑われた。
加えて12月25日には、左側中枢性顔面麻痺が出現し、1980年3月11日には左側ウィンク不可となった。
1980年3月17日の味覚検査では、CNⅦ・Ⅸとも左側がほぼスケールアウトで、病変は顔面神経核より中枢の、孤束核に及んでいることが理解できた(図5)。

図5
1980年3月中旬に入り、症状の急激な増悪が見られ、CT上(図6)も腫瘍による脳幹の圧迫が懸念されたため、3月18日緊急開頭術を施行、第Ⅳ脳室底の動静脈奇形と思われる腫瘍を摘出した(図7、8)。

図6

図7

図8

図9

図10

図11
術式であるが、後頭頭蓋より小脳後面を露出、小脳虫部を電気メスにて凝固し脳ペラにて左右に分けると、第Ⅳ脳室に到達した。術中所見に示すように、腫瘍は第Ⅳ脳室底の顔面神経丘外下方に存在した。腫瘍は一部嚢胞状となっており、摘まむと黄色の透明な液体が流出したが、摘出に際し出血はさほど見られなかった。
今日の常識から考えると、本症例に対する術式の選択には疑問が生じるかも知れない。しかし小脳への損傷の少ない、Seegerによる小脳扁桃を拳上して第Ⅳ脳室に至る技法は、手術のなされた1980年以降出版(Springer Verlag, Wien)されており、同年3月18日の時点では止むを得ない手法であった。
本症例は脳外科を退院後、社会復帰を果たし、脳外科のフォローのもとに全国各地へ転勤したが、退職後は仙台市の三好耳鼻咽喉科クリニック近辺に在住することになった。
2007年10月には、三好耳鼻咽喉科クリニックを受診している(図9~11)。
AVMと海綿状血管腫
血管撮影で検出困難な血管奇形はAOVM(angiographically occult vascular malformation)とよばれ、その範疇にAVM、cavernous angioma、venous angioma、毛細血管拡張症がある。
胎生期第3週に発生する先天性異常で、脳の動脈と静脈の間に毛細血管を介さない短絡がみられるものを脳動静脈奇形(AVM)という。
それに対し、異常に拡張した洞様血管が限局性に密に集合している先天性血管奇形を海綿状血管腫という。各血管の間には正常脳組織は存在しない点でAVMと異なる。
まとめ
1.1978年に発症し、1980年に脳幹部AVMとして開頭術を受けた、脳幹海綿状血管腫の1症例を報告した。
2.本症例の中枢性顔面麻痺は同側性であり、顔面神経核に至る直前で交叉後の中枢神経線維がダメージを受けたものと推測された(図12)。
3.味覚検査にて鼓索神経、大錐体神経、舌咽神経が共に障害されていた事実は、前記の推測を裏付けている。
4.本症例については今後も、脳外科と当院で経過観察を継続する予定である。

図12
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