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3443通信 No.366

 

『耳鼻と臨床誌』に掲載された論文『三好 彰他:三叉神経知覚異常にて発見された聴神経腫瘍の1例. 耳鼻55:264-267, 2009』(耳鼻と臨床会)をご紹介いたします。

 

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論文『三叉神経知覚異常にて発見された聴神経腫瘍の1例』

三好 彰(三好耳鼻咽喉科クリニック)
中山 明峰(名古屋市立大学医学部耳鼻咽喉科学教室)
三邉 武幸(昭和大学藤が丘病院耳鼻咽喉科)


まとめ
 われわれは、変動する難聴を呈し、三叉神経知覚異常を呈した聴神経腫瘍の1症例を経験した。
 最終的に、MRIにて小脳橋角部の腫瘍を確認し診断に至ったが、聴神経症状に加えて三叉神経症状の把握が重要であった。耳鼻咽喉科外来診療における12脳神経の基本的検査の必要性について、再認識させられた。

 Key words:聴神経腫瘍、三叉神経知覚異常

はじめに
 聴神経腫瘍などを耳鼻科外来で検出するに際し、神経耳科学的検査から画像診断に導くのが理想的と考えられる。しかし現実の多忙な耳鼻咽喉科外来診療では、疑わしい症例を前にして画像診断の適応に惑うことも多い。
 ここでは、変動する難聴を呈した症例を7年間追跡し、第V・Ⅶ・Ⅷ脳神経(CN V・Ⅶ・Ⅷ)の所見から画像診断を行い、聴神経腫瘍を発見した経験について報告する。

症例
症 例:35歳、女性
主 訴:左側耳鳴と半年前からの舌の乾燥感(部位は特定できない)。
既往歴:特になし。
現病歴:1996年2月2日起床時から左側耳鳴(金属音)が出現し、同日三好耳鼻咽喉科クリニックを受診した。舌の乾燥感は、半年前から存在した。
 当院受診時の所見:鼓膜所見異常なく舌所見も正常だったが、図1に示す聴力像を呈した。
 受診後の経過は、次のとおりとなった。
 当初の耳症状はビタミン剤の静注とステロイド内服にて、2月13日には改善した(図2)。

図01
 図1

図02
 図2


 それ以降も左側耳閉感・左側難聴にて繰り返し当院を受診したが、保存的治療で改善した(図3、4)。
 2003年9月24日、舌左側から口角そして頬部のしびれ感が出現し、同部の温覚・味覚低下も伴ったため当院を受診した。
 なおこの際、当院受診前に内科と口腔外科を受診しているが、いずれも異常なしと診断されている。

図03
 図3

図04
 図4


 当院受診時聴力は正常だったが、左方へ向かう眼振を認めた(図5)。三叉神経の知覚検査では、第2・3枝領域の触覚低下が認められた。
 これらの所見と7年間の経過から、小脳橋角部の病変が聴神経と三叉神経に影響を与えている可能性を疑い、内耳道を標的としたMRIを実施した。
 その結果、左側小脳橋角部に径1.5cmの腫瘍陰影が認められ、脳外科にて聴神経腫瘍と診断された(図6)。
 その後本症例は、脳外科にてγナイフを実施され、脳外科外来で経過観察中である。

ず図05
 図5

図06
 図6


考察
 耳鼻咽喉科一般外来において、変動する難聴や舌のしびれ感を訴える症例は多い。しかしそれらは背景になんら基礎疾患の存在しない、一過性の症状であることが少なくない。
 けれどもまれながら、脳腫瘍など症状を裏付ける背景疾患が潜んでいることも絶無ではない。
 今回、われわれの報告した症例は7年間の当院への通院中に、(1)聴神経(cranial nerve Ⅷ, 以下CNと略記)の症状として変動する難聴・耳鳴・耳閉感を、(2)三叉神経(CN V)の症状として①触覚低下と②温覚低下を、(3)顔面神経(CN Ⅶ)の症状として味覚低下を、それぞれ呈していた。
 これらの所見からわれわれは、小脳橋角部に病変が存在しCN V・Ⅶ・Ⅷに影響している可能性を考えた1)。結果的に内耳道に焦点を絞ったMRIが聴神経腫瘍を描出し、確定診断に至った。

 こうした症例の検出に当たり、当然ながら最終的に画像診断が決め手となる。しかし無目標なMRIなど画像撮影は却って混乱をもたらす可能性が高く、標的を明らかにした画像診断のなされることが望ましい。
 ことに近年は、脳ドッグなど中枢神経のスクリーニングを受けられる環境が身近に整っており、それはむしろ困惑に繋がる場合も想定できる。かと言って、視診を主体とした耳科学的検査のみに、難しい中枢神経疾患症例の診断根拠のすべてを求めることは、無理が伴う。

 実際、われわれも突発性難聴や変動する難聴を呈した聴神経腫瘍症例を、これまでに何例か経験してきた2)3)。しかし本症例のように聴力が全く正常に回復してしまう症例に対しては、いつの時点で画像診断に踏み切るべきか、迷うことも少なくない。
 その場合すでに述べたとおり、耳鼻科医の多忙な外来診療においても、簡単な12脳神経のチェック1)を行なっておくことは有意義である。

 本症例ではそれに加えて、症状の消長を細かく追跡しておくことが、聴神経腫瘍の可能性を疑う上で役立った。
 本症例を経験してわれわれは、耳鼻咽喉科外来診療における12脳神経の基本的検査の必要性について、改めて認識させられた。

文献
1) Linda Wilson-Pauers et al:ビジュアルテキスト脳神経. 高倉公朋監訳, 79-104頁, 医学書院, 東京, 2004.
2) 程 雷、他:突発性難聴で発症した聴神経腫瘍の2例. 耳鼻44:630-633, 1998.
3) Shi H B et al:Acoustic neuroma presenting as sudden and fluctuating hearing loss - A review and case report - . 耳鼻49:S76-S80, 2003.

 

(英文抄録)
A case report of acoustic neuroma accompanied by trigeminal paresthesia.

Akira MIYOSHI*, Meiho NAKAYAMA** and Takeyuki SAMBE***
*MIYOSHI ENT Clinic, Sendai 981-3133, Japan
**Department of Otolaryngology, Nagoya City University, Nagoya 466-8550, Japan
***Department of Otorhinolaryngology, Showa University Fujigaoka Hospital, 227-8501, Japan


  We herein report a case of acoustic neuroma with trigeminal paresthesia presenting with fluctuating hearing loss. We made a definitive diagnosis from the MRI confirmation of the tumor at the cerebellopontine angle. This case demonstrates that it is important it was important to understand related to cranial nerves V and Ⅷ. We therefore reaffirm the necessity of a basic examination of the 12 cranial nerves during ENT outpatient care.


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