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みみ、はな、のどの変なとき

82 咽頭痛(いんとうつう)

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のどの痛みは⽿に響くことが良くあり、⽿そのものの痛みと勘違いされることも少なくありません(これを放散痛と⾔います)。⽿が痛いときには⽿⾃体の疾患と共に、のどの炎症などの可能性も、頭に⼊れておく必要があります。

そう⾔えばアレルギー性⿐炎に際して、⽿の痒くなることがあります。これも外⽿道のアレルギー性疾患だけでなく、⿐からのどにかけてのアレルギーによる掻痒感を、⽿の痒みと感じている。そんな機序も考えられます。こういうときに⽿を掻きむしる⼈がいますが、もちろんいくら引っ掻いても、痒みはまるで治りません。

ついでに付け加えれば、⻭の噛み合わせが悪いために⽿痛の発⽣することがあります。あごの運動に偏位が⽣じ、顎関節に無理のかかることから、⽿前部に痛みを感じるのです。これは顎関節症と呼ばれる疾患ですが、物を噛むときに痛みが増強するので、⽐較的診断は容易です。この疾患の場合、精査と治療は⻭科が主体となります。

のどの上の⽅、上咽頭と呼ばれる部分に炎症がある(上咽頭炎と⾔います)と、のどの痛みはもちろんとして、⽿や後頭部に放散痛を感じることがあります。上咽頭部は⿐の奥まっ正⾯の、⼝蓋垂(いわゆる”のどちんこ”です)の陰に当たる部位です。ですから、専⾨の⽿⿐科医以外には、この部を確認するのは結構難しいのです。結果的に原因不明の頭痛や⾎痰に悩まされる、そういうこともあります。こうした症状のある⽅には、早めの⽿⿐咽喉科受診をお勧めします。

冬のとても寒い時期、あるいは夏の暑くてたまらない時期に、のどのすごく腫れてひどい痛みの⽣じることがあります。⾷事など、とても摂取できません。これは扁桃周囲膿瘍と⾔って、扁桃の周りの軟らかい組織に膿の貯留した状態です。この状態は実際本当に痛くて、何⽇間も⾷べ物がのどを通らなくなります。対抗策として点滴を⼗分に、それも有効な抗⽣物質を注⼊して⾏ないますが、頑張って⾷事を摂ることは重要です。体⼒回復の程度が、ケタ違いに良いからです。

なお、扁桃周囲膿瘍の腫れが余りに極端な場合には、切開して膿を排泄してやる必要もあります。また時に膿瘍が⾃壊(ひとりでに破れてしまうことです)して⾃然に膿が出、楽になってしまうこともあります。

もう⼀つ、のどの強い痛みで重要な疾患に、喉頭蓋膿瘍があります。喉頭は気管の⼊り⼝で、⾷道との分岐点です。このため、飲み込んだ⾷物が気管へ⼊って⾏かないように、ふた(喉頭蓋)が付いています。そしてここに感染が⽣じ膿瘍ができると、さぁ⼤変。痛いのはともかく、この部は気管の⼊り⼝、空気の通り道です。腫れると、呼吸がとても苦しくなってしまいます。早期に診療を受けることができず、適切な治療が間に合わないと、気管切開(くびの前の⽪膚を切り、気管に呼吸のための孔を開ける⼿術です)が必要となります。それくらい呼吸困難がひどくなる、ということなのです。
 のどの痛みは、早めに⽿⿐咽喉科へどうぞ。

ところで⼦どもの頃から、扁桃の炎症を時々繰り返す⼈がいます。40度近い熱が出てのどが痛み、⾷事も摂れません。このような何遍も繰り返すのどの炎症を、習慣性扁桃炎と呼んでいます。

そう⾔えば、昔は良くこの習慣性扁桃炎に対して扁桃腺(以前は⼝蓋扁桃のことを扁桃腺と呼んでいました)の⼿術が⾏なわれましたが、この頃はどうでしょう。⼦どもの体に扁桃は有⽤で、⼦どもが⼩さいうちは取らない⽅が良い、そんな意⾒も時々聞きます。

扁桃は、上咽頭のアデノイド(咽頭扁桃)や⾆扁桃などと共に、リンパ組織から成っています。そしてそれは、空気や⾷物が体内に⼊る際に、ばい菌やウィルスが体内に取り込まれないよう、まるで関所のような役⽬を果たしているようです。実際にこれら咽頭のリンパ組織は、輪状に咽頭を囲んでいて、関⾨を思わせる位置関係にあります。そしてこの輪は、ワルダイエルの咽頭輪と称されます。その意味で、確かに扁桃を切除するのは好ましくありません。

けれどもこれら咽頭のリンパ組織が、全⾝の抵抗⼒の低下しているときなどに、余りにも忠実に防衛隊としての任務を履⾏すると、それはそれでしんどいものです。過ぎたるは及ばざるがごとし、ということでしょう。なぜなら、いつも外から⼊るばい菌との戦いが扁桃を戦場として⾏なわれ、扁桃は膿つまりばい菌と⽩⾎球の死骸でいっぱいとなってしまいます。熱も上がります。体には負担がかかります。習慣性扁桃炎とは、⾔わば扁桃がそんな常戦場になっている状態なのです。それではもちろん、全⾝に持続的な悪影響があります。

従って扁桃を摘出するかどうかは、この両者の兼ね合いから検討せねばなりません。もちろんその前に、抗⽣物質などの内服薬がどの程度有効なのか、確認すべきです。習慣性扁桃炎が昔ほど⽬⽴たなくなった背景に、⾷事内容の改善と抗⽣物質の発達とが関係しているからです。

その上で、例えば私たちの扁桃摘出術の基準はこうです。これを参考に、主治医とご相談ください。①1年間に5〜6回以上扁桃炎をこじらせるとき、②普段から⾎液検査にて、異常の認められるとき、③⼦どもで扁桃の肥⼤が強く、夜間の睡眠障害から発育障害に⾄るとき。

以前ほど多くないとは⾔うものの、今でも扁桃を年に何回もひどく腫らす⼈を⾒ます。前記①は、そんな⼈のことです。また②のように⾎液検査で異常が⾒られると、病巣感染と⾔いますが、扁桃の炎症が体の他の部位の強い病的反応を引き起こし、例えば腎臓を痛めたりします。さらに③に述べたように⼦どもで扁桃が余りに⼤きいと、睡眠時にいびきが凄まじく、時に呼吸の⽌まることがあります。睡眠時無呼吸症候群と呼ばれるこの状態は、夜間の酸素⽋乏から発育障害を惹起し、⼦どもの成⻑や発育に妨げとなります。なんとか、⼿を打ちたいところです。

なお、この呼吸異常を引き起こす扁桃やアデノイドの肥⼤は、幼稚園から⼩学校低学年までの時期が最⼤で、それ以降は縮⼩します。⼿術のタイミングについては、それを考慮して決定すべきです。

 

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