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3443通信 No.359

 

耳のお話シリーズ38
「あなたの耳は大丈夫?」16
~大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授・元学長)の著書より~

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 私が以前、学校医を務めていた聴覚支援学校。その前身である宮城県立ろう学校の教諭としてお勤めだったのが大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授)です。
 その大沼先生による特別講演の記事『聴覚障害に携わる方々へのメッセージ』(3443通信No.329~331)に続きまして、ここでは大沼先生のご著書『あなたの耳は大丈夫?』より、耳の聞こえについてのお話を一部抜粋してご紹介させて頂きます。

かぶさる、回り込む、いろいろな音の性質
▼低い音は高い音を消してしまう
 人の話を聞いているとき、焼いも屋さんのピーと鳴り続ける笛の音がしても、気にはなりますが聞き取りの邪魔にはなりません。あるいは、遠くから救急車のサイレンのような音が聞こえてきても同様です。
 人の声の周波数帯よりもはるかに高い周波数成分を含む雑音は、人の声の聞き取りにあまり影響しないのです。

 しかし、車のエンジンの音や工事の音、モーターの音などがそばにある場合、とたんに相手の話し声が聞き取りにくくなってしまいます。

 車のエンジンの音などは、音声よりも低い周波数成分をもつ雑音なので、高い音である人の声にかぶさって消してしまう(マスキング)という現象が起こるのです。そのため、相手の話が非常に聞き取りにくくなってしまいます。低い音には高い音を消してしまう性質があるのです(図56)。

P.62 図56
 図56


▼低い声は回り込む性質をもつ
 たとえば、立て付けの悪い安アパートの一室で、高い声の人と低い声の人が話をしていたとします。隣の部屋にももれ聞こえてしまうのは、どちらの声でしょうか。この場合、よく響くから高い声の方が聞こえると思ってしまいがちですが、答えは低い声のほうです。
 立て付けの悪い安アパートは隙間が多いので、低い声は文字通り「隙こそあらば」と抜け道を通って隣の部屋に流れ込みます。低い音は回り込む性質をもっているのです。
 ただし、話の内容がはっきり聞こえるかといえばそうではなく、隣の部屋にはボソボソといった低い声の成分だけが伝わります。
 隣で聞いている人にすれば、何かボソボソ言う声が聞こえるが、何を言っているのかわからないといった状態です(図57)。
 はっきりした声やキンキンした高い声は、回り込む性質がない高い周波数の成分を含んでいるので、壁に当たってしまえば遮断され、外にもれることはないのです。

P.63 図57
 図57


【前話】「あなたの耳は大丈夫?」15

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