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みみ、はな、のどの変なとき

94 いびきの手術

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いびきを健康のシンボルではなく、むしろ病気として扱うべきであることを主張したのは、実は⽇本の⽿⿐咽喉科開業医であった故・池松武之亮先⽣が世界で初めてです。

その池松先⽣がいびきを⼿懸けるようになったきっかけは、いびきのために⼀夜にして離婚されるはめに陥った、⼀⼈の若い⼥性患者の経験でした。

昭和27年の春、池松先⽣の医院を若い⼥性とその⺟親が訪れました。涙にくれるその⼥性は2⽇前に結婚し、その夜のいびきのために離婚を宣告されたのです。
 彼⼥は東京の⼤学病院を2軒回って、窮状を訴えました。しかしながら当時いびきはまともに相⼿にしてもらえず、親⼦は困りはてて池松先⽣のもとを訪れたのです。

池松先⽣も初めての体験で、何をどうして良いものかまったく判りません。
 けれどもその⼥性ののどを観察して、池松先⽣はふと気付いたのです。⼥性ののどは、のどちんこ(⼝蓋垂)の両脇の粘膜が幅広く、まるで⽔掻きのようにつながっていたのです。
 この部分の粘膜が呼吸の際に振動し、いびきの原因となっているのかも知れない。そう考えた池松先⽣は、親⼦の了解を得てその粘膜の切除⼿術を⾏ないます。

なにしろ世界で初めての挑戦です。池松先⽣は⼼配で、その夜は眠れませんでした。

しかし1週間後の朝、親⼦は当時貴重品だった野菜や卵をリヤカーに積んで、笑顔で池松先⽣の医院へやって来ました。⼿術は成功し、いびきはウソのように⼩さくなったのです。お陰で⼀旦は離縁されたものの、この⼥性は⾒事に復縁を果たします。
 この⼿術法は、⼝蓋垂・軟⼝蓋・咽頭形成術(UPP)として確⽴され、池松先⽣は「いびき研究の祖」として、世界にその名を知られるようになりました。

その具体的な⼿術法は、扁桃を切除し、⽔掻き状になったのどの粘膜を切除、縫合の後に⼝蓋垂を切り縫い付けます。現在ではこの⼿術は、レーザーを使⽤して⾏なわれるようになり、それはLAUPと呼ばれますが、狭くなっている気道を拡⼤してやる⼿術の基本理念に変わりはありません。 ただ最近は⼿術と他の治療法を併⽤して、相乗効果を狙うことが多いようです。

 

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