3443通信3443 News

2024年2月 No.348

 

耳のお話シリーズ27
あなたの耳は大丈夫? 5
~大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授・元学長)の著書より~

図00a図00b


引き続き
 私が以前、学校医を務めていた聴覚支援学校。その前身である宮城県立ろう学校の教諭としてお勤めだったのが大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授)です。
 その大沼先生による特別講演の記事『聴覚障害に携わる方々へのメッセージ』(3443通信No.329~331)に続きまして、ここでは大沼先生のご著書『あなたの耳は大丈夫?』より、耳の聞こえについてのお話を一部抜粋してご紹介させて頂きます。

難聴の聞こえの疑似体験はできるか
▼感音難聴の聞こえは理解不能?
 難聴の耳では、音や言葉はどのように聞こえているのでしょうか。最近では、高齢者や身体障害者の体の不自由さを理解してもらうためのさまざまな道具や装置が用意され、比較的容易に運動の障害を疑似体験する機会がもてるようになりました。
 しかし、感覚障害と呼ばれる聴覚や視覚の障害を、疑似体験するための方法や装置の開発は、あまり進んでいません。とくに、難聴は外見ではわからないので気づかれにくい障害です。そのうえ、聞こえの障害を適切に解説する手段がなかなか見つからないという難点があって、ほかの障害に比べて理解が非常に遅れています。
「音の損失」といわれる伝音難聴は、耳栓をするなどの方法で比較的簡単に体験できます。しかし、「聴覚の損失」といわれる感音難聴の聞こえ方を正常な聴力をもつ者が体験しようとしても、ほとんど不可能に近いのです。

▼伝音難聴の疑似体験は耳栓でできる
 自分の指で両耳にきっちり栓をしてふさぐと、周囲の音が小さくなります。これが中等度(聴力レベル40デシベル程度)の伝音難聴の聞こえ方に近いものです。
 駅の売店などで売られている耳栓を外耳道にしっかり装着すると、音声の主な周波数帯(500~4000ヘルツ)で、中等度程度の伝音難聴の疑似体験ができます。小さな音、離れたところからの音が聞きにくくなるのがわかるでしょう。
 それでも、大きい音は比較的よく聞こえるはずです。伝音難聴を模したこの状態でも、音を大きくして聞かせたなら、正常な聴力の聞こえとあまり変わらないものであることが確認できます。つまり、外耳や中耳に障害のある伝音難聴では、大きな声で話したり、補聴器で音声を増幅することで、簡単に聴力の不足が補えるということです。

▼骨で聞く
 次に、耳栓をしたまま声を出してみましょう。自分で出した声がこもって、ずいぶん大きく聞こえることに気がつきます。伝音難聴の場合には、自分の喉頭から出した音の振動が、自分の頭の骨を伝わって、直接正常な働きのある内耳に届くからです。これを「骨導聴力(こつどうちょうりょく)」といいます。
 感音難聴の場合、骨を伝わってきた音が内耳へ届いても、肝心の内耳に障害があるために、骨導聴力は働かないわけです。感音難聴の人に比較的大きな声でしゃべる傾向があるのは、このためです。

 それに対して、伝音難聴の人には静かに話す傾向があります。自分の声が骨導聴力の働きによって、よく聞こえるからです。そのうえ、ややうるさいような場所でも、ささいな騒音は伝音難聴の人の耳には聞こえません。それで自然と声が小さくなるのです。うるさい場所では、むしろ正常な聴力の人のほうが大きい声で話してしまうようです。

P.31 図10
 図10


【前話】あなたの耳は大丈夫?2

[目次に戻る]