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2022年12月(No.334)


 No.330の本通信で、鼻出血について取り上げました。
 その中で子どもの鼻出血とアレルギーとの関連について触れました。これはその裏付けとなる私たちの論文です。
 

三好彰他;耳鼻頭頸 68(8):722-726, 1996
論文「小児鼻出血とスクラッチテスト陽性率の相関」

三好 彰1)、馮 霓、三邉 武幸2)、鈴木 恵美子、程 雷3)、徐 其昌、殷 明徳、小島 幸枝4)、松井 猛彦5)、尾登 誠

1) 三好耳鼻咽喉科クリニック
 2) 都立荏原病院耳鼻咽喉科
 3) 南京医科大学医学部耳鼻咽喉科
 4) 東邦大学医学部耳鼻咽喉科
 5) 都立荏原病院小児科
   ※所属は作成当時のものです。

まとめ
 小児鼻出血の背景として、アレルギーの関与を重視する意見がある1)。小児では、鼻アレルギーの症状が明確でなかったり症状をうまく説明できない反面、鼻をいじったりして鼻出血を生じやすいからであろう。しかしこれまでの小児鼻出血とアレルギーの相関の検討は、耳鼻咽喉科外来を受診した例に対して実施されたものである。
 それに対しわれわれは今回、小中学生に対する通常の学校健診とスクラッチテストを施行したその結果から、児童生徒における鼻出血とスクラッチテスト陽性率の相関について検討した。

I. 研究方法
1. 対象

 対象は、1989・1990・1991(以下89・90・91)年度耳鼻咽喉科学校健診を受けた、北海道白老町の児童生徒2,677例2),3)である。これは91年度時点の同町の、小学校1年生から中学校3年生にわたるほぼ全児童生徒である。うち男子が1,300例、女子が1,377例、また小学校1年生(以下小1)が799例(男子381例・女子398例)、小学校4年生(以下小4)が896例(男子412例・女子484例)、中学校1年生(以下中1)が1,002例(男子507例・女子495例)であった。

2. 方法
 健診に先立ち全児童生徒の家庭に、図1に示すアンケートを施行しすべて回収した。健診当日同一医師による通常の耳鼻咽喉科学校健診とスクラッチテストを行なった。健診を施行したのは89年7月8日~10日・90年5月31日~6月2日・91年6月27日~29日であった。

図01
 図1


3. スクラッチテスト
 既報2~4)に述べた方法で、ハウスダスト(以下HD)・ヤケヒョウヒダニ(以下ダニ)・スギ花粉(以下スギ)および50%グリセリン液(以下対照液)について検討した。

4. 判断基準
 ここでは鼻出血ありとの判断は、図1の児童生徒の保護者に対するアンケート項目中、鼻血で「いつも」もしくは「時々」と回答した例に対して行なった。
 また鼻アレルギーの診断は、(a)視診担当の医師により鼻アレルギーもしくはその疑いと診断され、(b)アレルギー3徴(くしゃみ・鼻汁・鼻閉)のうち2つ以上の症状を持ち、(c)スクラッチテストにてHD・ダニ・スギの3種のアレルゲンのうち1種以上に陽性反応を示す、との基準を満たす例に対して行なった。なお(a)の視診は、これまでのわれわれの報告2~6)同様同一の医師がすべて一人で担当した。また(b)の判定は、鼻出血と同じくそれぞれのアンケート項目に、「いつも」もしくは「時々」に〇のついている回答を、症状ありとして扱った。

II. 結果
1. 鼻出血

 図1のアンケートにて鼻出血ありと判断されたのは、2,677例中793例の29.6%であった。また男子1,300例中443例の34.1%そして女子1,377例中350例の25.4%であり、有意差をもって男子の鼻出血の頻度が高かった(x2検定、p<0.001)。
 学年別に鼻出血を見ると、小1で779例中234例の30.0%、小4で896例中276例の30.8%、中1で1,002例中283例の28.2%で、3者間に有意差を認めなかった(U検定)。

 各学年における鼻出血の性差は、次のような結果を示した。すなわち小1では、男子381例中135例の35.4%と女子398例中99例の24.9%で、男子の頻度が有意に高かった(x2検定、p<0.01)。小4では、暖い412例中136例の33.0%と女子484例中140例の28.9%で、両者の間に有意差を認めなかった。(x2検定)。中1では、男子507例中172例の33.9%と女子495例中111例の22.4%で、男子の頻度が有意に高かった(x2検定、p<0.001)。

2. 鼻出血とスクラッチテスト陽性率
 スクラッチテストのアレルゲン1種以上陽性(以下1種以上陽性)率は、2,677例中728例の27.2%であった。以前報告したようにこの1種以上陽性率は、男子1,300例中559例の43.0%であり女子1,377例中400例の29.0%で、男子の陽性率が有意に高い(x2検定、p<0.001)2)。さらに1種以上陽性率は、学年の上になるほど上昇する傾向を認めた2)
 鼻出血(+)の793例中スクラッチテストの1種以上陽性例は337例(陽性率42.5%)で、鼻出血(-)の1,884例中1種以上陽性例は622例(33.0%)で、前者の陽性率が有意に高かった(x2検定、p<0.001)。
 男子で鼻出血(+)の443例中1種以上陽性例は208例(47.0%)で、鼻出血(-)の857例中1種以上陽性例は351例(41.0%)で、前者の陽性率が有意に高かった(x2検定、p<0.5)。
 女子で鼻出血(+)の350例中1種以上陽性例は129例(36.9%)で、鼻出血(-)の1,027例中1種以上陽性例は271例(26.4%)で前者の陽性例が有意に高かった(x2検定、p<0.001)。
 学年別の鼻出血とスクラッチテスト陽性率を、図2に示した。
 男子・女子とも、高学年になるほど鼻出血の頻度とスクラッチテスト陽性率との相関は、少なくなる傾向が見られた。

図02
 図2


3. 鼻出血と鼻アレルギー有病率
 前記(a)(b)(c)の基準を満たし鼻アレルギーと診断された例は、2,677例中121例の4.5%であった3)。また男子1,300例中69例の5.3%が、女子1,377例中52例の3.8%が、鼻アレルギーと診断された。この両者間では、男子の鼻アレルギー有病率の高い傾向が見られた(x2検定、p<0.1)6)。学年別では、小1で2.1%、小4で5.2%、中1で5.8%と、学年の上になるほど有病率が上昇した3)

 鼻出血(+)の793例中鼻アレルギー症例数は35例で、4.5%であった。また鼻出血(-)の1,884例中鼻アレルギー症例数は86例で、4.6%となった。両者間に有意差は認められなかった。男子では鼻出血(+)の443例中鼻アレルギー20例で4.5%、鼻出血(-)の857例中49例で5.7%となり、有意差は認められなかった。女子で鼻出血(+)の350例中鼻アレルギー15例で4.3%、鼻出血(-)の1,027例中37例で3.6%となり、やはり有意差は見られなかった。

III. 考察
1. 鼻出血の頻度と性差

 鼻出血についてこれまで、耳鼻咽喉科を受診した症例についての検討は多いが、本調査の如く1つの行政単位(自治体)すべての児童生徒について検討した報告はない。本調査で児童生徒の鼻出血は約3割に認められることが分かったが、同時に男子の鼻出血が女子に比べて優位に多いことも判明した。この鼻出血が男子に多い傾向は医療機関受診例においても認められ、平出7)によると男女比は2対1で男性に多かったとされる。
 本研究における鼻出血の頻度の性差は、後述するようにスクラッチテスト陽性率の男女差が、1つの要因と考えられる。

2. 鼻出血とスクラッチテスト陽性率
 佐々木ら1)は、耳鼻咽喉科を受診した15歳までの小児鼻出血症例117例に対し各種のアレルギー検査を実施した。うち皮内反応検査を施行したのは84例で、それらの62%が何らかのアレルゲンに対し陽性反応を示した。また皮内反応陽性だけでなく、鼻汁中好酸球や肥満細胞いずれかの陽性例も含めると、117症例中84例の71.7%でアレルギーの関与が疑われた。
 Walker8)は小児反復性鼻出血症例60例を検討し、①明確なアレルギー性疾患の併存18例・30.0%、②2~5年以内にアレルギー性疾患を発症した15例・25.0%、③アレルギー性疾患の既往が疑われた11例・18.3%、をアレルギーに関連していると考えた。すなわち合計すると、60例中44例・73.3%である。

 Scottら9)は小児アレルギー専門医を対象に、小児鼻出血とアレルギーについてのアンケート調査を実施した。そして鼻粘膜局所の浮腫と血管透過性亢進の他に、鼻を強くかんだりこすったりする機械的刺激が二次的に関与している、と推定した。この論文中でも触れられているが、allergic saluteと称される鼻を手で擦り上げる動作が小児の鼻アレルギーでは見られ、鼻に対する機械的刺激になっている可能性も高い。なおこのallergic saluteは、鼻アレルギーによる鼻の痒みや鼻閉に対する対応とされる1)

 われわれの今回の調査で、鼻出血(+)例のスクラッチテスト陽性例は鼻出血(-)例のそれに比べ、有意に高かった。その傾向に性差はなく、本研究も佐々木ら1)やWalker8)そしてScottら9)と同様、鼻出血とアレルギーとの相関性の高さを示唆している。
 そして鼻出血とスクラッチテスト陽性率との相関は、低学年ほど高い傾向が見られた。これは低学年ほどallergic saluteなど、無意識にかつ機械的に鼻を刺激する頻度が多くなるためと、想像される。

 なお、男子の鼻出血が女子のそれに比べ有意に多いのは、スクラッチテスト陽性率男女差6)の反映と考えられる。やはりアレルギーと鼻出血との相関に、起因している可能性が高い。

3. 鼻出血と鼻アレルギー有病率
 鼻アレルギー診断例の症例数が少なく、ここでは有意の相関を見いだすことができなかった。

おわりに
 われわれは本研究で2,677例の児童生徒を対象に、鼻出血とスクラッチテスト陽性率との相関について検討した。

1) 鼻出血の性差では、男子の頻度が女子のそれに比べて有意に高かった。
2) 鼻出血(+)例のスクラッチテスト陽性率は、(-)例の陽性率に比べて有意に高かった。小児鼻出血は、アレルギーとの相関が高いように推察された。
3) 小児鼻出血とスクラッチテスト陽性率の相関は、アレルギーの鼻症状に対し無意識に鼻粘膜を刺激することの多い低学年の児童で、より高かった。

文献
1) 佐々木好久・他:小児鼻出血患者の臨床アレルギー学的検討. 耳喉53:551-555, 1981
2) 三邉武幸・他:白老町学校健診におけるスクラッチテスト陽性率. 耳喉頭頸67:541-545, 1995
3) 三邉武幸・他:白老町学校健診におけるスクラッチテスト陽性率(第2報:鼻アレルギーとの関連). 耳喉頭頸67:1080-1085, 1995
4) 三好 彰・他:学童におけるスクラッチテスト陽性率の疫学的検討(その実施方法について). アレルギーの臨床14:766-769, 1994
5) 三好 彰・他:中国・南京医科大学生におけるスクラッチテスト陽性率と鼻アレルギー有病率. 耳喉頭頸68:357-361, 1996
6) 三邉武幸・他:白老町学校健診におけるスクラッチテスト陽性率(第3報:鼻アレルギー有病率の性差). 耳鼻42(6), 1996
7) 平出文久:鼻出血. 臨床耳鼻咽喉科学, 3:鼻科編, 中外医学社, 東京, 1977, 頁63-94
8) Walker DH:Allergy and recurrent epistaxis in children. Ann Allergy 17:872-877, 1959
9) Scott RB, et al:Epistaxis in allergic children. Ann Allergy 18:728-737, 1960

Abstract
 Correlation between Nasal Bleedig and Positive Rate of Scratch Tese in Children
  Akira Miyoshi, MD, et al:
  Miyoshi ENT Clinic, Sendai

 We investigated the correlation between nasal bleeding and positive rate of scratch test in 2677 elementary school children. Male pupils showed higher incidence of nasal bleeding than female pupils. Pupils with nasal bleeding showed a significantly higher positive rate of scratch test than thosewithout nasal bleeding. These findings suggested some correlation between these two was higher in younger pupils who were unable to express their nasal symptoms. In older pupils, nasal bleeding may rarely be the first symptom of allergy.

関連リンク
さあ大変! ぼくの鼻血が止まらない(鼻出血の止血法)」(2022年8月 No.330)
小児鼻出血とアレルギー」(みみ、はな、のどの変な時) 

鼻の中
 実際に当院を受診した鼻出血の症例写真

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