3443通信3443 News

2024年1月 No.347

 

耳のお話シリーズ26
あなたの耳は大丈夫? 4
~大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授・元学長)の著書より~

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引き続き
 私が以前、学校医を務めていた聴覚支援学校。その前身である宮城県立ろう学校の教諭としてお勤めだったのが大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授)です。
 その大沼先生による特別講演の記事『聴覚障害に携わる方々へのメッセージ』(3443通信No.329~331)に続きまして、ここでは大沼先生のご著書『あなたの耳は大丈夫?』より、耳の聞こえについてのお話を一部抜粋してご紹介させて頂きます。


どこが違う? 伝音難聴と感音難聴
▼伝音難聴は治せる難聴
 外耳から中耳にかけてのしくみ(図8)に障害が起こると、音が聞こえにくくなります。音の物理的なエネルギーが、途中で妨害を受けて伝わりにくくなってしまうからです。このようにして起こる難聴が「伝音難聴(でんおんなんちょう)」です。
 耳垢がつまって外耳道をふさいでしまったり、鼓膜を覆ってその動きを悪くしてしまうと、伝音難聴になります。

P.25 図08
 図8


 また、年をとると外耳道のまわりの壁がたるんできます。おとろえた組織の一部が垂れ下がり、外耳道をふさいでしまって、音が伝わりにくくなることもあります。鼓膜に穴が開いたり、破れたりしても聴力が落ちますし、中耳に膿がたまる中耳炎は、鼓膜や耳小骨の動きを悪くして音を伝わりにくくします。
 入れ歯が合っていない、もしくは歯が抜けても入れ歯をしない人が、耳管にトラブルを生じさせて伝音難聴を招く場合もあります。
 耳硬化症という、中耳のアブミ骨が固定化して音を伝わりにくくする病気もあります。

 これらの伝音難聴のほとんどは、医学的に治療が可能で、治せる難聴といわれるものです。とはいえ、長期間放っておくと治せない難聴になってしまいますから、早めに病院に行くことが大切です。

▼感音難聴は治せない難聴
 一方、耳のもっとも奥にある内耳や聴神経などの障害で聞こえにくくなる難聴は、「感音難聴(かんおんなんちょう)」と呼ばれ、医学的に治療が伝音難聴とは区別されています。感音難聴は一般に、医学的な治療によって聴力を回復させることは困難で、治せない難聴といわれます。
 内耳には蝸牛があります。カタツムリのように約3回転の螺旋形をした蝸牛は、大豆ほどの大きさで、渦巻きの管をのばすと3センチほどの長さになります(図9)。この管の中にはリンパ液が満たされていて、中耳に集められた音によって波動を生じます。

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 図9


 蝸牛の内側にびっしりと並んだ有毛細胞はこの波動を感知して、電気的エネルギーに変換するのですが、音を分析する働きをも持つ有毛細胞は、よくピアノの鍵盤にたとえられます。しかし、ピアノには88個しかキーがありませんが、蝸牛には1万5000個以上のキーが並んでいます。

 ピアノでは7オクターブちょっとの周波数の範囲が弾けますが、蝸牛では、ピアノよりも1オクターブ低い音から2オクターブ高い音まで、有毛細胞のキーが割り当てられています。蝸牛の入口付近には非常に高い音を受け持つキーが並んでいて、奥のほうにいくにつれて低い周波数の音を受け持ち、蝸牛の先端では、2万ヘルツもの高い周波数に反応するようにできています。

 これら有毛細胞の先には4万本もの聴神経が電線のようにつながれていて、音の情報を脳に伝えます。音を受け取った脳は、それらを認識できるように処理し、意味のある言葉や音楽などとして理解するのです。内耳から脳までの道のりに障害があっても、音は聞こえにくくなります。

▼障害が蓄積されていく老人性難聴
 伝音難聴は「音の損失」、対する感音難聴は「聴覚の損失」だといわれます。
 いわゆる老人性難聴というのは、耳から入った音が大脳で理解されるまでの道筋のすべてに老化が始まって起こるものです。伝音難聴と感音難聴の両方にまたがったものを「混合難聴」といいますが、老人性難聴はどちらかといえば感音難聴に近いものの、混合難聴の特徴も合わせ持っています。

 年をとると鼓膜や耳小骨が固くなって動きが悪くなり、音の伝達効率が低下してきます。有毛細胞や聴神経の数も減り、大脳での音の情報を処理するスピードも遅くなります。老人性難聴では、聴覚器官の部分部分の不利はわずかであっても、聴覚経路を進むにつれて障害が蓄積されてしまい、音の感受性が相当悪くなってしまうという結果を招きます。

【前話】あなたの耳は大丈夫?2

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