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2023年3月 No.337

 

この度、耳鼻と臨床誌に『三好 彰:難聴児・者に対する新型コロナウイルス対策マスク装用の影響. 耳鼻69:62-67, 2023』が掲載されました。

論文「難聴児・者に対する新型コロナウイルス対策マスク装用の影響」(耳鼻と臨床)

三好 彰*
Akira Miyoshi
三邉 武幸**
Takeyuki Sambe
中川 雅文***
Masafumi Nakagawa
岸野 明洋****
Akihiro Kishino
東川 俊彦*****
Toshihiko Higashikawa

図00


*三好耳鼻咽喉科クリニック, Miyoshi Otolaryngology Clinic, 1-34-1 Izumichuo Izumi-ku Sendai-shi, 981-3133, Miyagi, Japan
**昭和大学スポーツ運動科学研究所, Showa University Research Institute for Sport and Exercise Sciences, 2-1-1 Hujigaoka, Aoba-ku, Yokohama-shi, 227-8518, Kanagawa, Japan
***国際医療福祉大学,  International University of Health and Welfare, 4-3 Kozunomori, Narita, 286-0048, Chiba, Japan
****東北大学加齢医学研究所、日本大学医学部, Institute of Development, Aging and Cancer, Tohoku University; Nihon University School of Medicine, Tohoku University, 2-1-1 Katahira, Aoba-ku, Sendai, 980-8577 Miyagi, Japan
****経堂ファミリアクリニック, Kyodo Familia Clinic, Mezondogare-1F, 2-6-3 Kyodo, Setagaya-ku, 156-0052 Tokyo, Japan
*****東川耳鼻咽喉科医院, Higashikawa Otolaryngology Clinic, 3-2-8 Mikadocho, Fukuyamashi, 720-0805 Hiroshima, Japan


まとめ
1.新型コロナウイルス対策としてのマスク装用が、全国の難聴児・者に対して与える影響を調べるために、アンケート調査を行ない135名から回答を得た。
2.言うまでもなく、難聴児・者は聴覚のみならず対話相手の表情、ことに口元の動きに情報の多くを頼っている。
 マスクはその対話相手の口元をカバーするため、難聴児・者の会話理解に大きな妨げとなっている。その事実がアンケートから改めて判明した。
3.聴覚補助機器の進歩により聴覚情報取得に関しては改善が期待できる。
4.しかし、真の問題は難聴児・者本人がその難聴を、外観からはことに健聴者には気付いてもらえないという点にある。
5.そのためには、難聴児・者や耳鼻咽喉科医が一般社会に対して耳マークの普及に力を尽くす必要性も考えねばならない。

キーワード:① 難聴児・者 ②新型コロナウイルス ③マスク
Keywords; ①Hearing Impairment Children and Persons ②Novel Coronavirus ③Mask

はじめに
 新型コロナウイルス対策として、全国民に対してマスクの常時装用が強く推奨されている。一方、難聴児・者のほとんどは、情報の取得に際し聴覚(①)だけでなく、会話時の相手の表情(②)、口元の動き(③)に多くを依存している1)。ところが、全国の難聴児・者がコロナ下において上記②③を妨げるマスク装用でいかに困惑しているか、実態が余り知られていない。そこで、以下に記すようにアンケート調査を行なった。

対象と方法
 全難聴(全日本難聴者・中途失聴者団体連合会)を始めとする全国の難聴児・者の団体などにアンケートを送付し、1.回答者の性別・年齢・居住地域・障害者等級 2.聴力 3.補聴手段 4.マスク装用時の問題点 5.対処方法 6.耳マーク・透明マスクへの期待度 7.その他(自由回答)などについて、対象者から回答を得た。
 質問4から6の詳細については、以下の通り。

質問4.マスク着用で困った事を教えて下さい(複数回答可)。
 回答:
  ① 相手の発音が不明瞭になる
  ② 相手の口元が見えず、会話が不自由になる
  ③ 町中等で不意に声を掛けられた時、誰に向けて対応すべきなのか咄嗟に判断し難い
  ④ こちらの口元を見てもらえず、相手に話の内容を分かってもらいづらい
  ⑤ その他(※自由回答)

質問5.そうした不自由への工夫について教えて下さい(複数回答可)。
 回答:
  ① 相手にマスクをずらしてもらう
  ② まず自分からマスクをずらす。
  ③ 手話・指文字を併用
  ④ 文字で書いてもらう
  ⑤ その他(※自由回答)

質問6.新しい対策について
 メディアやインターネット上では、いくつかの改善策が発信されています。例えば、マスクに「耳マーク」(図1)を描く、透明素材のマスクの開発など、検討に値するアイデアが模索されていますが、そういった情報についてお考えを教えて下さい(複数回答可)。
 回答:
  ① 自分のマスクに「耳マーク」を描く。
    a.試みてみたい
    b.考えていない
    c.その他(※自由回答)
  ② 透明マスクの開発
    a.期待する
    b. 期待しない
    c.その他(※自由回答)
  ③ その他(※自由回答)

図01


結果
 135名から回答があった。

I.マスクによる困りごとは、表1・2に見るような結果が得られた。
 1.一見して、マスクによる語音の不明瞭化(表1:4-1)並びに会話時の相手の口元が見えないために内容の把握が不十分で、会話が不自由になること(表1:4-2)が、なし・補聴器(以下HA)・人工内耳共に2/3近くで自覚されていることが判る。
 2.又、後ろからの声掛けに対して振り向いても、その場に居る人間の全てがマスクを装用しているために声掛けした相手が判明しづらいとの現象が、なし・HA・人工内耳の約1/3で生じていることも判明した(表1:4-3)。
 3.逆に自分がマスクを装用しているために、相手から口元を見てもらえず会話が成立しないとの傾向も、HA・人工内耳の1/3近くで訴えられている(表1:4-4)。
 4.それに対して相手のマスクをずらしてもらうお願いはHA・人工内耳の約1/3で試みている(表1.5-1)。
 5.相手にもよるが、先ず自分のマスクを外して会話を試みる例も、HAで約1/10、人工内耳で約1/3に存在した(表1:5-2)。
 6.手話・指文字の併用は、HA・人工内耳とも約1/4が行なっている(表1:5-3)が、当然手話・指文字の心得がある回答者ばかりではない。
 7.誰でも可能な手段である筆談はHA・人工内耳とも2/3近くが併用している(表1:5-4)。
  ただし筆談は相手の協力が必要で、後述の自由回答のように非協力的な相手も皆無ではない。
 8.自らが難聴者であることを示す耳マーク(図1)に対する期待度はHA・人工内耳では1/4程度で、後述するマークの知名度と本人の恥ずかしい気持ちが現れた数値と考えられる(表1:6-1)。
 9.なし・HA・人工内耳の3者ともに1/2以上が期待する透明マスクは、コストと入手し易さ、何よりも会話の相手が装着してくれるかどうかに依存する部分が問題であろう。
 10.表2の困りごとと補聴手段に関しては、手話・指文字と文字化が1/3以上から半数近くを占めており、機器を使用しての文字化は未だ少数に留まっている。

 しかしこの結果は、今後ニーズの増加に応じて商品化が進み機器の普及が進めば、又事情が変わってくるものと思われる。

表01(掲載版)

表02(掲載版)


II.1.自由回答では、
 a.①コロナ禍でマスク取り外しは言い難い、相手も不服そうで理解が得られない、②手話を使う聾者と違い、難聴者は理解に遠い。
 b.コロナ禍で入院、看護師がマスク外してくれたが感染リスクを考えると申し訳ない。
 c.①マスク外すお願いが病院・店舗で出来なくなった、②口元が見えず読話出来ず表情も読み取れない。③コンビニで「箸」の要・不要を問われると聞こえない。
 d.①人工内耳、メガネ、マスクとの三重は耳が痛い、②マスク着け難く外れ易い、
 e.国会中継に字幕がない。
 f.医療機関勤務のため外せない、透明マスクの有用性を健聴者に理解してもらうのが難しい。
 g.①筆談も面倒がられる、②聴覚障害者=手話ではない、③公的機関等では文字情報を増やして欲しい。

 などとその困惑が目に浮かびそうな回答がいくつも寄せられた。

2.自分たちの対策や、公的対応として、
 a.アプリ等利用25例
 b.耳マーク38例
 c.透明マスク83例
 d.筆談31例

 などが挙げられた。
 但し、それに対する健聴者の理解不足は、やはり付き物のように思われた。

3.しかし、
 a.知事などが会見の際マスクを外す改善はみられた。
 b.病院で番号表示器を置くよう頼み設置して貰ったなどの成果を報告する回答者もみられた。

考察
1.著者は難聴者団体の一つ全難聴の元顧問として、難聴児・者の社会保障に協力して来た。
 実際、1986年には全国難聴者研究大会に三笠宮寛仁親王をお招きしたり、また、1988年のスイス・モントルーにおける国際難聴者国際会議で難聴者の付き添いをしたり、私個人として可能なことをして来た。
 しかし新型コロナウイルスの全世界的な感染の広がりに対して、国民全員に対してマスクの常時装用が一般的となっている今日、聴覚のみならず対話相手の表情や口元の動きに多くの情報を頼っている難聴児・者の困惑はうかがい知れない。
 こうした難聴児・者の医学的障害と対峙する責任を負う我々耳鼻科医は、彼らの困惑を見過ごしにするべきではあるまい。
 ここでは主に全難聴をはじめとする全国の難聴児・者から寄せられたアンケートをもとに、どのような対応ができるのか、その可能性を探りたい。

2.目に見えない障害
 普段から難聴児・者はその障害を外観からは判ってもらえない、という悩みを抱えている。
 このため傍らの人からの声がけに気付かず、不注意と思われたり、無礼な人間と誤解されたり、中には知能に関わる感ちがいをされたり、心に傷を負うことも少なくない2)

3.マスク常用の社会の中で
 表にまとめた困りごと以外に、マスク装用それ自体には発話する際の語尾の「子音」がはっきりしなくなり会話が不明瞭になるという問題がある3)。それら諸問題を助ける手段として、ループシステム、ロジャー、ポケトーク、などの機器が用いられるようになった。さらに最近では、会話の音声が手話や文字へと変換されるスマートグラスと称する新しい眼鏡の開発も行われている。
 ただこれらの手段を活用しても、なお上記の問題点が全て解決されるという訳ではもちろんない。今後もあらゆる形で一つひとつ問題点の改善を訴えかけていく努力が不可欠と考えられる。
 とはいえ実は、周囲にいる正常聴力者(健聴者)には難聴者が「耳が聞こえない」、つまり目には見えない障害を有している事実を外観からは認識できないことが最大の問題であり2)、これはマスクの有無にかかわらず、難聴という病態に常につきまとう難題と言える。
 以前の箱型補聴器では、相手の目の前に自分の補聴器をかざすことで難聴だと分かってもらうことができたが、現在、小型化した耳掛け型もしくは耳穴型補聴器では外見からは難聴と分かり辛い傾向がかなり強くなっている。

4.耳マークの問題点
 それに代わるものとして、難聴者であることを示す耳マークなどを着けたりする対策はあるが、この耳マーク(図1)自体が世界的に統一されていないという現状がある。
 加えて、この耳マークが十分に普及しているとは言えない。その一因として、目立ちたくない、恥ずかしい、特別扱いされたくない、という自身の心の意識、加えて児童では特別扱いを受けることでイジメが起きる4)、という問題が生じてしまうことも皆無ではなく、マークが日常的に使用されにくい隠れた要素となっている可能性は否定できない。

5.補聴器普及の背景
 日本の話ではないが、アメリカで補聴器が現在のように普及した背景には、1983年にレーガン大統領が挿耳型の補聴器を付けて大統領としての公務を果たしている姿が有名になったエピソードがある2)5)
 耳マークも、バッジにするなどのさり気ない形で活用する方法も実用化されている。こうしたどこでもさりげなくその姿を見かけるような積極的な活用の実例があれば、それがきっかけとなって社会的に認知される機会も増えて来よう。

6.透明マスク
 今年になってごくわずかずつだが、透明マスクが販売されるようになって来た。コストと生産枚数の問題はあるものの難聴児・者間で頻用されるようになれば、事態の改善は期待できる。
 しかし難聴児・者にとって本当に必要なのは自分たち同士ではなく、自由回答II.1.fのように周囲の健聴者がこのマスクを使用してくれることである。そのための努力は、難聴児・者と共に新型コロナウイルスの流行下の世界を生きて行く、我々耳鼻科医にも責任のあることかも知れない。

 なお、本論文の要旨は、第66回日本聴覚医学会総会・学術講演会(2021)において口演した。

謝辞
 アンケート調査にあたり、全日本難聴者・中途失聴者団体連合会、聴覚障害をもつ医療従事者の会、みみサポみやぎ、全国文字通訳研究会、デフサポちゃんねる、難聴児を持つ親の会、ゼノこばと園、他多数よりご協力を頂いたことに謝意を表する。

 本稿には利益相反に該当する事項はなし。

文献
1) 倉内紀子 監修:発達と障害を考える本9 ふしぎだね!? 聴覚障害のおともだち. ミネルヴァ書房. 東京. 2008.
2) 鈴木淳一, 小林武夫:耳科学—難聴に挑む. 中公新書. 東京. 2001.
3) 地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター, ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社:新型コロナによるマスク着用・アクリルパネル越しでのコミュニケーション下における「飛沫感染防止用具使用による音声の聞こえ難さ」. プレスリリース(2020.10.28)
4) 岩渕紀雄:しじみ貝の詩 聴力障害者からの体験から. 日本放送出版協会. 東京. 1978.
5) 三好 彰:箪笥の中の補聴器, 耳喉頭頸, 61(6):499-501, 1989.

英文抄録
The impact of mask-wearing as a preventive measure against infection with the Novel coronavirus infection on children and adults with hearing loss

Akira Miyoshi*
Takeyuki Sambe**
Masafumi Nakagawa***
Akihiro Kishino****
Toshihiko Higashikawa*****

*Miyoshi Otolaryngology Clinic, 1-34-1 Izumichuo Izumi-ku Sendai-shi, 981-3133, Miyagi, Japan
**Showa University Research Institute for Sport and Exercise Sciences, 2-1-1 Hujigaoka, Aoba-ku, Yokohama-shi, 227-8518, Kanagawa, Japan
***International University of Health and Welfare, 4-3 Kozunomori, Narita,  286-0048, Chiba, Japan
****Institute of Development, Aging and Cancer, Tohoku University; Nihon University School of Medicine,
*****Higashikawa Otolaryngology Clinic, 3-2-8 Mikadocho, Fukuyamashi, 720-0805 Hiroshima, Japan

1. We conducted a questionnaire survey to investigate the impact of mask-wearing, a preventive measure against the new coronavirus infection, on children and adults with hearing loss in Japan and received responses from 135 participants.
2. Children and adults with hearing loss rely not only on their hearing but also on facial expressions, especially mouth movements, of their conversational partners to extract information.
When a mask covers the mouth of the conversational partner, understanding conversations becomes very difficult for people with hearing loss. This finding was confirmed by our questionnaire survey.
3. Advances in hearing aids are expected to improve the ability to obtain auditory information.
4. However, the real problem is that people with normal hearing cannot detect the disability of people with hearing loss based on their appearance.
5. To solve this issue, people with hearing loss as well as otolaryngologists should make efforts to promote awareness regarding the hearing loss symbol among the general population.

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