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3443通信 No.369

 

ミシュラン獲得の穴場店『陸女鮨』レポ

秘書課 菅野 瞳 

図01
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期待に胸膨らませ…
 連日30℃いえ、35℃に達する真夏日が続き、暑さにやられ食欲が……と嘆く方が多いなか、高熱が出ていても何故か食欲だけは見事な程に落ちない根っからの食いしん坊の私は、院長と共に仙台市泉区八乙女にあります孤高の名店『陸女鮨(おかめずし)』さんにお邪魔して来ました(図1)。

 本日の舞台である『陸女鮨』さんは、2017年にミシュランガイド宮城特別版1つ星に選出されており、なんと全日空の機内誌である“翼の王国”にも掲載されたことがあるお店です。
 一日の予約が数組限定を謳うお店だけに、否が応でも期待値ならびに私の食欲も右肩上がりです。

「朝昼のご飯を抜いて来なさいな……」と、院長からは辛辣なお言葉を頂きましたが、予定していたとんかつ御膳は持ち越しにし、腹具合いをいい塩梅に調整し出向きます。

 泉区八乙女の住宅街に、ひっそりと佇むお店ですという口コミ情報通り、一見、周りの住宅と変わらぬご自宅のような店構え。 敷地内に足を踏み入れると、広くて赴き深い風情漂うお庭(図2)に、目を奪われます。

図02
図2


 打ち水をされていた大将にご挨拶の後、敷居を跨がせて頂きました。
 案内されたお部屋は、数奇屋造りの和室(図3)。そしてなんとユニークなことに、和室と接する廊下に大将が腕をふるうカウンター(図4)が設けられており、手入れが行き届いたお庭を臨みながら、大将を独り占めするという贅沢空間が広がります。

図03
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図04
図4


 院長と向かい合って着座するという緊張感、そして仕事道具を持ち、ゆっくりとこちらに向かって来られる大将の足音に、尚一層の緊張感が漂います。
 手慣れた様子で、一通りの仕事道具を配置し、まずは丁寧にわさびをおろされます。静寂の中、その音でさえも遮ってしまうのが憚られたのでしょうか? どうやら私は、あまりの集中に、息継ぎを忘れてしまっていたようで――、

「菅野君、キミ息をしているかい?」と、院長にからかわれてしまう始末です(笑)。

 この院長の一言で一笑いの後、本日お願いしています『親方おまかせコース』が始まりました。

まずは実食!
 満を持してサーブされたのは、四方を測ったかのように、綺麗な正方形に焼かれた“芝海老の玉子焼き”(図5)です。握りのサイズに切り分けられた玉子焼きは、口に入れた瞬間、ふわっと軽い口当たりで、芝海老のお出汁がいい塩梅に香り、これから口の中に入ってくる、更なる美味しいお鮨への期待値を高めてくれます。

図05
図5


 いよいよここからは、大将の“握り”ライブがスタートです。
 まず先陣を切ったのは、大トロと穴子の握り(図6)です。日本の方は、お鮨で好きなネタは?と聞けば、鮪と答える方が多い印象ですが、私は日本人には珍しく、脂の乗る大トロがあまり得意ではありません。

図06
図6


 なのですが、ここで事件が起こります。この私が、大トロを口に入れた瞬間に、「えっ!? えっ!?」と、数秒間は自分でも信じられませんでしたが、気付けば大トロの大ファンへと変貌を遂げていました。
 そして穴子は、絶妙な小味感が素晴らしく、口の中から徐々に姿を消す穴子の握りに、未練たらたらです。

 まだ始まったばかりではありますが、院長からは、既に「うーん、美味しいねぇ」の一言が……。院長の大変ご満悦な表情が窺えます。

 続いては、のどぐろに苫小牧産の北寄貝(図7)です。
 北寄貝を求め、苫小牧市まで足を運んだことがある私は、思いがけずの再会に目が点になりました。

図07
図7


「まさか、こちらで苫小牧産北寄貝に再会できるとは思いませんでした」と親方さんにお伝えしたところ、

「北寄はやはり苫小牧産が天下一品ですよ」とのご返答が。

 この北寄貝の握りで、ご飯が何膳いけることでしょう(笑)。北寄貝の握りもさることながら、のどぐろも負けず劣らずのふっくら具合いで、魅力満載です。
 この上ないこりこり食感の北寄貝に、白身魚とは思えぬ独特の脂の甘みを醸し出すのどぐろ。思わず、言葉を失います。

 そしてお次は、赤イカと車海老の握り(図8)です。車海老は、生か蒸しかの調理法を選ぶことができ、院長と共に生での握りをお願いしました。
 仲良く盆に揃えられた2種は煮切り醤油をまとい、透明度に輝きが増しています。食べずとも分かる鮮度の良さに甘みの強さ。だからと言って、口にしないなどということはありえませんが、予想を遥かに上回る美味しさに、このあたりからは溜息すら出なくなっていました(笑)。

図08
図8


 そしてお次は、中トロにこはだ(図9)が提供されます。綺麗な肌色の中トロは程よい脂ののりが何とも言えず、また飾り包丁が美しいこはだは、魚の旨味と酢の香りのバランスが素晴らしい一品でした。
 これぞ江戸前鮨! を感じさせます。

図09
図9


 ここで、生の車海老を調理して頂いた際の車海老の頭の炙り、そしてアイナメの漬け、カツオの藁焼き(図10)が登場しました。
 私は、カツオの炙りは好きなのですが、カツオの生臭さを苦手とするため、あまりカツオの切り身を口にしません。しかしながら、またここで大どんでん返しです。序盤に頂いた大トロの握り同様に、またも苦手意識を一瞬にして覆されました。

図10
図10


 アイナメの漬け握りも、白身の美味しさをいい塩梅に引き出しており、絶品です。
 丁寧に炙られた車海老の頭は、濃厚なお味噌も相まって最高のおつまみになっていました。

 ここで箸休めの、自家製べったら漬け(図11)が登場です。
 ポリポリという歯ごたえのお漬物に慣れ親しんでいる私には、食感がソフトなお漬物ではありましたが、麹の香る優しい一品でした。

図11
図11


 お漬物を頂き、箸休めをしている間に、親方さんは何やら巻物の準備をされています。
 おっ!ということは……いよいよです。はい、陸女鮨さんに足を運ばれている方々が、こぞってNo.1のメニューかもしれないですと感想を述べられているお品“親方特製の干瓢巻”(図12)です。

図12
図12


 親方の干瓢巻は、「ファンが多いのですよね?」とお伝えすると、「そうなんですよね、何故だか皆さんに好んで頂いてます」と、大変控えめな返答です。
 何気に私が、本日のおまかせコースの中で一番楽しみにしていたと言っても過言ではありません。

「ではどうぞ召し上がって下さい」と、蛤のお吸い物(図13)と共に、本日のラストを飾る握りの2種、カツオのガーリックのせ、ウニ軍艦、そして干瓢巻(図14)が提供されました。

図13 図14
図13           図14


 まずはカツオの握りから頂きます。微かにですが大蒜の風味を感じます。本当に微量の大蒜なのですが、大蒜が生の状態では風味や香りが強く出すぎてしまうため、敢えてひと手間を加えた揚げた大蒜を微量にのせ、提供されているのだそうです。

 ここで、ぱっくりと開いた蛤のお吸い物に手を付けます。これ以上では薄くなってしまうかなという、ぎりぎりのラインの優しい塩味と磯の香りを放ち、ホッとさせてくれる汁物でした。

 そして、いよいよこの時がきてしまったわけです……まずは、ウニ軍艦を口に運び入れます。私の期待が大きすぎたでしょうか?ウニが持つ独特の甘みとクリーミーさをさほど感じることが出来ず、今まで頂いてきた握りの感動が大きかったせいか、残念ながら物足りなさが残りました。

 そして院長と共に最後に箸をつけることになったのは、そうです、干瓢巻です。
 口に運び入れ、まだ干瓢巻の干瓢に辿り着いていないなか、私の口の中は海苔の放つ風味で充満されました。

 思わず親方さんに一言。

「海苔の風味が際立ちますね」とお伝えすると、
「この海苔はですね、七ヶ浜から生の海苔を購入して、巻き物にする前に軽く焼くんですよ」というこだわりを教えて頂きました。

 炙りにより引き出される海苔の風味……ごもっともだなと痛感しました。美味しい海苔は、素材を引き立てると言いますが、甘めの濃味に煮込まれた干瓢が見事に引き立ち、噛めば噛むほどに旨味が引き出されます。
 重ねて驚いたのは、干瓢巻の中に、微かに香るわさびの香りです。数種類の握りを頂いても、全く引けを取らない干瓢巻には恐れ入りました。

 親方おまかせコースの余韻が漂う中、最後に、お口直しのデザートが提供されます。

「本日は有難うございました、ゆっくりなさって行って下さい」の言葉を残し、親方さんは退席されました。

 あっという間の2時間ではありましたが、これぞ“江戸前鮨”と言わんばかりの粋なお鮨を堪能できて、終始幸せな時間を過ごさせて頂きました。

 最後に……こちらは余談になりますが、私の母方の祖父は米所新潟県で神主をしていました。そのため、氏子の方々からはよくお米をお供え頂きましたが、そのお米を保管していた大変貴重な代物を、本日の舞台“陸女鮨”さんで、思いがけずではありましたが久々に拝見することが出来ました。

 それは、親方さんの右手後ろに見えます『ちぐら』(図15)という伝統工芸品です。原材料には藁が使用されているため、保温性と通気性に優れており、湿気やニオイがこもりにくいという特徴があります。出来上がりまでにかなりの時間を要すこと、また、作り手不足も相まって入手が大変困難になっている代物です。

図15
図15


 そんな代物をも、さりげなく使いこなされながら絶品のお鮨を提供し、客人を惹きつけていらっしゃる親方さんに、改めて敬服致しました。
 御馳走様でした!(図16)

図16
図16

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