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3443通信 No.369


 めまいには様々な病態があり、その多くは耳に原因があると言われています。ですが、なかには脳などの命の危険が伴う中枢性めまいも存在します。
 ここでは、過去に学会で発表しためまいに関する症例についてご紹介します。

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学会発表『中脳梗塞に延髄外側症候群を合併した1症例』

期 日:2008年10月30日
学会名:第67回 日本めまい平衡医学会
会 場:秋田ビューホテル

三好 彰(三好耳鼻咽喉科クリニック)
中山 明峰(名古屋市立大学)
石川 和夫(秋田大学)
鈴木 淳一(日本ヒアリング・インターナショナル)


症 例
症 例:M.Y 71歳 男性
既往歴:高血圧
現病歴:約10年前からのいびきと無呼吸を訴えて、2002年5月24日当院を受診。1999年に東北労災病院にて簡易検査を受けたことがあるが、無呼吸は軽度との診断(図1)。

図01
 図1


受診後の経過①
 2003年2月28日、PSGを施行。AHIは55.2で、重症の睡眠時無呼吸症候群。
 同年4月4日、CPAP装用開始。なお、この折のECGで、上室性期外収縮を指摘されている。脳MRIは年齢相応の変化が見られるのみであった。
 2005年11月1日、眼の焦点が合わず、下肢脱力感が出現したため、泉病院脳神経科へ緊急入院となった。

受診後の経過②
(泉病院 入院時所見)
 意識レベルはクリアで、麻痺なし。
 対光反射あり。瞳孔左右差なし。
 共同偏視なし。左眼に内転障害あり。
 眼瞼下垂なし。指鼻試験正常。

受診後の経過③
 泉病院入院後、下肢脱力軽快。リハビリにより日常動作可能となり、退院。複視も退院後消失。
 2006年1月頻拍発作があり、循環器科にて心房粗動の診断のもとに治療開始となる。

受診後の経過④
 2006年2月の当院来院時、右側嗅覚障害以外に12脳神経症状を認めなかった。ただし左方へ向かう回旋性の眼振が認められ、右側椎骨動脈の障害が示唆された(図2~11)。

図02 図03
 図2              図3

図04 図05
 図4                図5

図06
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図07
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図08
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図09
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図10
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図11
 図11


泉病院受診後の本症例の所見
(1)左眼内転障害・下肢脱力感 → 中脳の障害。
(2)左方へ向かう回旋性眼振 → 延髄の障害。
(3)MRI拡散強調画像にて右側中脳の新鮮梗塞 → 中脳の障害。
(4)MRAにて右側椎骨動脈・脳底動脈の抽出不良 → 延髄および中脳の障害。
(5)MRIにて右側椎骨動脈閉鎖(2002年と比較)→ 延髄の障害
 ※ 他の神経症状は明確ではなかったものの、延髄外側症候群の不全型と表現できよう。

椎骨脳底動脈と中脳の血流
(1)後大脳動脈と後交通動脈との間は中脳動脈(MA)とも呼ばれ、同部から左右数本の後有孔質を貫く細小動脈が出る。このうち視床に達するものを傍正中視床動脈(PTA)、中脳に達するものを傍正中中脳動脈(PMA)と呼ぶ(図12)。
(小林道雄,他)

図12
 図12


(2)視床内側を栄養するparamedian thalamic artery は、後大動脈が脳底動脈から分岐した直後に出る穿通枝で、基本的には左右一対でそれぞれ両側の視床を栄養しているが、1本から左右に分岐して両側の視床を栄養する場合などvariationがある。
   一方、中脳の正中部を栄養する superior mesencephalic artery は、paramedian thalamic arteryから分岐することが多い。このため、脳底動脈の分岐部付近の閉塞病変で両側視床や中脳に梗塞をきたしやすい。  
 塞栓によることが多い。
(貴田秀樹)

(3)中脳梗塞は単独で起こるよりも、10倍も周囲組織の虚血を合併している(図13)。

図13
 図13


考 察
 脳底動脈の最上端、後大脳動脈と後交通動脈との間は中脳動脈とも呼ばれ、ここから中脳を栄養する数本の細小動脈が出ている。
 具体的には中脳の栄養動脈は視床への動脈から分岐しており、それは時に両側性ではなく片側の視床動脈から両側の中脳へ動脈分布のなされることもある。このために脳底動脈最上端の梗塞病変では、両側の中脳に梗塞を来たし易いとされる。

 本症例でも、MRAで脳底動脈の描出不良がみられており、両側中脳の梗塞が生じているものと判断される。拡散強調画像における右側中脳の高信号と左眼内転障害は、その結果と思われる。この脳底動脈閉塞病変の原因としては、塞栓が多いと言われている。
 本症例の閉塞病変の原因を断言することはできないが、循環器系疾患など背景因子の存在は確実である。

まとめ
(1)本症例の、①左眼内転障害、②下肢脱力、③回旋 性眼振は、①②が中脳の障害に、③が延髄の障害に起因するものと判断される。
(2)中脳の障害は、脳底動脈の分岐部の閉塞により、両側中脳への細小動脈の血流不全が生じて発生したものと推測される。拡散強調画像における右側中脳の高信号、並びに左眼内転障害はこれらの表れと解釈できる。
(3)延髄障害の症状は、右側椎骨動脈の閉塞による延髄外側症候群の不全形と考えられる。
(4)本症例の閉塞病変の背景として、高血圧や心疾患の関与が否定できない。


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