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みみ、はな、のどの変なとき

45 エピソード11「アーノルド・キアリ奇形に合併した突発性難聴」

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アーノルド・キアリ奇形という珍しい疾患については、エピソード9でちょっとご説明しました。先天性の奇形であり、⼩脳の⼀部が頭蓋⾻からはみ出て圧迫され、平衡障害が出現する病態です。
 これは実際とても稀な疾患ですので、ともすると⽬の前に現れた症例の診断名として、最初から眼中に無かったりすることがあります。加えて、エピソード9のように他の疾患と合併していたりしますと、ひどくその扱いに⼿間取ることとなります。

約5年前に私のもとを受診した、当時51歳の男性もそんな1例でした。

この⽅はその年の2⽉に突然右の⽿が聞こえなくなり、地⽅の⽿⿐科を受診しました。当然その⽿⿐科では、聴神経腫瘍を疑って脳外科に紹介しました。脳外科も聴神経腫瘍を考え、内⽿道を検査しましたが異常ありませんでした。
 この⽅はその後めまいが出現したために、改めて私のもとを訪れたのです。初診時のめまいの検査では、脳の疾患を疑う所⾒は認められなかったため、私も不思議に思いながら経過を⾒ていました。なおこの⽅は、経過観察中にめまいの発作で脳の専⾨病院を訪れCTを撮影していますが、その際も異常無しと⾔われています。

ところが経過中に施⾏されためまい検査では、下向きの垂直性眼振と呼ばれる⼩脳近辺の病変で特徴的な、めまいの所⾒が出現するようになりました。
 こうして何回⽬かの脳外科受診でMRIが実施され、⼩脳の⼀部が頭蓋⾻からはみ出ていることが判明、アーノルド・キアリ奇形が発⾒されました。アーノルド・キアリ奇形は、壮年になってから症状がはっきりすることも多いので、発⾒が遅れがちなのです。

後から考えるとこの⽅は、もともとアーノルド・キアリ奇形が存在しており、そこに突発性難聴を合併したために⼩脳性のめまいと内⽿性の難聴が併存する形となった訳です。脳外科の検査も、⽿⿐科と同じく聴神経腫瘍が中⼼で奇形は⽬標にされていませんでした。このためある程度症状が進⾏するまで、⽿⿐科でも脳外科でも奇形の診断がつかなかったのです。

それにしても、いかに珍しい病気であっても常に⽤⼼を怠るべきではないという、とても良い経験だったと思います。

 

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