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3443通信 No.365

 

ラジオ3443通信
「チベットとバター茶」


 ラジオ3443通信は、2010年から毎週火曜10:20~fmいずみ797「be A-live」内で放送されたラジオ番組です。
 ここでは2012年10月23日OAされた、学校健診にまつわる話題をご紹介いたします。

91 チベットとバター茶
An.
 三好先生、前回は雲南省の三好先生の今回の旅から、香格里拉市のマツタケについてお話を伺いました。
 標高4500メートルの山にも登ったと伺いましたが、そこはどんな光景だったんでしょう?
 なにしろ日本では、標高3776メートルの富士山が最高峰なので、私たちには想像のつきにくい一面があります。
Dr.
 標高3300メートルの香格里拉市内から、リフトを使って1200メートルくらい登るんですけど。
An.
 それくらい登ると、すごく景色が良いんでしょうねぇ。
Dr.
 この地域は10月からは乾期、つまり乾燥した晴れた日々が続くんですけど。9月はまだ雨期で、雪混じりのつめたーい雨が吹き付けて・・・・・・。厳しい横流れの風のせいもあって。それはそれは、寒いんです!
An.
 じゃあ、4500メートルの山の上からは、なんにも見えなかったんじゃあ。
Dr.
 今回の私たちのグループの中には、1名『晴れ女』のあだ名のあるナースが同行したんですけど、ね。
An.
 標高4500メートルには、勝てなかった(笑)!?
Dr.
 現地で、すごくぶ厚い登山用コートを急遽借りて、だるまさんみたいな格好でリフトに乗ったんですけど・・・・・・。
An.
 自然の驚異の前には。
Dr.
 あまり、役立ちませんでした(笑)。
 いやぁ、ホントに寒かったです。
An.
 江澤が、ガイドブックで読んだ案内ですと、そのあたりからは標高6740メートルの梅里雪山がよく見えて、とても風光明媚なところだ、とか。
Dr.
 日頃の行ないのせいでしょうか(笑)、そううまくは行きませんでした。
An.
 地図で見ると、たしかにこの地点はチベットにも近く、自然環境は厳しいところなんでしょうよね?
Dr.
 後程お話ししますけれど、ここは古い通商ルートの一部でして、『茶馬古道(ちゃまこどう)』つまり『ティー・ロード』の名前があります。
An.
 『茶馬古道』と言いますと、お茶と馬の古い道、と字を充てますね。
Dr.
 お茶は古(いにしえ)から、薬の一種と考えられていまして。貴重品だったんです。
An.
 そう言えば、吉川英治の『三国志』の冒頭にも、劉備玄徳が母親のために貴重品のお茶を買い求めたのに、黄巾(こうきん)の賊にそれを奪われるシーンが出て来ました。
Dr.
 同じように、貴重品であった西双版納で採れるお茶とメコン川の塩とを、チベットに運ぶ運搬ルートの一部が茶馬古道なんです。
An.
 それが古代からの、チベットと雲南との交易ルートだったんですね?
Dr.
 雲南からはお茶と塩、そしてチベットからは仏具や教典などの、仏教関係の品々が交易品だったと聞いています。
An.
 チベットでも雲南のお茶を飲むんですね?
Dr.
 チベットで飲むお茶は、とっても独特なんです。
 そもそもチベットは、全体的に標高の高い場所にあるものですから、畑に実る普段の食物も、栄養価の高いものには恵まれません。チンコー麦と呼ばれる麦の一種が主食で、それを粉にして焦がしたものをツァンパと称して、食べています。
 そのときに付き物なのが、バター茶です。
An.
 バター茶ですか? 紅茶とクッキーの混ざったような、ステキな味がするんでしょうか?
Dr.
 いいえ、煮染めたような濃いお茶を、ヤクつまりチベットの毛長牛のミルクで煮出し、ヤクのバターとお塩とを加えた、一瞬ウッとなってしまうような、すごい臭いと味の、いわばおクスリですよ。
An.
 先生、なんだか想像するだけで凄まじいものがありますね。
Dr.
 ツァンパだけのあっさりした食事がメインですから、このバター茶で栄養を補っているのは良く理解できるんですけど、ね。
 一度で良いんですが、江澤さんにも私はバター茶を振る舞ってあげたいような、気がします。
An.
 センセ、お気持ちだけで、それは・・・・・・。
Dr.
 私はチベット族の民家も訪問しているんですけど、彼らにとってこれは最高のおもてなしですので。何杯でも勧めてくれるんです(図1)。

図06 P.7 2360バター茶と院長【構成用】
 図1 チベットの民家にて(2001年10月27日)


An.
 もしかするとそれは、岩手県のわんこそばみたいな感覚でしょうか?
Dr.
 そうです。岩手ではお蕎麦は貴重品なので、お客さまにはイヤと言うほど無理に勧めてくれるんです。それが、わんこそばの由来ですから。
An.
 バター茶も・・・・・・。
Dr.
 そうです。貴重品なので、お客さまにはイヤと言うほど勧めてくれます。
 おまけに勧めてくれるその呼吸が、わんこそばと同じで。
An.
 茶わんが空になると、次の瞬間いっぱいになっていると言う、あのタイミングですね!
Dr.
 私は大学が岩手で、盛岡市に6年間住んでいたものですから、その辺の事情にはくわしいんです。
 わんこそばでは、一口サイズの蕎麦茶わんでするっとそばをのどに流し込むんです。その瞬間、隣に控えていたお店の人が注ぐ手も見せずに、次の蕎麦を茶わんに入れてしまいます。この絶妙なサービスは、隙を見て茶わんを伏せてしまうまで、終わらないんです。
An.
 センセイ、まさかバター茶もそのパターンなんじゃあ・・・・・・。
Dr.
 その「まさか」なんです。
 しまいには口の中がバターの臭いで一杯になってしまって、ゲップも出ないくらいになります。
An.
 体験してみたいような、みたくないような・・・・・。
Dr.
 バター茶のお話はこれでおしまいですから(笑)。次回をお楽しみに。

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