3443通信3443 News

3443通信 No.369

 

耳のお話シリーズ48
「あなたの耳は大丈夫?」26
~大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授・元学長)の著書より~

図00a図00b


 私が以前、学校医を務めていた聴覚支援学校。その前身である宮城県立ろう学校の教諭としてお勤めだったのが大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授)です。
 その大沼先生による特別講演の記事『聴覚障害に携わる方々へのメッセージ』(3443通信No.329~331)に続きまして、ここでは大沼先生のご著書『あなたの耳は大丈夫?』より、耳の聞こえについてのお話を一部抜粋してご紹介させて頂きます。

人が音を聞き取る4つのレベル
▼検知、弁別、識別、理解
 音や音声を聴覚的に知覚するレベルは、4つに分けられます。
 たとえば、病院の待合室に座って、「竹下さん」と名前を呼ばれるのを待っているお年寄りの例でみてみましょう。

 人のざわめきやテレビの音がしている中で名前を呼ばれたとき、「何か音がしたのかな?」と顔を上げる。しかし、それがテレビの音か、隣の人の会話か、自分の名前のアナウンスかは判別できない。気がついたのは音の有無だけ。このような聞こえ方を「検知」といいます。

「あ! アナウンスかな?」と、テレビの音や隣の人の会話とは違う音がしたことがわかる。音の違いには気がついた。しかし確信がもてず、あたりを見回したりしてみる。このような聞こえ方を「弁別」といいます。

「あ! 誰かの名前が呼ばれたぞ」と、テレビの音でも隣の人の会話でもなく、アナウンスされたことがはっきり認識できる。このような聞こえ方を「識別」といいます。

「自分の名前が呼ばれた。今度は私の番だ。さあ、行こう」と、アナウンスの意味を了解して、正しい解釈をし、行動をとろうとする。これを「理解」といいます(図40)。

図40 P.91
 図40


▼耳は検知器、理解するのは脳
 しかし、聴覚的知覚のレベルは、検知ができてから弁別へ、次に識別へと段階をふまなければ理解のレベルに到達できないというわけではありません。検知、弁別、識別のどれかの聞こえをじょうずに働かせて、一気に意味の理解までもっていくことも可能です。

 音を聞く主役はもちろん耳ですが、それを知覚し、識別し、意味内容を了解・解釈するのは、脳の働きです。極端にいえば、音は脳で聞いているといってもよいでしょう。
 音の有無に気がついただけで、それを手がかりに周囲の状況を判断し、類推や予測を働かせ、もっている知識や情報を総動員させて、あたかも本当に聞いて理解したかのように適切な行動がとれる人もいます。

 逆にいえば、音がはっきり聞こえていても頭の働きが鈍くなったら、音声に反応して適切な行動をとることができなくなります。
 ですから聞こえが悪くなったからと、クヨクヨ気に病むのは、聴取能力に対してマイナスです。細かい聞き分けにこだわっていると、いつまでたっても先へ進めません。

 年をとったら聴力のおとろえはしかたのないことといさぎよく気持ちを切り替え、そのぶん、年をとっても柔軟に頭を働かせて補えばよいと前向きに考えることが、難聴を克服する秘訣であるといえます。


【前話】「あなたの耳は大丈夫?」25

[目次に戻る]