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2023年5月 No.339

 

グローバル・ファンド 戦略投資効果局長
【再】國井修先生の特別講演を行いました4

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 前号から引き続きまして、院長の古くからの友人であり、院長が世界一尊敬する医師・國井 修(くにい おさむ)先生の特別講演の内容をご紹介いたします。

前号のあらすじ
 国連のUNICEF(ユニセフ)(国連児童基金)で活動する國井先生は、ミャンマーでのサイクロン被災地での医療支援、また、念願だったアフリカでの医療支援活動に従事します。しかし、そこは十分な医療体制が整っていないばかりか、銃弾の飛び交う内戦まっただ中のソマリアでした(図47)。

図47
 図47 アフリカ大陸の北東にあるソマリア


武装勢力との交渉(図48)
 栄養失調で子どもがどんどん亡くなるような地域でも、武装勢力というのはいるんです。
 そこで、またもや私は戦略を練って彼らと交渉しました。「どうか戦争を1年に3回で良いから休んでくれ!」「1週間、できれば2週間だけ休んでくれ」と言いました。
 その期間中にできるだけの子どもたちにアクセスして、ワクチンとビタミンA、お母さんたちに鉄分などを補給するのと、あとはベッドネット(蚊帳)ですね。マラリアを媒介する蚊が多いので殺虫剤を染み込ませたベッドネット。これらをパッケージにして休戦期間中に配りました。これによって多くの人たちが助かったんですね。
 そして彼らを説得して「その時期だけは休んでくれ!」「この時期だけは一緒に手伝ってくれ!」と、「我々が現場に行っても銃を向けないでくれ!」とお願いするんですね。これで約250万人の子ども達を救うことが出来たんですね。

図48
 図48 武装勢力のひしめくソマリア


砲煙弾雨の援助活動(図49)
 こうした現場に行くときは、時々やっぱり撃たれますので、私はもう白衣姿ではなくて防弾チョッキを着こんで行きます。
 写真はAU(アフリカ連合)の装甲車なんですが、特にモガデシュなどの街はとても危ないのでこういった装甲車に乗って移動します。
 ところがこれでも撃たれて亡くなる事があるんですね。私の同僚も2人亡くなっていますし、私の部下も10人くらいが人質になった事もありました。その時はどうにか交渉して救出する事が出来ましたが……。
 本当に危険な場所だからこそ多くのニーズが存在しているので、リスクをいかに下げていくかが大切ですね。危険の中にわざわざ入って行く事はないので、そんな時は休む。または自分たちは行かないで、現場にいるNGOの人たちにやってもらう。
 それでも本当に危ない時には活動を停止して、別のルートを考えながら先ほどの薬とかを送っていきます。それを毎日、地図を見ながらシミュレーションするんですね。
 今日はここが危ないから陸路はやめて海路を行こう。もしくは空路で北のエチオピアから行こう、またはドバイに物資倉庫を作ってそこから陸路で輸送しようといった事を毎日考えるんですね。

図49
 図49 防弾チョッキ・ヘルメットを着た國井先生


エイズの脅威(図50)
 その後、私はアフリカからスイスに移動しました。もう地獄から天国ですね。スイスって本当にキレイなところでビックリしました。
 なんでそんなところに行ったのかと言うと、特に1990年代からアフリカでエイズによって死亡する人が増えてきたんですね。
 写真はマラウィという小さな国なんですが、両親がエイズによって死亡したために孤児になってしまった子ども達ですね。この国には約70万人の孤児いると言われています。

図50
 図50 エイズで両親が死んだため孤児となった子ども


エイズによる平均寿命の低下(図51)
 どんなにひどいかと言うと、グラフはアフリカ5ヶ国の平均寿命の推移です。1990年頃から急激にグラフが下がっていって、大体30歳位まで平均寿命が低下しています。いわゆるエイズの流行です。
 皆さんエボラ出血熱って聞いたことがあるかと思います。とても恐ろしい病気というイメージを持っていると思いますが、2年間でエボラ出血熱に罹って死亡した人は1万人だけです。これだけでも多いと思われると思いますが、エイズは桁が違います。

 エイズは1日で1万人以上が死んでしまいます。たった1日ですよ? それも毎日です。
 私は1990年代にザンビアと言う国に行った事があるんですが、その辺でお葬式をやってるんです。でもお墓がどんどん広がって行って亡くなった人を埋められなくなったんです。この時は国の約3分の1の人がエイズに罹っていました。その当時薬がなければほぼ100パーセント死亡です。
 エボラの死亡率は約40パーセントです。これは大変な事になってるんですね。

図51
 図51 エイズによる平均寿命の低下


先進国首脳会議(サミット)を開催(図52)
 それで、実は2000年に九州・沖縄で先進国首脳会議(サミット)が行われました。
 アメリカはクリントン、日本は当時の森総理、フランスのシラフなどが集まって、これは世界に影響を与える大変な事態であるとの認識で一致しました。
 エイズによって人がどんどん死んでいく。これがヨーロッパや日本にも飛び火するだろうと考えられました。
 そこで、何かの基金をつくって世界中を救わなければならないと言う話し合いがもたれたんですね。

図52
 図52 沖縄サミットで集う先進国首脳


グローバル・ファンドの設立と意義(図53)
 そういった経緯があって創設されたのが、いま私が働いているグローバル・ファンドです。
 つまりお金を集めて、プライベートとパブリックのパートナーシップを持って現場を変えていく。それを期待されたんですね。
 とにかく我々は、どんな田舎の現場でも薬を送り届けます。
 写真はニカラグアの山奥ですが、ご夫婦2人で橋も架かっていないようなところをイカダを使って川を渡っています。このようにして結核の薬を現場に運んでいるんです。

図53
 図53 治療薬を運ぶ様子


村全体への教育(図54)
 山奥ですから当然テレビなんて言うのもありません。こういった所には紙芝居みたいな感じで、スクリーンに映像を流します。そしてマラリアがどんなに危なくて、どういう風にすれば予防できるかを伝えます。その後にベッドネットを皆に配布します。
 そして、このベッドネットも普通の蚊帳ではないんですね。それもすごいのは、日本の住友化学が作ったんですが、人体に影響のない殺虫剤をネットに染み込ませてあるんですね。すると、この蚊帳にとまった蚊の駆除とマラリアの予防が同時に出来るんですね。
 なかには、大統領ですら1年の間に8回もマラリアに罹る国もあるんだそうですね。そんな国でマラリアの数がグゥッと減っていったんです。

図54
 図54 スクリーンに映像を映して村人に情報発信


女性のエイズ対策(図55)
 写真に写っている女性は全員がエイズです。昔ではこの人たちはみんな死んでいました。
 お母さんが妊娠すると、子どもにもエイズが移ってしまい連鎖が止まらなくなるんです。
 お母さんから子どもにエイズを移らせないようにする薬もあるので、そういった治療薬を配ります。

 今ではこの人たちは生き長らえて、子ども達も生まれたときにキチンと予防すればエイズ感染はほぼ0パーセントに抑えられます。
 しかし、子どもに母乳を与えてしまってそこから移ってしまうことはあります。

図55
 図55 エイズに感染した母親たち


ヘルス・ワーカー(地域の保険医)(図56)
 山の奥深くでもエイズや結核になってしまってどうしようもない人達がいるものですから、こういう人達を助けるには、ヘルス・ワーカー(地域の保険医)がボランティアで現場に行って薬をその場で与えます。
 そういう細やかなケアをしなければいけないんですね。

図56
 図56 重要な役割を果たしているヘルス・ワーカー


人財の育成(図57)
 写真は牢屋にいる囚人達です。確かに彼らは悪いことをしたかも知れません。ところがこの牢屋の中にいることによって、この狭く換気もない空間で結核が流行るんですね。本当にひどいです。結核でバタバタ死んでいく所もあります。
 彼らがもし牢屋から出た時に、結核を家族に移して、地域に移してしまうんです。
 多くの国では、こうした牢屋にいる囚人に対して病気の治療はしないんです。こう人たちにも我々は、診断をして治療を与えるという事をしないと、それぞれの国の感染症を予防することができないんですね。

図57
 図57 受刑者に広がる結核


ウクライナのストリート・チルドレン(図58)
 写真は東欧のウクライナです。ウクライナでは貧富の差が激しいので、この子どもはストリート・チルドレン(路上生活者)です。
 こうした子どもが、そのへんで暴力や盗みを働いて生活しています。
 こういった子ども達の中に結核やエイズが流行ったりするんですね。こういった所では病院があっても彼らは来ません。
 どうするかと言うと、子ども達のいるところに保健士さん達が行って、彼らを説得して、そして病気の検査や治療をするんですね。

図58
 図58 ストリート・チルドレンへのケア


グローバル。ファンドの成果(図59)
 そうした活動の結果は、グラフのようにエイズの治療を広める事ができました。
 だけどエイズの治療って高いんですよ。毎日薬を飲む事を1年間続けると、何と一人当たり200万円掛かります。
 アフリカの貧しいところで、こんなエイズの治療薬を配布するのは無理だと、そうせならアフリカの人たちは放っておけばいいだろう、そんな事を言う人もいたんです。びっくりしますね。

 ところが、私が日本に居た時に役人の方から「いくらODAとは言え、一人200万円ものお金は出せませんよ!」と言われました。確かにそうです。
 逆に言うと、その200万円を別の病気の対策に使えば、200人以上の人達を救うことが出来るんです。もしかすると2千人以上を救うこともできるんです。
 そうしたら、どうしてもそちらの方にお金をやってしまいますよね? でも、1日に1万2千人以上も死んでいた、余りにもひどい状態にある人達を救わなくちゃいけない。
 それで立ち上がったのがU2というバンドなんですけれども、そのバンドのボーカルのボノっていう人が声を掛けて色んな人が立ち上がりました。
 そしてキャンペーンをはって一杯お金を集めて、グローバル・ファンドにたくさん寄付をしてくれました。そのおかげでエイズの治療薬もどんどん増えていって、1千万人以上の人達に薬を配る事が出来たんです。

 ただし、それは一人当たり200万円もの費用が掛かるのでは無理ですから、製薬会社などと話をして薬を安くしてもらいました。今では医療技術も進歩して、1年間の一人当たりの費用が7千円にまで下がりました。考えられます? 200万円だったのが7千円ですよ?
 これはですね、研究開発の大切さを感じますね。
 そして当時、1日当たりの服用する薬の用量は28錠ですよ。それも飲み方が大変だったんですよ。1日8回に分けて飲まなければならなかったんです。

 何故かというと副作用が強かったんですね。ある薬は肝臓をまたある薬は腎臓をおかしくするんですね。腎臓に障害が出てしまうので、薬の服用の際に1.5リットルもの水を一気に飲むんですよ。
 そうなるとエイズに罹った人達の中には、死んでもいいから薬を飲みたくないと言う人もいました。だから、いくら言っても対策が広まらなかった事もありました。
 それで製薬会社が頑張ってくれまして、我々もそこにたくさんの資金を投入しまして、なんと今では1日に1錠にまで用量を減らすことができたんです。これは科学(化学)が発達しないと駄目ですね。そうした人達の努力があって、今では1千万人以上の人たちが死ななくて済むようになりました。

 先ほどお話した蚊帳も、5億人以上に配ることが出来ました。それによって死亡率がグゥッと下がって、1日に7千人にまで死亡者数を減らすことが出来ました。だけど、それでもまだ7千人の人が死んでるんですよ。
 例えば、南アフリカという国は人口が5千万人位います。そうするとその中に、エイズの患者さんが600万人いるんです。更に、その600万人の内、薬を飲んでいる人、もしくは自分がエイズだと自覚している人は半分の300万人しかいないんです。
 逆に言うと、300万人の人達は周囲の人にエイズを移しているんですよ。

 加えてこの南アフリカという国では、1日に300件のレイプ事件が起こっています。こうした社会的な実態の1つ1つ解決していかなければならないんです。時間は掛かるんですけど、ここでどうやってそういう人達の行動を変えて、意識を変えて、そして薬を与えて、知識を与えて変えていく。こういう事をやっていかなければいけないんです。

図59
 図59 エイズ対策の効果


目に見える実績(図60)
 こうした活動をしていて嬉しい事は、グラフにもありますが死亡者数が下がっていったんですよ。
 特にこのボツワナという国は人口の2人に1人がエイズに罹っていました。恐らくこのまま放置しておけばエイズで国が滅亡していました。1990年から2001年にかけて死亡者数は右肩上がりです。このまま死亡者数が総人口に追いつく勢いだったんですね。
 そこで、20000年あたりで我々グローバル・ファンドが出来まして、そこから逆に右肩下がりにグラフが下がっていったんですね。
 この時我々は「やれば出来るんだ!」と、本当に人間が力を合わせて、G8が良いとこに集まってただお酒と料理を楽しむのではなくて、彼らが言った事を一緒にキチンと行動に表す事が大事だと思ったんですね。
 行動とはどういう事か。それは先進国がまずお金を集める事、そのお金を扱う機関が一致団結して努力すること、それによって結果が出てくるんですね。

図60
 図60 滅亡の危機にあったボツワナ


先進国の保健医療援助(図61)
 ちょっと難しく見えるグラフかも知れませんが、これは先進国の保健医療援助の推移を表しています。
 昔はこういったお金は集まらなかったんです。今はアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、日本は大体5番目位にお金を出してくれています。
 アメリカはすごいです。ただ問題はトランプ政権になって実をいうと予算は下がっているんです。私たちはアメリカの政府に、ホワイトハウスでトランプさんの周りにいる人達に「どうにか今の水準で持続をして欲しい!」と、そしてイギリスもEU離脱が騒がれていますがこの保健医療に対するお金は、どうにか集めて欲しい、と。日本も実情は分かっていますが、どうにか頑張って欲しい。
 今朝、私は外務省に行って話してきました。とにかく外務省で頑張ってくれたらああいう人達の命が救われるんです。ここで予算を減らしたら我々も活動を減らさなければならない。そうすると確実に人が死ぬんです。

図61
 図61 先進国の保健医療援助の推移


GDPに対する保健医療援助の割合(図62)
 このグラフを簡単に説明すると、〇印がグラフの上にあれば、国の収入(GDP)に対して医療援助の割合が多いという事、そして〇印の大きさは医療援助額の大きさを表しています。
 〇印が大きいアメリカが一番お金を出しています。イギリスもその次にお金を出しています。
 しかし北欧のノルウェーはグラフの一番上の方にあります。どういうことか?
 例えば、日本にいる皆さんの1年間に払う税金を1万円としましょう。日本では1万円の税金の内0.02パーセント、2円位しか海外の保健医療にお金を出していない事になります。

 ところがイギリスとかは0.16パーセント(16円)、ノルウェーという国は小さいですから金額全体は少ないです。しかし0.23パーセント(23円)、日本の10倍以上のお金を出してくれています。
 このノルウェーという国は意識がとても高いです。外国の事を考えたならば「何とかしてあげよう!」と、「税金1万円の内の23円位、大した事はないじゃないか!」と考えているんです。

 確かに日本にも多くの問題を抱えています。しかしこの数字を少し上げるだけで多くの人が救われるんです。
 ぜひ、秋葉先生には頑張って頂きたいです。

図62
 図62 医療援助の負担の度合いを表しています

つづく

前のお話は こちら から。

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