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みみ、はな、のどの変なとき

62 こんなにダニの増えたわけ

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ここまではアレルギー性⿐炎の中でも、花粉に原因のある花粉症が増えた理由について、述べて来ました。

けれどももちろんアレルギー性⿐炎は、花粉だけが原因とは限りません。むしろアトピー性⽪膚炎や気管⽀喘息など、他のアレルギー疾患と同様、ダニが原因物質であるアレルギー性⿐炎もとても多いものです。
 実際私たちはスギ花粉⾶散量のすごく多い、⽇光国⽴公園の中に位置する栃⽊県栗⼭村で調査を⾏なっています。すると、少なくとも⼩中学⽣の年齢層では、この村の全児童⽣徒のスクラツチテスト(アレルギーの検査の⼀つ)陽性率は、スギ花粉の25.2%に対してダニが31.2%と、⾺⿅にできない数値です。

そして、どちらかと⾔うとアレルギー性⿐炎以外の他のアレルギー疾患で、ダニはより重要なアレルゲンと考えられています。
 このダニによるアレルギー疾患の増加も指摘されていますが、スギ花粉と同じようにダニも増えて来ているのでしょうか?

こたえはイエスです。

私たちの共同研究者である⾼岡正敏先⽣のデータによると、1960年代から1970年代そして1980年代へと、家屋内のダニの量は明らかに増加しているのです。
 原因物質であるダニが増えているのならば、ダニによるアレルギー疾患の増加も当然です。
 ダニとともにハウスダスト(HD)も原因とされますが、これは家のちりのことでダニの糞や死骸がその主成分とされています。つまりダニそのものが増えれば、HDも増加すると理解できます。

ダニが増えた原因は、戦後の復興期に不⾜した住宅を供給するために、数多く建てられた公営鉄筋アパートなど密閉型住宅の普及、ならびに新建材の多⽤との関連が考えられています。確かにダニの増加に⼀致するように、アルミサッシの開発やビニールシートの壁紙みたいな建材が出現しています。

これら新建材の多⽤や密閉型住宅の増加が、果たして実際にダニを増やす原因となっているのでしょうか。またそれは、どのようなメカニズムによるものなのでしょう。
 ⼈間の住み易い環境はダニにとっても繁殖し易い状況なので、それでダニがはびこるのだと、良く⾔われます。

それはホントに本当なのでしょうか?

アレルギーの原因となるダニは「ヒョウヒダニ」と⾔って、チリダニ科の⼀種です。このヒョウヒダニの家屋内における繁殖について論じる場合、ダニの特性を考慮せねばなりません。
 それは、家屋内のダニの増殖には次の3条件が必要だという事実です。①温度が20〜30度で、相対湿度が60%以上ある。②えさ(ちりの中の有機成分)がある。③潜って産卵でき、隠れて繁殖できる潜⼊場所が家屋内にある。そんな条件です。

そしてこれら3条件の中でもダニの繁殖には、湿度が重要だと⾔われます。なぜならヒョウヒダニは乾燥に弱く、相対湿度50%では11⽇間で⼲乾びて死ぬとされています。 ですから家屋内のダニを駆除するには、掃除機を徹底的にかけてフケなどのエサを無くして兵糧攻めにするも良し、畳やじゅうたんを減らしてフローリングの床にして潜⼊場所を無くしてやるも良し、です。とはいえ、湿度を下げてダニを⽣存できなくしてやるのが、⼀層早道ではあります。

ここが重要なのですが、昔の⽇本の住宅は⾼温多湿といわれる⽇本の気候に合って、⾵が吹き抜け易く乾燥し易い造りになっていました。
 これは兼好法師以来の、夏を過ごし易いように考えられた、つまりアジア・モンスーン型気候に対応できる開放型の⽇本家屋の特徴です。そこでは床には畳が敷かれ、畳の下はあら床と⾔って、すき間だらけの⽊の床でした。
 当時の家は冬でもすき間⾵が吹き抜け、床下の空気はあら床と畳を通じて家の中に出⼊りしたものです。

そのような家では冬の屋内は寒く、住む⼈はこたつの周囲を離れることができない代わりに、冬季の乾燥した空気が屋内に満ち、湿度は低かったものです。

それに対して戦後急速に広まった⾼気密住宅では、外の空気は屋内に⼊りませんが、屋内の湿った空気も外へ出て⾏きません。
 当然屋内は湿度が⾼くて、ダニの増殖にふさわしい環境となっています。

それに加えて、こたつに代表されるような、昼間の家屋の⼀部のみを暖め夜間は消してしまう、局部暖房・間⽋暖房の習慣がそれに輪をかけます。
 なぜならこの局部暖房・間⽋暖房の⽣活習慣は、やはり亜熱帯に近い地域の開放型の家屋に適した暖房で、⾼気密住宅向きではないからなのです。

⽇本の家屋の開放型構造は、おそらく南⽅から伝えられたものと、推測されています。⽇本⼈の開放型住宅好きは⾻に染み付いているみたいで、第⼆次世界⼤戦前に樺太に住み着いた⽇本⼈は、その極寒の地でも開放型の家屋を建て、冬は寒さに震えながら薪をたき暖を取った。と⾔われます。

このため現地のロシア⼈からは、⽇本⼈が⼀冬に炊く材⽊で家ができると笑われたそうです。

夏の暑さをしのぎ易い開放型の家では、⻑い冬の寒さを防ぐことは最初から考慮されていません。せいぜい家族の集まる家の真ん中でストーブを炊くくらいで、家屋内の他の部屋は冷たいままです。しかもそれも昼間だけのこと、夜間は暖房を消してしまう局部暖房・間⽋暖房です。
 とはいえこの暖房習慣は、こうした開放型住宅には適していて、冬の冷たく乾燥した空気が屋内を通過する構造は、ダニを死滅させるには最適です。

昔の⽇本の家屋にダニが少なかったのは、こんな理由からだと考えることができます。 それに対し近年の⾼気密住宅は、名前こそツーバイフォーなどと近代的ですけれど、そのルーツは寒冷地の丸太⼩屋(ログ・キャビン)です。
 ⾼気密住宅の暖房は、厳寒地の外気の寒さに対抗できるようすべての部屋を24時間暖める全室暖房・連続暖房が普通です。そうすると屋内の空気は⼀定の温度に保たれ、湿度も低いままに抑えられるので、やはりダニは⽣存できない訳です。

開放型住宅では冬の寒さをしのぎきれず、病気になり易いことを知った⽇本⼈が、近年⾼気密住宅に住むようになったのは当然の流れです。けれども開放型住宅の局部暖房・間⽋暖房の習慣をそのまま持ち込んでしまったことが、ダニの増えた原因です。

空気は暖かいほど⽔分を多く含むので、室温が⾼いと相対的に湿度は低くなり、逆に室温が低いと湿度は⾼くなります。
 つまり、⾼気密でしかも⾼断熱の住宅では、全室暖房・連続暖房ならば室温が⾼く湿度は低いのです。ところが、局部暖房・間⽋暖房にすると部屋の温度を上げきれず、湿度も⾼い状態となります。
 このために⾼気密住宅では、空気の乾燥した冬季にもダニは死滅しにくく、次の夏には⼀層家屋内のダニが増えるのです。⾼気密住宅でダニを増加させないためには、本来全室暖房・連続暖房の習慣が必要なのです。

⾼気密⾼断熱住宅の普及と、その住宅の特徴に⽭盾する局部暖房・間⽋暖房の習慣以外にも、近年の住環境にはダニの増加する要因がたくさんあります。
 その最たるものとして、マンションを挙げることができます。なぜならマンションはコンクリートでできていますが、完成後1年くらいはコンクリートの内部から⽔分の放出が続きます。そのために築後1年以内のマンションは、湿度が⾼くなりがちです。
 この染み出した⽔分は、床にじかに敷かれている畳などに吸い込まれ、ダニの⽣存に最適な状況を形づくります。
 畳は以前に述べた従来の⽇本家屋のあら床に敷かれ、空気が通り抜ける状態ならば中の湿度は低く、ダニは住みにくいものです。けれども最近のマンションのように床に直接敷かれると、ダニの巣窟になる可能性があります。おまけに畳の上にカーペットを敷いてあったりすると、ダニの繁殖には⼀層適しています。寒い地⽅ではカーペットが汚れると、その上にさらにカーペットを敷く習慣もあって、これではとっても⼤変です。

マンションでは、布団を⼲す場所がほとんど無いという事実も、寝具中のダニを増やす原因になっています。実際に住宅内でダニを採取してみると、ダニのもっとも多いのは寝具です。ですから、寝具のダニを⼗分に退治してやらなければならないのですが、布団を⼲せないために、ダニのきらいな乾燥した状態を保ちにくいのは困りものです。

また同じマンションでも、階数の低い⽅が湿度は⾼く、ダニが住み易いものです。なぜなら、地⾯から常に湿気が⽴ち上っているので、床下は湿度が⾼い状態にあります。建築基準法では床下の換気について定められていますが、それでは不⼗分なのが現況で、床下の⽔分は床上にまで染みわたってしまいます。
 当然マンションの1階は2階以上と較べて、ダニの住み易い条件が整っています。
 また家⼈が部屋の中に居る時間が⻑いほど、換気の回数は多くなり屋内の湿度は下がります。ところが、密閉度の⾼いマンションで閉め切ったまま留守にする時間が⻑いと、台所や洗⾯所から蒸発した⽔分で屋内の湿度が上がります。

核家族化はマンションで著しいと想像されますが、核家族では⾃宅を留守にすることも少なくなく、室内のダニも増加しがちです。

 

関連リンク
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