3443通信 No.365
耳のお話シリーズ44
「あなたの耳は大丈夫?」22
~大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授・元学長)の著書より~


私が以前、学校医を務めていた聴覚支援学校。その前身である宮城県立ろう学校の教諭としてお勤めだったのが大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授)です。
その大沼先生による特別講演の記事『聴覚障害に携わる方々へのメッセージ』(3443通信No.329~331)に続きまして、ここでは大沼先生のご著書『あなたの耳は大丈夫?』より、耳の聞こえについてのお話を一部抜粋してご紹介させて頂きます。
人の声が人の声を聞きにくくする
▼もっともやっかいなノイズ
人の声を聞くのにいちばんいいのは、そこにその人の声だけがするといった状態です。音を聞き取る邪魔になる雑音をノイズといいますが、人の声を聞くとき、もっとも邪魔になるノイズは他ならぬ人の声なのです。
人の声とかけ離れた音、たとえば4000ヘルツぐらいのピーという高い音は、気にはなっても、さほど聞き取りの邪魔にはなりません。明らかに人の声とは違う音は、軽いノイズなのです。
これに対して、低い周波数の音、ブーンというモーター音とか低めのサイレンの音などは、人の声に被さって聞き取りをむずかしくするやっかいなノイズです。
学校の教室で生じる机やいすを引きずる音も、ノイズになります。耳を澄ませて聞いていると、これらの音はひっきりなしにしていて、難聴の子どもが授業の内容を聞き取る妨げとなっています。
しかし、これらの低い音よりもさらに邪魔になるノイズは、聞きたい人の声に似た別の人の声です。良く似た声の人に、同時に同じ音量で、同じぐらいの位置から話しかけられたら、正常な聴力の人でも聞き分けるのがむずかしいでしょう(図35)。

図35
▼プラットホームの同時アナウンス
よく似た声が重なると聞き取りにくいという現象は、日常生活の中でも体験することができます。いくつかホームがある駅で、あっちとこっちのホームで同時に、発車案内のアナウンスが行われるのを聞いたことはないでしょうか。
同じような声のアナウンスが同じボリュームで流れるとき、正常な聴覚をもってしても正しく聞き取ることはむずかしいものです。
聴力に障害のない人でも、何を言っているのかわからず、もどかしい思いをします。
たくさんの乗客の中には、耳の遠いお年寄りもいるだろうし、聴覚障害の人だっていないとは限りません。ほんのちょっと時間をずらしてアナウンスしてもらうだけで、これらの人々にとって、だいぶ内容が聞き取りやすくなります。配慮してもらえたらうれしいことのひとつです。
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