3443通信 No.363
耳のお話シリーズ42
「あなたの耳は大丈夫?」20
~大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授・元学長)の著書より~


私が以前、学校医を務めていた聴覚支援学校。その前身である宮城県立ろう学校の教諭としてお勤めだったのが大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授)です。
その大沼先生による特別講演の記事『聴覚障害に携わる方々へのメッセージ』(3443通信No.329~331)に続きまして、ここでは大沼先生のご著書『あなたの耳は大丈夫?』より、耳の聞こえについてのお話を一部抜粋してご紹介させて頂きます。
耳介が頭の両側についているわけ
▼人の耳が両側にあるメリット
耳は外耳、中耳、内耳の三つのパーツから成立していますが、一般に「耳」というと、顔の両側にピョコンと突き出た二つの耳のことを指すのではないでしょうか。これは耳介ともいい、音をキャッチして取り込む集音器のような働きをしています。
人の耳介は頭の両側にひとつずつついています。おかげで左右からの音量の差を聞き分け、音源がどこにあるのかを探し当てやすくなっています。音源が発見できれば、その方向へ顔を向け、自分にとって必要な音声だけど大きく取り込むことができるなど、有利になります(図32)。

図32
また、耳が二つあると、より小さな音を聞き取る役にも立ちます。両方の耳で音を聞くと、片方の耳だけで聞くよりもよく聞こえるのです。数値でいうと、プラス3デシベルぶんよく聞こえるようになっています。片耳をふさぐと、マイナス3デシベル聞こえが悪くなります。ステレオの片側のスピーカーの音を切ったときの音の大きさが、マイナス3デシベルぶんです。
▼耳は動かせないが、顔がよく動く
昔、お笑い番組でタレントの明石家さんまさんが、大きな耳を持ったキャラクター(ブラックデビルだったでしょうか)に扮していたことがあります。
あるとき、そのキャラクターが突然大きな耳を後ろ前につけ替えたと思ったら、体の向きも後ろに変えて人と話し始めたのです。動物の多くは、頭を音の方向に向けなくても、耳だけを動かして音をよく聞くことができるようになっています。
ところが、人間は耳介が自由には動かせません。相手に顔を向けて話が成立するようにと、人の耳介は動かせない構造になっているのかもしれません(図33)。
耳介がなぜあのような形をしているか、実はまだ解明されていません。しかし、人の耳介は人の声を聞くのに最適な位置にうまい形でついていて、なおかつ造形的にも美しいということは、いってよいでしょう。

図33
【前話】「あなたの耳は大丈夫?」19