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3443通信 No.366

 

耳のお話シリーズ45
「あなたの耳は大丈夫?」23
~大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授・元学長)の著書より~

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 私が以前、学校医を務めていた聴覚支援学校。その前身である宮城県立ろう学校の教諭としてお勤めだったのが大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授)です。
 その大沼先生による特別講演の記事『聴覚障害に携わる方々へのメッセージ』(3443通信No.329~331)に続きまして、ここでは大沼先生のご著書『あなたの耳は大丈夫?』より、耳の聞こえについてのお話を一部抜粋してご紹介させて頂きます。

部屋の響きは声をわかりにくくする
▼コンサートホールの講演は聞きにくい
 音声は壁などにぶつかると、反射します。トンネルの中のように上下左右が壁に囲まれた場所で声を出すと、大きく響いて聞こえるのは、誰もが経験することでしょう。
 というと、音が大きく聞こえるのだから、響きのいい部屋の方が耳の遠い人にとってありがたいのでは、と考えてしまいそうですが、これは早合点です。
 むしろ、音の響きのいい部屋では、言葉は聞き取りにくくなります。
 言葉がよく響くと、前の音がまだ空気中に漂っているうちに、次の言葉が発せられるため、音声のマスキング効果が起こって聞き取りの妨げになるのです。つまり、前の音に次の音が消されてしまうのです。

 たとえば、コンサートホールで講演会が行われると、音がとんでもなく響くので、とても聞きにくく感じます。音楽なら互いの音が響き合って、心地よいハーモニーが生まれるからよいのですが、言葉が響き合うのは聞きにくいだけです。
 音楽を気持ちよく聴くためには響きのよい部屋が必要ですが、言葉を気持ちよく聞くためには、あまり音が響かない部屋のほうが好都合です。

▼教会で説教を聞くのがつらいわけ
 教会は、賛美歌や聖歌などの音楽が美しく荘厳に聞こえるよう、響きのよい造りになっています。ですから、教会で話を聞くのは、コンサートホールで話を聞くのと同じぐらい聞きにくいのです。耳の遠くなったお年寄りには、とりわけつらいことでしょう(図36)。

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 こういったことがわかると、オペラホールの設計がむずかしいことが理解できます。オペラは歌劇ですから、音楽を美しく聴かせつつ、言葉であるセリフも正しく聞き取ってもらわなくてはならないからです。言葉が打ち消されない範囲で、最大限音を響かせる構造が、オペラホールには要求されるのです。

▼つらいレントゲン検査
 人間ドックに入ってバリウムを飲まされ、胃のレントゲン検査を受けた人はおわかりでしょう。別室の検査技師がマイクでいろいろと指示する言葉が、コンクリートの壁でできた部屋の中にこだまして、よく聞き取れません。ただでさえ緊張している中高年齢者には、とまどうばかりです。
 言葉を聞き取りやすいのは、静かで、なおかつ音が響かない部屋です。音の残響時間が短くなればなるほど、言葉の聞き取りは楽になるのです。


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