3443通信 No.364
耳のお話シリーズ43
「あなたの耳は大丈夫?」21
~大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授・元学長)の著書より~


私が以前、学校医を務めていた聴覚支援学校。その前身である宮城県立ろう学校の教諭としてお勤めだったのが大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授)です。
その大沼先生による特別講演の記事『聴覚障害に携わる方々へのメッセージ』(3443通信No.329~331)に続きまして、ここでは大沼先生のご著書『あなたの耳は大丈夫?』より、耳の聞こえについてのお話を一部抜粋してご紹介させて頂きます。
人は生まれたときは高い音を聞いている
▼赤ちゃんが聞いている音
20ヘルツくだいの低い音から2万ヘルツくらいの高い音まで、周波数を次第に変化させながら、スピーカーから一定の強さで音を出したとします。生まれたちの赤ちゃんの周波数の音のところが共鳴して、急に大きくなって鼓膜にとどきます。
その同じスピーカーからの音が大人の耳に入ると、3000ヘルツあたりの周波数が急に大きくふくらんで、鼓膜にとどきます。これは、外耳道の共鳴効果(22ページ参照)によるものです。赤ちゃんの外耳道のサイズは小さいので、高い周波数に共鳴が起こります。大人では外耳道が長いので、低い周波数に共鳴が起こるのです(図34)。

図34
赤ちゃんに聞いて確かめるわけにはいかないので断定はできませんが、たぶん生まれてからだんだん成長し、外耳道のサイズがある程度大きくなる(生後9カ月ぐらい)までの間に、聞こえている音色がだいぶ変わっていることでしょう。
赤ちゃんが生まれる前に聞いている音は、血流や心音など雑音性の高い低音である胎内音です。外界からの音も聞こえているかもしれませんが、母親の体や羊水越しに聞いていますから、いずれにしても低い音のはずです。
ところが生れ落ちた瞬間から、180度転換していきなり超高音を聞かされることになるのですから、音環境の変化はものすごいといえるでしょう。
▼赤ちゃんの聴力に合わせた話し方
赤ちゃんの聴力は成人の10分の1ぐらいだと考えられています。聴力は生後6カ月ぐらいまでの間に、だんだん敏感になっていきます。はじめからペラペラと早口で話しかけるよりも、ゆっくり情愛を込めて語りかけたほうが、それ以後の聴覚や聴能の発達によい影響を及ぼすのではないでしょうか。
お年寄りの難聴からはちょっと話がずれますが、赤ちゃんが声をかけても反応しなかったり、大きな音や変わった音がしても注意を向けないというようなときは、順調に聴覚が発達していない可能性もあります。乳幼児期の聴覚障害は発言能力や言語の理解、表現力などにも大きな影響を与えるので、早めの発見と適切な治療が望まれます。
そして、聴覚はそれ以降もどんどん発達していき、18歳から24歳ぐらいまでがもっともよい聴力を発揮する時期となります。
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