3443通信 No.367
ラジオ3443通信「辛さは味覚ではない」
ラジオ3443通信は、2010年から毎週火曜10:20~fmいずみ797「be A-live」内で放送されたラジオ番組です。
ここでは2012年11月6日OAされた、学校健診にまつわる話題をご紹介いたします。
93 辛さは味覚ではない
An.
三好先生、前回はお茶のお話から、『茶馬古道』の交易ルートのお話、そしてチベットにおけるバター茶のお話を伺いました。お茶のお話は、まだまだ長く続きそうなんですけど、一度、三好先生の今回の調査旅行のお話の続編を、ぜひお聞きしたいと思います。
Dr.
お茶のお話は本当に長くって、北海道白老町に私の先祖が行っていた幕末の時代の、日本・中国・英国のお話になるんです。
でも、あんまりスケールの大きいお話になりますので、一旦調査旅行の話題に戻りましょう。
An.
先生が今回行かれた、雲南省や昆明市などという地名は、江澤には初耳だったんですけれど。どういう場所なんでしょうか?
Dr.
雲南省の位置については、10月9日のこの番組で触れてますけれど、東西に5千キロ近い広さの中国の、真ん中付近に蘭州市というシルクロードの町があります。
An.
そのまっすぐ南側に、三国志で有名な成都市があります。
Dr.
成都市は三国志の時代には、『蜀』の国として、諸葛孔明の活躍で有名です。
An.
その、さらに南側に、雲南省の中心地である昆明市があるんでしたよね。
Dr.
蜀の国のある地域を、四川省と呼ぶんですけど。
ここは一年中晴れの日が少なくって、あまり日がささないんです。
An.
それじゃあ、四川省の人たちは日に焼けていなくって、きっと色が白いんでしょうね。
Dr.
たしかに四川省には美人が多い、と言われます。
日本でも、日照時間の少ない秋田には美人が多いって、そんな言い伝えがあるのと同じみたいです。
An.
江澤も、四川省に生まれたかったような気がします。
Dr.
そんな風に、蜀は太陽があまり姿を見せない気候であるために、「蜀犬、日に吠ゆ」つまり四川省に住む犬は、お日さまを見ると外敵だと思って吠えつく、ということわざがあります。
An.
えっ、ワンちゃんがお日さまに向かって吠えるんですか?
Dr.
それが真実かどうかは分かりませんが、この言葉は「見聞や見識の狭い人間が、優れた言行、つまり言葉や行ないのことですけど。そうした言行に触れたとき、それが理解できず、疑って怪しみ、攻撃すること」を意味する、とされています。
An.
いかにもありそうなこと、ですねぇ。
Dr.
ともかく四川省はそんな気候でして、湿度も高いので健康のことを考えて、辛い食べ物をたくさん食べます。
An.
カレーライスとか(笑)?
Dr.
カレーではないんですけど、ね。
マーボー豆腐とか、痺れるような辛さの食事が、ここでは名物です(図1、2)。

図1 ネットでも買えます

図2 成都市にある陳麻婆豆腐
An.
マーボー豆腐! ビールが進みそうですね。
Dr.
そりゃ江澤さん。ビールの中でも、青島(チンタオ)ビールが少し甘くって、マーボー豆腐には一番合うんです。
ただし同じ青島ビールでも、ラガー・タイプが最高で、「純生(じゅんなま)」タイプの青島ビールは、水っぽいんです(笑)。
An.
青島ビールって、江澤も名前を聞いたことがあります。
Dr.
山東省の青島地域は、昔ドイツのビール工場がありまして。今でもその伝統を引き継いだ、コクのあるビールが生産されているんです。
An.
中国で、ドイツ・ビールがのめるんですねぇ。
Dr.
以前は武漢市にもドイツ・ビールがありまして、今ではもう生産されていないんです。おいしかったんですけど、名前が悪かった。
An.
どんな名前だったんでしょうね?
Dr.
中国のドイツ・ビールだから、『中独ビール』(笑)。
An.
お腹にきそうな名前!
Dr.
まぁお話は、マーボー豆腐のことなんですけどね。
An.
マーボー豆腐って、とっても辛いんですよね。
Dr.
日本では辛いという場合、唐辛子などの辛味のことを指します。けれども中国の辛味は、マーと表現される唐辛子の辛さと、ラーと表現されるシビレ感の辛さと2種類、あるんです。
An.
マーはなんとなく分かりますけれど、ラーってどんな感じなんでしょう?
Dr.
うなぎの蒲焼きにかける山椒に良く似た、花椒を料理に使用するんですけれど、まぁ「山椒は小粒でもピリリと辛い」って言葉があるように、痺れる感じの辛さです。
An.
先生、味つまり味覚って、確か4原味つまり「甘い・しょっぱい・すっぱい・苦い」に分類されるって聞いたことがあります。
Dr.
現在では4原味ではなくって、5原味つまり4原味プラス『旨味』が、味覚を構成しています。
An.
それじゃ先生、マーボー豆腐の辛味って、味覚じゃないんでしょうか?
Dr.
4原味もしくは5原味は、口の粘膜の顔面神経・舌咽神経・迷走神経で感じる、文字通りの味のことです。
でもね江澤さん、辛味は正確には味覚じゃないんです。
An.
辛味は味じゃなかったんですかぁ!?
Dr.
辛味は実は小さな痛み、つまり痛覚なんですよ。しかもこれは三叉神経の担当で、他の原味とはニュアンスが違うんです。
An.
ちっとも知りませんでした。
それじゃマーボー豆腐は、4もしくは5原味以外の味覚も十分に楽しめる、豊かな料理ってことでしょうか。
Dr.
次回はそのお話です。お楽しみに。
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