3443通信 No.370
『耳鼻と臨床誌』に掲載された論文『三好 彰他:舌のしびれ感にて受診した三叉神経鞘腫の1例.耳鼻56:29-32,2010』(耳鼻と臨床会)をご紹介いたします。
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論文『舌のしびれ感にて受診した三叉神経鞘腫の1例』
三好 彰(三好耳鼻咽喉科クリニック)
中山明峰(名古屋市立大学耳鼻咽喉科)
三邉武幸(昭和大学藤が丘病院耳鼻咽喉科)
まとめ
舌のしびれ感を主訴として三好耳鼻咽喉科クリニックを受診した、三叉神経鞘腫の1症例を報告した。本症例の確定診断に至る、頭蓋底に的を絞ったMRI撮影は、神経耳科学的スクリーニングに基づくものであり、画像診断前の神経耳科学的診断の重要性について、改めて認識させられた。
Key words : 三叉神経鞘腫、舌のしびれ感、MRI、神経耳科学的診断
はじめに
耳鼻科医にとって神経耳科学的検査は、画像診断に至る前に日常的に行なわれる基本中の基本である。しかし近年では耳鼻科受診以前に、他科医により先に不適格な画像診断がなされ、続く耳鼻科受診時初めて疾患の本質に気付かされることも少なくない。
ここでは舌のしびれ感に関して、すでに内科でMRI撮影がなされながら、当院における神経耳科学的検査で発見された、三叉神経鞘腫の1症例を報告する。
症 例
症 例:62歳、女性
主 訴:①舌下面左側と唇下左側のしびれ、ならびに②左側耳痛であった。
既往歴:子宮筋腫、高血圧
現病歴:2007年3月頃から舌下面左側と唇下左側のしびれ感が出現した。このため同月某病院口腔外科から同院内科を紹介され、MRIを撮影した。放射線科医師の読影では、古い梗塞病変のみでほかに異常所見なし、と診断された。
2007年6月より、ペイン・クリニックにて三叉神経の神経ブロックを受けている。
9月に某耳鼻科を、次いで当院を受診した。
当院受診時の所見であるが、鼓膜所見に異常なく聴力も正常であったが、左方へ向かう水平性眼振を認めた(図1)。
主訴を裏付けるように左側口角の触覚低下を認めたが、ほかの12脳神経検査は正常範囲内であった。

図1
当院受診後の経過は、次に示すごとくとなった。
三叉神経領域病変の可能性を考えて、当院では鎮痛剤とカルマパゼピンを処方し、内耳道から頭蓋底にかけてのMRI撮影を依頼した。そのMRIでは、左側メッケル腔の三叉神経節から末梢の三叉神経の肥大が認められ、三叉神経鞘腫が発見された(図2)。

図2 左側メッケル腔の三叉神経節から抹消の三叉神経の肥大が認められる(矢印)
初診時の眼振について、腫瘍との関連を調べるべく3DCTを撮影したが、腫瘍の聴神経への進展は確認されなかった(図3)。
そこで改めて内科撮影のMRIを確認したところ、頭蓋底左側卵円孔の拡大が認められ、内科受診時には腫瘍の存在したことが理解できた(図4)。

図3 3DCTによる腫瘍(矢印)と内耳の位置関係

図4 前医のMRIにて確認できる左側卵円孔の拡大(矢印)
本症例は、脳神経外科へ紹介となり、現在も経過観察中である。
その後当院へは通院していないため、当院受診時の眼振の発現機序については、明らかにし得なかった。
考 察
本症例の、内科受診のきっかけとなった舌下面左側と唇下左側のしびれは、三叉神経鞘腫に起因していたものと推測できる。
本症例では初診時内科で神経学的検索がなされず、主訴を発現せしめる三叉神経領域に無関係にMRIを撮影した。このため、かえって病態の本質から確定診断が遠ざかるという、皮肉な経過をたどることとなった。
しかも、三叉神経領域に注視して当初のMRIを観察する時、既に腫瘍の存在が推測できる事実は、画像診断に先立つ神経耳科学的精査の重要性を、改めて印象づけることとなった。
そもそも三叉神経鞘腫は、全頭蓋内腫瘍中の0.07~0.36%を、頭蓋内神経鞘腫の0.8~8%を占めるにすぎない。加えて三叉神経鞘腫の初発症状は、三叉神経領域の錯感覚や疼痛であることが多く、しびれ感を訴える例は三叉神経鞘腫の10%でしかない1)。耳痛も初発症状の2%にしか報告されておらず1)、見過ごし易いことは確かと言える。
しかし、本症例のように執拗な舌近辺のしびれ感を訴え、しかも現実にMRIを撮影する機会に恵まれた以上、腫瘍を見逃すことは好ましくない。
少なくとも耳鼻科医は12脳神経の所見を検出し得る立場にあり、神経耳科学的検査で標的領域を明確にしてから、MRIを撮影することが望ましいものと思われる。
なお当院ではこれまでにも、中枢性顔面麻痺2)、同側性中枢性顔面麻痺3)、中枢性味覚障害3)の症例に対してこうしたアプローチを試み、それなりの成果を挙げて来たことを付け加える。
きわめて平凡な結論だが、画像診断前の神経耳科学的診断の重要性について、改めて認識させられた。
文 献
1) 松谷雅生他:脳腫瘍.脳神経外科学 改訂第8版.太田富雄・松谷雅生編,437-721頁,金芳堂,京都,2000.
2) 殷敏他:中枢性顔面麻痺の1症例. Facial N Res Jpn 27:235-237,2007.
3) 三好 彰他:中枢性顔面麻痺と味覚障害を来した脳幹部腫瘍の1症例. Facial N Res Jpn 28:190-192,2008.
(英文抄録)
A trigeminal neurinoma patient with parasthesia in the tongue
Akira MIYOSHI*, Meiho NAKAYAMA** and Takeyuki SAMBE***
*MIYOSHI ENT Clinic, Sendai 981-3133, Japan
**Department of Otolaryngology, Nagoya City University,Nagoya 466-8550, Japan
***Department of Otorhinolaryngology,Showa University Fujigaoka Hospital,Tokohama 227-8501, Japan
The report presents a patient with trigeminal neurinoma who visited MIYOSHI ENT Clinic with symptoms of parasthesia in the tongue. MRI of the skull was used to make a definitive diagnosis. MRI should therefore be based on neuro-otological screening. This case indicated the importance of making a diagnosis of neuro-otology before performing diagnostic imaging.
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